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知らないのは、あなただけ  作者: Kouei


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最終話 あの日の約束(side:コニファー)

「コニファー、なぜあなたがここに…」

 

 イスクの従者であるルークが、デュボアを連れてきた。

 応接室に通されたデュボアはイスクに呼ばれたと思い、笑顔で入って来たわ。

 ところが私も一緒にいた事で困惑している。


「コニファーには全て話したよ。君から彼女の学院での様子を随時報告してもらっていた事を。それにカフェで君といたのは、彼女が刺繍したハンカチーフをもらうため。洋装店へ行ったのはそのハンカチーフの代わりになるものを君に渡すため。君の宛名が書かれた封書は、君がコニファーの事を手紙で報告してくれた事への礼状だったはずだ。それがなぜ、君にプレゼントを贈り、文通している事になったんだ? それに君と会う時は、必ずルークを伴っていた」


 イスクが畳みかけるように、デュボアを問い詰める。

 二人が一緒にいた事に意識が向いて、ルークがいる事に全く気付かなかったわ…


「そ、それは…」


 デュボアは必死で答えを探すかのように、目を泳がせていた。


「君は僕との間にさも関係があるような言い方をし、コニファーの不安を煽(あお)った。そして事もあろうか僕たちの間を裂こうとした!」


「……だ、だって…あなたとコニファーとではどうみても…不釣り合いだわっ」


「なんだと?」


 鋭い目をデュボアに向けるイスク。


「あなたに似合うのは私のような美しさを兼ね備えた女性なのよ。そう、あなたにふさわしいのはこの私よっ!」


「自惚れるのも大概にしろっ! 君は僕たちの何を知っていると言うんだ!」


「知ってるわ! あなたたちの婚約はご祖父様同士の軽口で行われたもの。イスクール様の本意ではなかったって事を!」


「は? 誰がそんな事を言った?」


「私はあなたと同じ中等学院でしたわ! 学院でもあなたは女子生徒の注目を浴びていた。そこで皆言っておりましたっ!」


「どこの皆の事を言ってんだか…そう、君の事を調べたが同じ中等学院だったそうだな」


「そうです! 同じクラスで、あなたの隣の席で! やっぱり覚えて下さって…」


 デュボアが嬉しそうに笑みを浮かべる。

 

「いや、記憶にない」


「――――――え?」

 

 けどイスクの言葉にポカンと口を開け、呆(ほう)けた。


「だから、君の事を全然覚えていない」


「そ、そんな…嘘…っ コニファーの前だからって、お隠しにならなくてもいいのですっ あなたはいつも私に挨拶をして下さった! 野外活動では転びそうになった私を助けて下さったわ!」


「全く記憶にない」


「記憶に…ない…? う、嘘よっ 嘘っ嘘っ嘘!」


 両手で頭を押さえながら、叫ぶデュボア。


「話にならないな、彼女を連れて行ってくれ」


「い、いやっ 離して! コニファー! あんたなんかがイスクール様の傍にいていいと思ってんの!? 図々しい女! さっさと身を引きなさいよ!!」


 デュボアはルークに連れられて、部屋を出て行った。


 この時、私はやっと気づいた。

 デュボアはお茶会でイスクに惹かれたのではない。

 中等学院からイスクを好きになり、ずっと思い続けていた事を…


 戻った静けさの中、先に口を開いたのはイスクだった。


「ごめん…きちんと間違いを認めさせ、君に謝罪をさせたかったんだが…逆に君をまた傷つけてしまった…」


 イスクは申し訳なさそうに目を伏せた。

 その言葉に、私は首を左右に振る。

 

「…デュボアはあなたの事が好きだったのね」


 私は複雑な思いで、その事実を口にした。


「本当に…彼女の事は全く覚えていないんだ」


 けれど、イスクの記憶の中にデュボアはいなかった。


『記憶にない』

『覚えていない』


 その言葉が繰り返される度に、デュボアの瞳から光が消えていくのがわかった。 


「でも、彼女はずっとイスクの事を思い続けていた…」


「かと言って、彼女のした事を許す事はできない」


「そうね…でも…私…今回の事で改めて考えたの…」


「え? な、何を?」


 私の言葉にイスクが焦った声で問う。


「イスクが私の事を想ってくれているのは…初めて会った同年代の女の子が、たまたま私だったってだけじゃないかなって。いわば…刷り込みのようなものなのかなって。


この国…いえ世界中には私より美しい女性や優秀な女性はごまんといるわ。あなたはそのごまんといる女性の中から選べる人なの。身近な私で妥協する事ない。


もともとおじい様達の軽口から始まったような婚約なんだもの……だから…っ

本当に…私でいいのかなって……思って……」


 学校の事もそう。

 私の存在は、イスクの世界を狭めているのかもしれない。

 その事に気づいてから、ずっと不安を抱(かか)えていた。

 

