第7話 解けた誤解(side:イスクール)
コニファーに婚約破棄宣言された後、僕は正気を取り戻して、彼女に会いに行った。
何か…すれ違いを感じたから…
だから、きちんをコニファーと話をしたいと思った。
けれど、何度会いに行っても彼女の顔を見る事は叶わない。
会うのが駄目なら手紙と思い、何通も出したけど未だに返事は来ない…
でも幸いなのは、婚約破棄の事はご両親には話していないようだった。
もし聞いていたら、僕が伺った時点で問い詰められたに違いない。
という事は、コニファーの一時の感情からあんな行動をしたのだろう。
だったら、やはり何か誤解があるはずだ。
それに……
「絶対におかしい! デュボア嬢の今までの報告の中で男の話など一切出てこなかったし、男に関わらないようにと何度も念を押していた。なのに急に男と一緒に現れ、その男の事を好…っっ あ、ありえないっ! 彼女が僕を裏切るなんて、絶対にありえない! あの時は衝撃が強すぎて自暴自棄になってしまったが、冷静に考えるとあまりにも突然すぎておかしすぎる!!」
そして考える。
コニファーに何があったのかを…
「左様ですね。なぜコニファー様がイスクール様に、他に好きな人が出来たと思ったか…が問題ですね」
静まった水面に一滴を落とすようなルークの言葉。
「そうだ…何で彼女はそんな事を思った? そんなことあるはずもないのに。…誰かから何か言われた? 誰か……デュボア嬢か?」
「身近な線で、そう考えるのが妥当だと思われます。他にコニファー様以外の女性と関わった事はありませんから。それに…デュボア様のイスクール様を見る目が、私はいつも気になっておりました」
眉間に皺を寄せながら、ルークが語る。
「そうなのか? 全く気付かなかった」
「イスクール様はコニファー様以外のご令嬢には全くご興味がございませんから。それで、思い出しました」
「思い出すって何を?」
「デュボア様はイスクール様と同じ中等学院に通われておりました。お迎えに上がる際、いつもイスクール様をご覧になっているご令嬢たちの中におりました」
「え? 同じ中等学院? 半年も行かなかったから記憶にないけど…。それよりよく覚えているな、そんなこと」
「侍従ですから」
そう言いながら礼を取るルーク。
…多少の仰々しさを感じないでもない。
「でも、それがどうしてコニファーが婚約破棄する事に繋がるんだ?」
「横恋慕でしょう。あなたと図らずも連絡を取り合うようになり、時にはお会いするようになり、邪な考えが浮かんだのではありませんか? それを自分の都合のいいようにコニファー様にお伝えし、その結果、コニファー様があのような行動を取られたのではないかと…」
「はぁ?! 理解できない! 僕は必要以上に彼女に親切にしたつもりはない。コニファーの情報を貰った時はお礼の返事を出したが、事務的に簡素にしている。彼女と会う時も必ずお前を伴っていただろう? 会話はコニファーの事しか話していないし…なのに、どうしてそんな事になるんだ!?」
「さあ…女性の心を私に問われましても…」
「コニファーとデュボア嬢に何があったのか、あとデュボア嬢の事も調べてくれ」
「かしこまりました」
僕の指示を受けると、ルークはすぐに部屋を出て行った。
「もしルークの言う事が本当なら…」
僕は机の上に置かれた両手を、強く握り締めた。
◇
午後にはルークが調査報告書を持ってきた。
本当に仕事が早い男だ。
そこには、デュボア嬢が僕と同じ中等学院だった事、1学年に同じクラスだったことが書かれている。
「同じクラス? 知らなかった」
「しかも、隣の席でした」
「そうだったか!?」
この頃、コニファーのご祖父様が亡くなった。
食事を摂らなくなり、塞ぎ込んでいた彼女の傍にいたくて学院を途中で辞めた。
その後、コニファーと一緒に家庭教師の下で学び、中等過程を終えたんだった。
「これは…っ」
次の頁には、アガヴァンス家の侍女の証言が記されている。
そこにはデュボアがコニファーに発言した内容が書かれていた。
僕からハンカチーフをプレゼントされたと
僕と文通をしていると
そして…自分の方が僕にふさわしいと!
「あのクソ女!」
僕は手にしていた報告書を握り潰した。
「イスクール様、お言葉が乱れております。コニファー様が幻滅なさいます」
ルークの言葉にハッとし、咳払いでごまかす。
皺が寄った報告書を丁寧に広げた。
「こっちは…」
そこにはデュボアの家の経済状況が書かれていた。
「これ、使えるな。…なぁ、ルーク。確か隣国で噂になっている伯爵がいたよな」
「はい、その悪評は我が国まで届いております。コンソール家と隣国の伯爵家に打診なさいますか?」
ルークは、僕の考えていることをすでに察していた。
「本当に優秀な従者で助かるよ」
「もったいなきお言葉、恐れ入ります」
一礼するとルークは部屋を出て行き、実行に移った。
◇
「速達で来るとは…」
「よほど嬉しかったのでしょう」
僕の言葉を受けて、ルークが答える。
隣国の伯爵家から返事が届いた。
内容は予想していた通りだった。
「コンソール家は?」
「問題ありません。手放しで喜んでおりました」
「だろうな」
僕はニヤリと笑った。
コンコンコン
「失礼いたします。アガヴァンス様がお見…」
「コニファーが!?」
僕は侍女の言葉を最後まで聞かず、部屋を飛び出した。
「コニファー!」
ノックもせずに、勢いよく応接室を開ける。
「イスク…」
コニファーはソファから立ち上がり、僕の側に来た。
「…ごめんなさい…何度も来てくれたのに会いもせず…手紙にも返事をしないで……」
「いいんだ…全てわかっている。原因はデュボア嬢だろう?」
「あ…」
コニファーは答える代わりに、戸惑いながら頷いた。
「ルーク、デュボア嬢を連れてきてくれ」
「かしこまりました」
「イ、イスク…何をするの?」
不安げに僕を見るコニファー。
(可愛い…)
「全てを明らかにするのさ。その前に…デュボア嬢との事をきちんと弁明させてほしい」
「うん…」
ふたり並んでソファに座り、僕は今まであった事を包み隠さず話した。




