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知らないのは、あなただけ  作者: Kouei


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10/11

後日談:2 理解できない現状(side:デュボア)

 

 女子高等学院の入学式当日。

 

 私はコニファーが近くに来るのを見計らって、具合が悪そうなそぶりを見せた。

 うまく彼女との繋がりが持てたわ。

 さらに同じクラスという事が分かり、運は私の味方をしてくれていると思った。


 その後、コニファーにお茶会へ呼ばれ、そこでイスクール様にお会いする事ができた。


 ああ! やっと…やっとお会いする事ができた!

 久しぶりに私と会って、驚かれるかしら? ふふふ。

 

 しかし、コニファーが私を紹介した時、イスク様が言った言葉は…


「初めまして」

 

 え……?

 同じ中等学院に通い、同じクラスになり、隣の席だったのに…『初めまして』…?


 私の事を覚えていない!?

 い、いいえ、ま、まさかそんな事あるはずがない!

 この私を忘れるなんて!!


 そ、そうよ、コニファーがいるから気づかないふりをされたんだわっ

 婚約者がいる手前、気軽に話しかけるのを遠慮したのね。


 私は彼の気持ちを汲んで、挨拶を返した。


 お茶会の途中でコニファーが席を立ち、図らずもイスクール様と二人きりになれた。

 そして、イスクール様が私に遠慮がちに声を掛けてきた。


「あの…いきなりこんなこと言って戸惑うかもしれないけど…」


 ああ、やっぱり覚えていらっしゃったんだわ!

 当然よねっ 私のように美しい女性を忘れる人なんていないもの!


「その……学院で過ごすコニファーの事を教えてもらえないかい?」


「え…?」


「あと、できればコニファーに近づく男がいたら、追っ払って欲しいんだ!」


「え…?」


「それとコニファーがどんな事に興味をもったか、どんな人間と関わったか教えてもらえたら助かる。あ、コニファーが戻ってきた。詳しい事はあとで侍従から連絡させるからよろしくね」


「あ、…はぁ…」


 その日は結局、中等学院時代の話は一切出ず、コニファーとイスクール様の仲を見せつけられていただけだった。


 ……何の時間? これ。



 後日、私宛の手紙が届いた。

 それはイスクール様の侍従からだった。


『イスクール様より、今後学院で過ごすコニファー様に関しての情報を提供していただきたいとのご希望がございました。ご協力いただけましたら、相応のお礼をさせていただきます』


「何よこれ! 私にコニファーの見張り役をやれって言うの!? コニファー、コニファー、コニファー! あんな女のどこがいいのよ!! しかも、なんで侍従からなのよ!!!」


 手にしていた手紙を破り捨てようとしたが……やめた。


 これは彼に近づく絶好チャンスよ!

 

 うまくすればコニファーと別れさせて、私が未来の侯爵夫人! ふふふ。

 そうすれば今は経済的に困窮している我が家だけど、すぐに盛り返せるわっ


 私は妄想に浸りながら、イスクール様の提案を了承する返信を出した。


 まずは、この文通を機に彼との交流を持とうと考えたのに…


「お嬢様、お手紙が届いております」


「誰から?」


「ルーク様でございます。最近、よく届きますが…」


「ええ…ちょっと最近知り合いになったの…」


 差出人はイスクール様の侍従の名前だった。

 手紙を開けるともう一通入っており、表には私の宛名が書かれていた。

 中身は…


『先日の報告ありがとう。

次回もコニファーの言動を注視し、逐一報告を願う。

くれぐれも男は近づけないように。

あと、コニファーに関する事以外は記載不要とす』 


「なによこれ!!」


 ぐしゃりと手紙を握りつぶした。


 私との手紙のやりとりを知られないために、侍従の差出人名で送られてくる。

 中身もイスクール様の記名はなく、必要最低限の謝辞のみ。


 私からの手紙にはコニファーの事以外に、私の趣味や好きな物を書き綴ったのだが、その内容を不要…と、不要と言ってきた!


 悔しい!

 どうして私に少しも興味を示さないの!?

 中等学院の時は、優しく接して下さったのに!


