第2話 どうしてこんな事になったんだ!?(side:イスクール)
「…………」
ペタッ
「ハッ!」
おでこに張り付いたものに触れる。
「…葉っぱ………ぼ、僕は…?…」
立ったまま、気を失っていたのか?
そうだ!
さっきまでコニファーがいて…
「ま、待ってっ コニファーッ! ま…っ」
ドサッ
慌ててコニファーを追いかけようとしたが、足に力が入らずへたり込む。
もうとっくにコニファーの姿はないというのに…
コニファーは、あの男と共に去って行った。
僕以外の男と腕を組み、僕以外の男に身を寄せ、僕以外の男と……
言葉が出ない。
身体が動かない。
「きゃああああ!」
「人が倒れたぞ!」
女性の劈く悲鳴と騒めく喧噪が、どこか遠くで聞こえた。
そして…
次の瞬間、世界が真っ暗になった――――――…
「…お気づきになりましたか、イスクール様」
目を開くとそこには侍従のルークがいた。
その向こうには見慣れぬ天井。
「ここは…」
場所を確認するように、左右に首を振る。
「病院でございます。イスクール様は公園でお倒れになり、こちらへ運ばれました。身分証明書を確認した病院から連絡を受け、お迎えに上がりました」
病院…
どうやら僕は、あのまま卒倒してしまったようだった。
そしてまたあの悪夢が頭の中に蘇る。
『私は婚約者のあなたがいる身にも関わらず、他に好きな人ができました。なので、私との婚約は破棄して下さい』
なんで…どうして僕以外の男を好きに?
僕の何が嫌になったんだ?!
『けど、あなたも他に好きな人ができたのですから、慰謝料に関しては相殺して下さいね』
他に?
誰の事言ってるんだ?!
『これでイスクール様は本当に愛する方を迎える事ができますわ』
本当に愛する方って…君だよ、コニファー!
君以外にいるわけがないだろ!?
「なぜ…っ!」
僕は両手で目を塞いだ。
受け入れがたい現実を拒絶するかのように。
突然の婚約破棄。
おまけに恋人ができたという衝撃の告白。
さらにはその男にしな垂れかかり、立ち去って行ったコニファー。
君以外に愛する女性なんかいるわけないのに…それなのに君は僕以外の男の腕を取り、その腕にっ!……どうして、どうしてこんな事になったんだ!!
理解できない出来事に、僕の心はどうにかなりそうだった。
「…イスクール様、こちらが傍に落ちていたそうです」
そういって差し出されたのはリボンが付いた小さな箱。
コニファーに贈るために買ったハンカチーフ。
彼女と男の姿が、脳裏をかすめる。
「こんなもの!!」
ガンッ!
それを乱暴に受け取ると、病室の壁へ投げつけた。
僕は頭を抱えて、愛する人の名を呟く。
「コニファー…」
僕たちが初めて会ったのは7歳の時だった ―――――
春を映し出したような桃色の唇。
爽やかな新緑を映し出す瞳。
やわらかな秋色の髪。
雪景色を彷彿させる白い肌。
そしてぷっくりとした頬。
君の愛らしさに僕の心は秒で奪われた。
慣れないカーテシーをしようとして倒れてしまったコニファー。
そのしぐさもたまらなく可愛かったな。
僕は倒れた彼女の隣で、一緒に横になった。
そのまま挨拶をしたら、面白そうに笑ってくれたよね。
祖父たちが勝手に言い合っていた婚約。
でも僕は真剣だった。
祖父たちの話を聞いてコニファーも笑顔を返してくれた時、彼女も同じ気持ちだと思った。
『結婚? コニファーと?』
『ずっと一緒? イスクと?』
『『うん、結婚する!』』
その想いは成長しても、互いに決して変わる事はない。
…そう思っていたのに。
なのに、僕以外に好きな男ができたと…
僕に君以外に好きな…人…が…?
……どうしてコニファーがそう思ったのか分からない。
けど…誰の事を言っているのかは察しがついた。
コニファーの友人であるデュボア・コンソールだ。




