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覚悟

女性って強いですよね。

鏡を見ると目を真っ赤に腫らした私がいる。我ながらひどい顔をしている。

蛇口をひねり水をすくってそこに顔を近づけ目を閉じる。

冷たい水が火照った顔を冷やしてくれる。ちょっと目にしみるけど今はそれすら心地いい。

「ふぅー」

ちょっとさっぱりしたところでわたしはタオルで顔を拭き洗面所をあとにした。


私の住むここら辺の土地はまだ開発がそれほど進んでおらず家も少ない。まぁ都心部から離れた、しかも妖魔の住まう土地からそう遠くない場所に好き好んで住もうと思うやつなどそうそういないだろう。今は妖魔が攻めてくることはないがいつそれが終わるかも分からない。そんなわけでここら辺は世間一般でいうド田舎といわれるやつだ。私の屋敷と鏡さんの屋敷が近所にあると言っても歩くには少しばかり遠い。

私は玄関で愛車の鍵を取り屋敷の正門の方へと歩き出す。娘ができたら一緒にドライブでもするのだろうか?そんなことを思い浮かべながら歩を進めているといつの間にか門のところへ到着していた。

門のそばには私の愛車である大型のバイクがおいてある。妖魔を討伐に向かうときにはさすがに使わないが昼間のちょっとした外出などにはお世話になっている。なぜ使わないのか?そんなのは決まっている。代々受け継がれてきた力があるからだ。


私たち神楽一族は陣を操る能力を持って生まれる。攻撃の陣、防御の陣、身体補助の陣など様々な陣を操る。そして操るだけでなく代々改良を積み重ねてきた。一握りの天才は改良に重ねアレンジを付け加えてきた。その一つに「飛翔の陣」というものが存在する。その名の通り自在に空を飛びまわることができる。この陣のおかげで私たちは空を自由に飛び回ることができる。先祖さまさまということだ。


ところで私たちが描く陣というものは一画一画に意味がある。しかし私にはそれがほとんど分からない。辛うじて分かるのはそれが攻撃用か防御用かということくらいだ。だから私は先祖の編み出した陣を有り難く使わせてもらっている。このあたり私が素質がないと言われる所以である。普通は基本となる陣に多少の手を加え自分に合った形にするらしい。

まぁ今更ないものをねだったところでどうしようもないので諦めは既についている。私の子に素質のなさが遺伝しないだろうか、それが心配ではある。



なんて考えている間に鏡さんの屋敷に到着した。

良かった。門は開いている。

「すいませーん」

大声で呼んでみる。

「あら、琴音ちゃん? 中に入ってちょうだい」

奥の方から返事が聞こえたので門をくぐって庭を抜ける。

鏡さんは縁側のほうでお茶を飲んでいた。

「琴音ちゃんの方からうちへ来るなんて珍しいわねぇ」

そう言ってこちらに顔を向ける。

鏡さんは今年で78歳になるおばぁちゃんだ。

「お久しぶりです、鏡さん。 実はちょっとした事情がありまして…」

そう言って私は事情を説明し始める。



「琴音ちゃんももうそんな歳かい。 大きくなったねぇ」

私が事情を説明し終えると鏡さんは感慨深そうにそう言った。その目はまるで孫を見ているようである。

「ちょっと待っててちょうだい」

鏡さんはそう言って部屋の中へ向かっていった。


しばらくして戻って来た鏡さんは眼鏡を掛け、珠数らしきものを手にしていた。

「これがなきゃ何も視えなくてねぇ」

そう言いながら鏡さんは私の正面に座る。そして一呼吸して、

「我、天に願い奉るは視の権能成り。今一度我にその権能賜へ給うを以ちて奉納の儀となす」


呪い(まじない)(ことば)が終了し鏡さんは目を閉じる。


5分程経ったであろうか。いや、実際には1分も経っていなかったのかもしれない。

そんな長くて短い時が過ぎ鏡さんは目を開いた。

そして、

「おめでとう、琴音ちゃん。確かに貴女のお腹の中には新しい生命が宿っていますよ」

鏡さんは確かにそう言った。

「やったぁぁぁぁ」

私は雄叫びを上げる。

まずやらなければいけないことは何だろうか。赤ちゃんの育て方を知ること?それとも服の準備?さすがにそれは早い気がする

「ーちゃん、琴音ちゃん!」

「は、はいっ」

急な声に驚いて返事をする。

「まだ大事な話が残っているわ」

そう言って真剣な眼差しを私に向けてきた。

私は慌てて姿勢を正す。


「貴女はその子の素質について訊く勇気があるかしら?」


私は息が詰まる。

まさかこの場でもうそんなことを訊くことになるなんて思いもしなかった。


もしこの子に素質がなかったら?


私はその苦しみを十分に理解している。

こんな苦しみなど経験しないほうがよい。


それでも苦しみを知らなければならないのなら、

私がただひたすらに考えよう。

我が子を苦しみから逃す術を。

私がただひたすらに盾になろう。

我が子を火の粉から守るために。


そして我が子を愛そう。

母上がそうしてくれたように。



震えそうになる唇を噛みしめる。

湧き出る不安を押し殺す。

覚悟を決める。 大きく息を吸う。

そして、


「私は知りたいと思います。

もしこの子が素質に恵まれなかったとしても、周囲から厳しい目で見られなければならないとしても。


今知れば考えることができます。

我が子の力を伸ばす術を、我が子を守る術を。


私は我が子に同じ苦しみを味わってほしくない。

今できることをやらずに後悔はしたくない。


だからお願いします、私に教えてください」

言い切った。


ドクンッ ドクンッ

心臓の鼓動はうるさいくらいに鳴り響く。

汗が止まらない。


鏡さんは何も言わず私を見ている。

おかしくなりそうだ。

不安で押し潰されそうになる。


永劫を思わせる時が過ぎ鏡さんが口を開いた。

「今の貴女はとてもいい顔をしているわ。覚悟を決めた顔、立派な母親の顔よ。

何も心配なんていらないわ。

貴女の子は立派なモノを持っているわ。それもとびきりのモノを」



私はそれからどうやって屋敷に戻ったのか覚えていない。

それどころか晩ご飯を食べたかすら覚えていない。

気付けば布団の中にいた。


今日はいろんなことがありすぎた。考えるのは明日でいい。今日はもう寝よう。


そうして私の長い一日が終わろうとした。





まだまだ子供は生まれません。

暫くお待ちあれ。

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