「手紙なんかじゃ拉致があかないわっ どうにかしてお会いできる方法はないかしら? そうだわ!」


 前に、美術でコニファーが描いた絵を渡したい旨を伝えたら、すぐに会って下さった。


 先日家政の授業で刺繍をして、その時コニファーが作った物と私の物とを交換したんだったのがあった。

 

「どこにやったかしら…適当に置いたから…」


 私はクローゼットの中を探した。


「あ、あった! ……本当、下手な刺繍…」


 白いハンカチーフには一本のチューリップが刺されていた。

 但し、周りだけを縁取られた簡単な仕上がり。

 

 刺繍が苦手と言っても程がある。

 子供でさえ、もっとましな物を作るわ、ひどい出来。


 でも、イスクール様なら欲しがるわよねぇ、こんな物でも…


 そしてこのハンカチーフを餌に、カフェへと呼び出した。

 案の定、彼はすぐやって来た。…侍従を伴って。


 ハンカチーフを受け取り、コニファーの近況を聞き終えると早々に帰ろうとするイスクール様。

 何とか足止めしたくて、コニファーの名前を出したら、洋装店へ行く事になった。

 

 彼はコニファーへの贈り物ばかり選んでいたわ。


 どこまでコニファー中心なのよ…っ!


 でも、彼にハンカチーフを買ってもらった。

 ふふ、彼からのプレゼント! 


 彼にまた近づけた…そんな幸せな気持ちになった。



 翌日学院で、神妙な面持ちのコニファーに声をかけられた。

 何なの…?


「…大切なお話があります。帰りに、我が家にお越し頂けますか?」


「…ええ、ぜひ伺わせていただきますわ」


 その日、コニファーは私と会話する事がなかった。


 何か感づいたのかもしれないわね…


 そうだわ、昨日買って頂いたハンカチーフとイスクール様が書かれた手紙を見せよう。

 いつも持ち歩いていて良かった。

 手紙は宛名しか見せられないけど、彼女なら文字で気づくだろう。

 誤解するには十分のアイテムよね?


 コニファーの屋敷を訪ね、彼女に話した。

 イスクール様から贈られたハンカチーフ。

 イスクール様からいただいた手紙。


 彼とは懇意にしている事を伝え、身を引くように忠告した。

 邪魔者(コニファー)が消えれば、イスクール様にもっとお近づきになれるわ。



 この時は本気でそう思っていた。



 後日、イスクール様の侍従がコンソール家を訪れた。


「イスクール様がお待ちです」


 私を迎えにやってきたようだ。


 何かしら?


 コニファーがイスクール様に何か言ったの?

 いえ…もしかして、個人的に何かお話があるのかも…


 私は小さな不安と大きな期待を胸に、シュルテン家の馬車に乗り込んだ。

 

 出かける前に、家族や使用人たちが皆で見送ってくれたわ。

 こんな事、めったにないのに。


 「気を付けて」


 大げさね。



 まさかこの時は、このまま帰って来られなくなるなんて思いもしなかった…



 シュルテン家に着くと、イスクール様の隣にはコニファーがいた。

 この時点で嫌な予感しかしなかった。


 「コニファーには全て話したよ。君から彼女の学院での様子を随時報告してもらっていた事を」


 イスクール様は腕を組み、私に冷えた視線を投げかけていた。


「さ、ようですか…」


「カフェで君といたのは、彼女が刺繍したハンカチーフをもらうため。洋装店へ行ったのはそのハンカチーフの代わりになるものを君に渡すため。君の宛名が書かれた手紙は、君がコニファーの事を報告してくれた事へのお礼だったはずだ。それをなぜ、君にプレゼントを贈り、文通している事になったんだ?」


 声音でイスクール様の怒りが伝わる。

 何と言い訳をすればいいの…!?

 いいえ、もう…言い訳など通じないわ!


 私は開き直って、全てをぶちまけた。


 イスクール様とコニファーでは不釣り合いだと、

 二人の婚約は互いのご祖父様の軽口から取り決められた事、

 その事は中等学院では有名な話だった事を。


 そこで彼が同じ中等学院だった話をされた。

 やはり覚えていらっしゃった!

 そう思ったのに…


「覚えていない、君の事は全く記憶にない」

 

「記憶に…ない…? う、嘘よっ 嘘っ嘘っ嘘おおおおお!!」


 彼の記憶の断片にさえ、私は存在していなかったなんて…!


「話しにならないな、彼女を連れて行ってくれ」


 私は侍従に両腕を締められ、無理矢理部屋を出て行かされた。

 そして、裏庭に連れて来られると廃(すた)れた道具小屋へ閉じ込められた。


「なんなの!? 開けて! 開けなさいよ!!」


 ドンドン!

 ドンドン!


 どれだけ叫んでも、何度扉を叩いても答える声はない。


 …なぜ私が、こんなところに閉じ込められなければならないの!?


 私…どうなってしまうの?


 どうしてこんな事になったの!?


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