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第15話 氷結の大賢人襲来

母様が実家であるアークライト侯爵家へ手紙を出してから数日。


俺の日常はすっかり変わっていた。


朝は父様や騎士達と共に剣術訓練。


午後は母様から魔法について教わる。


忙しい。


だが充実していた。


木剣を振る。


走る。


素振りをする。


そして午後は魔法の勉強。


前世ではゲームや小説の中にしか存在しなかったものを、今こうして実際に学んでいる。


毎日が新鮮だった。


だが。


そんな平穏な日々は長く続かなかった。


ある日の朝。


いつものように訓練場で木剣を振っていると。


突然。


屋敷中に響き渡る大声が聞こえた。


「アルトーーー!!!」


訓練場の空気が震える。


「じいじが来たぞぉぉぉーーー!!!」


さらに続く。


「わっはっはっはっはっは!!」


俺だけではない。


近くにいた騎士達までびくりと肩を震わせた。


「なっ!?」


「この声は……!」


「まさか……!」


騎士達の顔色が変わる。


中には慌てて姿勢を正す者までいた。


どうやら只者ではないらしい。


「氷結の大賢人殿か……」


「坊ちゃま、頑張ってください」


「何故ですか?」


「いえ……何でもありません」


俺が呆然としていると。


父様が苦笑した。


「おっと」


「ついに義父上が来たか」


「義父上?」


「グラン義父上だ」


なるほど。


つまり母様のお父さん。


グランお祖父さまだ。


「父様、今の声って……」


「間違いないだろう」


父様は苦笑したまま頷く。


「待たせると悪い」


「急いで行こう」


そして周囲へ振り返る。


「すまない」


「訓練はそのまま続けていてくれ」


「はっ!」


騎士達が一斉に敬礼する。


父様は俺を連れて屋敷へ向かった。


だが。


走っている途中も。


「じーーーいーーーじーーーだぞぉぉぉーーー!!!」


声が聞こえる。


うるさい。


いや。


元気なのは分かる。


分かるのだが。


元気過ぎる。


そして。


負けないほど大きな声が聞こえてきた。


「お父様ぁぁぁぁ!!」


母様だった。


「おやめください!!」


「恥ずかしいです!!」


「おぉ!」


豪快な笑い声が返ってくる。


「セレスティア!」


「元気そうで何よりじゃ!」


「お前の手紙を読んで急いで来たぞ!」


「わっはっはっはっは!」


「だから大声を出さないでください!」


「屋敷中に聞こえております!」


「気にするな!」


全く気にしていない。


流石親子である。


「それよりお父様」


「お付きの方々はどうしたのですか?」


母様が呆れながら尋ねる。


するとグランお祖父さまは胸を張った。


「待ちきれず一人で馬を飛ばして来た!」


「何せ可愛い孫の一大事だからのう!」


全然威張るところではない。


母様が頭を抱えた。


俺と父様が屋敷前へ到着すると。


そこには一人の男性が立っていた。


後ろへ流した銀髪。


鋭い碧眼。


片目にはモノクル。


綺麗に整えられた口髭。


高身長で細身の体躯。


手には高級感のある杖を携えている。


六十を超えているはずだ。


だが。


その姿からは衰えなど微塵も感じられない。


老いてなお健在の威圧感。


まるで巨大な氷山を前にしているような存在感だった。


元宮廷魔術師長。


氷結の大賢人。


王国最強の氷魔術師。


グラン・アークライト。


本来なら誰もが畏怖と尊敬を向ける伝説的人物。


そのはずだった。


「おぉぉぉぉぉ!!」


俺の姿を見た瞬間。


グランお祖父さまの目が見開かれた。


ぶるぶると肩が震える。


「な、なんということじゃ……」


何故か感動している。


「さらに可愛くなっておる……!」


あ。


駄目だ。


この人もだ。


「儂をキュン死させる気かぁぁぁぁ!!」


次の瞬間。


凄まじい速度で突撃してきた。


速い。


老人とは思えない。


いや。


下手すると父様より速い。


本当に元宮廷魔術師なのだろうか。


気付けば抱き上げられていた。


「アルトぉぉぉぉ!!」


ぎゅうううう。


「お、お祖父様……」


「会いたかったぞぉぉぉ!!」


ぐりぐりぐり。


「お、お祖父様」


「うむ!」


「可愛いのう!」


ぐりぐりぐり。


「お祖父様」


「何じゃ?」


「苦しいです」


「おお!すまんすまん!」


全く反省していない笑顔だった。


グランお祖父さま。


会う機会はそれほど多くなかった。


だが。


会う度に抱き上げられていた記憶がある。


お菓子を山ほど渡されたり。


高そうな魔道具を勝手にプレゼントされたり。


一度


「アルト専用城じゃ!」


などと言いながら庭に小さな氷の城を作ってもらい

一緒にはしゃいだ記憶もある。


その時も母様とお祖母様に


『庭を氷漬けにしないでください!』


と怒られていた。


今思えばかなり自由な人だった気がする。


「お祖父様、お久しぶりです」


「うむ!」


「久しぶりじゃのぅ!」


満面の笑みで頷くグランお祖父さま。


その表情だけ見れば威厳ある大魔術師なのだが。


抱きしめる力は全く緩まない。


苦しい。


とても苦しい。


「義父上」


父様が苦笑しながら一礼する。


「ご無沙汰しております」


「おう!」


グランお祖父さまは俺を抱えたまま答えた。


「レオンハルト!」


「息災そうで何よりじゃ!」


そして再び俺を見る。


「んんんんん!!」


何故か唸り始めた。


怖い。


「アルトよ」


「はい?」


「連れて帰ってよいか?」


「駄目です」


即答したのは母様だった。


「そんなぁぁぁぁぁ!!」


グランお祖父さまが本気で崩れ落ちた。


どうやら。


俺の新しい魔法の先生は。


王国最強の氷魔術師であり。


世界一面倒な孫バカでもあるらしかった。

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