 私を選んだ事で、後々イスクが後悔するんじゃないかって…怖くなった。 


 けど……

 イスクは手紙に何度も気持ちを伝えてくれた。



『僕の愛する女性はコニファーただひとりだよ』



 そして、私の不安を払拭するかのように、イスクは迷いなく答えてくれた。


「刷り込みだったとして、それの何がダメなの?」


「え?」


「そこにいたのがコニファーだったという事が、すでに運命だと僕は思っているけど」


「イスク…」


 イスクの言葉は、私の杞憂を簡単に吹き飛ばしてくれる。


「僕は美しい女性や優秀な女性の中から誰かを選びたい訳じゃない。最初からコニファーしか欲しくないんだ。コニファーは違ったの? まぁ確かに、この世の中には僕よりいい男なんて山ほど…」


「い、いるわけない!」


 私は力いっぱい否定した。


「イスクより素敵な人なんて…イスク以上に好きになれる人なんていない!」


 7歳であなたと出会った瞬間、私の恋は始まったのだから…


「…僕もだよ、コニファー」


 イスクが嬉しそうに私の言葉を受け止める。

 そして、私の頬にそっと触れた。


「イ、スク…っ」

 

 イスクが私の両肩に手を置くと、真剣な目で私を見据える。 


 え!?

 こ、これってもしかして!?

 い、いつ目を瞑(つむ)ればいいのかなっ?


 ドキドキしながら見つめ合っていると、イスクが聞いてきた。


「……ところであの男は誰?」


「へ?」


 一瞬、何を聞かれているのかわからなかった。


「君が好きになったというあの男は…」


「あっ! ああああああ!! ち、ちがうのっ あの時はイスクが私と後腐れなく別れる為にと思って……その…じ、人材派遣所で雇った人なの…ご、ごめんなさい!」


「人材派遣所……」

 

 私は恥ずかしくて両手で顔を隠した。


 変な期待をしていた自分に!

 バカな事をしてしまった自分に!!


 きっとイスク、あきれてるわっ


 私は恐る恐る指の隙間からイスクの顔を覗き見る。

 

「イ、イスク…!?」


 イスクは、ぎゅうっと私を抱き締めた。


「よ…かった……後になって冷静に考えたら、君が裏切るはずがないって信じていたんだ…でも…やっぱりきちんと確認したくて…」


「イスク…」

 

「本当に良かった…っ 危うくあの男を消(・)す(・)ところだった…」


「…………うん?」


 い、今なにか物騒な言葉が…き、気のせいよね?

 私はイスクに抱き締められながら、別の意味でドキドキしていた。


「君があの男を連れて、婚約破棄宣言した時…僕、気を失ってて…」


「き、気を失う?? そ、そうだったの…」


 じゃあ、あの時何の反応もなかったのは…気を失っていたから?

 そんなに傷つけてしまっていたの?

 そうよね…逆にイスクが他の女性を伴って、婚約破棄したいなんて言われたら私だって…


「ご、ごめんなさい、イスク…。勘違いしていたとはいえ…私、あなたにひどい事して、本当にごめんなさいっ」


「違う。僕がコソコソと君を監視…み、見守るような事をしたからだ……ごめん」


 ゆっくり身体を放したイスクが私に謝った。


「それはちょっと驚いた。ふふふ」


 私は笑いながら答えた。


「本当にごめん。だから………今から教会に行こう!」


「は? 急に何? 教会!? え? 今から!? な、何を言って…っ」


 イスクの突然の言葉に驚くしかない。

 いきなり何を言い出すの!?

 しかも教会って、何をしに!?


「もちろん婚姻の手続きや式などは日を改めてきちんとするよっ だから今日は二人だけの誓いを立てよう、ずっと一緒にいる事への。だって昔、約束してくれただろう?」


 そう言いながら私に笑顔を向けるイスク。


「……ええ」


 幼い日の事を思い出す。

 

『結婚? コニファーと?』

『ずっと一緒? イスクと?』

『『うん、結婚する!』』



 今その約束が果たされようとしている。

 私たちは手をつなぎ、教会へと向かった。




⊷⊷⊷⊷⊷⊷⊷⊷⊷⊷⊷⊷⊷⊷⊷⊷⊷⊷⊷⊷⊷

今回で本編は終了です。

次回から後日談として、side:デュボア編(全3話)が始まります。

引き続き、お付き合いいただけましたら嬉しいです。

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