夢と希望
話が遅々として進まず申し訳ない。
ー私は夢を見ている。
真っ暗な中を一人ただ彷徨うようにフワフワと浮かんでいる。不思議と意識は鮮明である。
見たことのないはずの景色、ただの暗闇のはずにも関わらず見覚えがあるような気がする。
これが既視感とかいうヤツだろうか。何も存在しない暗闇の空間は私の思考をよりクリアにしていく。
研ぎ澄まされた思考は空間の違和感を捉える。
ただその一点に意識を集中させる。
するとなにやら星のような小さい光の粒が無数に浮かび上がってきた。
光は宙を彷徨うことなくまるで意志を持っているかのように集まっていく。 その幻想的とも言える光景に心奪われる。
次第に光は形を作ってゆく。 だんだんと輪郭が見えてきた。
どうやらヒトの形をしているらしい。
のんびりとその光景を眺めているとふと気が付く。
光が熱を帯びている。しかしそれは私に熱いとは感じさせず、どこか懐かしいぬくもりを感じさせる。ヒトの暖かさを彷彿とさせる光に私は何故だか母上を思い出す。一体なぜ?
私は探る。
この懐かしさの正体を。このぬくもりの正体を。
私は不意に思い出す。
そうだ、母上に抱かれた時の暖かさだ。母上に抱かれたあの感触、におい、そしてとても落ち着く感じを思い出す。
それに気付くと自然と納得がいく。知らないはずの光がどこか懐かしく感じるわけを。
気付けば無数の光たちの行進は終了し私の前にヒトのようなものが浮かび上がっていた。
女性のようなそれは光の粒子をきらめかせ、その背中にはまるで太陽を背負っているかのごとく後光が差していた。
美しい? 幻想的? 荘厳?
いや、そんな言葉では足らない。 それどころか言葉で言い表すことなど到底無駄に思える。
それでも言葉にするとしたら?
神々しい、だろうか。私は自分のボキャブラリーのなさに少々へこみながら目の前の女性?を見る。
100人中100人が美しいと答えるであろうその顔はひどく歪んでいた。
悲しみ、後悔、躊躇い、そんな感情たちに彩られているようである。
「ごめんなさい」
女性が口を開く。
「私にはこうすることしかできなかった。 たとえまた失敗するかもしれないと分かっていても。
それでもあなたたちに縋るしかなかった、あなたたちに希望を託すしかなかった。
分かってくれとは言わない。 私の事情に巻き込んでしまったのだから。
憎んでくれて構わないわ」
それでも私はこの選択をする。
私が犯した大罪を終わらせるためにも。
歪んだこの世界に終止符を打つためにも。
「せめて貴女を待ち受けるその運命に幸あらんことを」
女性は悲しそうに微笑む。
そして女性の姿がだんだんと薄れてゆく。はじめからそこに何も存在していなかったかのように。
光が散ってゆき世界は再び暗闇に包まれた。
一体何だったのだろうか? 私は考えてみる。
しかしいくら考えたところで答えなど浮かび上がってこない。あの女性が誰なのか、何を言っていたのか。
私にはサッパリ分からない。心当たりもない。
ただ、あの女性にどこかで会っているような気もする。
そもそもこれは私の夢の中である。私はそれを自覚している。
夢は記憶の整理である。
どこかの科学者がそんなことを言っていた。 ならば何も不思議ではない。見覚えがあるような気がするのも、意味が分からないのも。
そう決めつける。 夢など考えても意味のないものなのかもしれない。
それにしても変な感覚だ。意識がこんなにもはっきりとしているのに夢から覚める気配もない。
これが明晰夢ってやつだろうか。ヒトの身体の神秘が垣間見た気がする。
そんなことを思っていると意識が暗転した。
チュン、チュン
庭のほうでスズメが鳴いている。
朝がきたらしい。
私は気だるい身体を起こす。あの変な夢をなんとなく覚えている。そして次に思い出すのは昨日のこと。
「確かに貴女のお腹の中には新しい生命が宿っていますよ」
「貴女の子は立派なモノを持っているわ。それもとびきりのモノを」
鏡さんの言葉を思い出す。-私のお腹の中にはたしかに新しい生命がいる、そして立派な素質を持っている。その事実をようやく飲み込む。次いで実感が湧いてくる。
「私は母親になったんだ」
独り言がこぼれる。そして実感と同時にやはりというか不安も感じる。
でも私は揺らがない。そう決めたんだ。覚悟はできている。
それに今すぐに出産するというわけではない。まだ時間はある。
母上が言っていたように私だってこれから母親として成長するのだ。
大丈夫、落ち着け私。今から焦ったってしょうがない。今できることをやればいいのだ。
そう考えると少し気が楽になる。
そして私は日常へと舞い戻る。
朝起きてご飯を食べ夜には街の屍を討ちに行く。そんな日常に最近は花嫁修行ならぬ母親修行が加わった。
ミルクの作り方を覚えたり、おしめの取り替え方を覚えたり。分からないことは母上に教わったりしながら着々と準備を進めている。
そんな生活が3か月ほど続いた。
お腹のふくらみが目に見えるようになってきた頃、そろそろ派手な運動をするのも危ないからと言って分家のひとたちが討魔の仕事を代わってくれるようになった。
大人数を動員させることになり非効率的になるがしょうがないらしい。この時期になると代々そうしてきたらしい。
いよいよ私も母親になるのだと改めて感じる。
母上が私にしてくれたように私もまた我が子にめいっぱい愛情を注ぐのだ。
そういえばまだ名前を決めていなかった。どんな名前にしようか、やっぱり可愛い名前がいいだろうか、私は悩みに悩む。
2か月くらい悩んでいただろうか。悩み抜いた末に私は我が子の名前を決めた。
「優希」
優秀であれ、人々を救う希望であってほしい。
その想いからこう名付けることにした。
我が子の名前を決めたとき、より一層の愛情が湧いてきた。
私はこの子に恥じない母親になろう、そう決めた。
私の人生の中で初めての目標ができた。
私は怖い夢とカオスな夢ばかり見るタイプです。




