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第16話 初めての氷魔法

お祖父様に抱き上げられたまま、俺達は母様の研究室へ向かった。


結局。


研究室へ着くまで一度も下ろしてもらえなかった。


「お父様」


「そろそろアルトを離してあげてください」


「む?」


ようやく母様の言葉で解放される。


地面へ降ろされた俺は思わず大きく息を吐いた。


助かった。


「では実際に見せてもらおうかの」


グランお祖父様は楽しそうに笑う。


そして再び。


何でもわかーる君十六号による魔力測定が始まった。


俺が取っ手を握る。


体から魔力が吸い出されるような感覚。


そして。


以前と全く同じ反応が起きた。


木製人形が震え。


足元から凍り始める。


氷はみるみる全身へ広がり――


完全に氷漬けになった。


さらに。


今度は強烈な光を放ち始める。


研究室が昼間のように明るくなった。


「ほっほっほ!」


グランお祖父様が大笑いする。


「さすが儂の孫じゃ!」


「おじいちゃんと同じ氷属性だぞー!」


「嬉しいのう!」


そして再び。


ぎゅうううう。


お祖父様監獄へ収監された。


苦しい。


非常に苦しい。


「お父様……」


母様はもう止める気力もないらしい。


完全に諦めた顔をしていた。


だが。


しばらく何でもわかーる君を眺めていたグランお祖父様は、ふと真面目な顔になる。


「しかし……」


「光属性との複合とはのう」


その声に母様も頷く。


「お父様でも聞いたことはありませんか?」


「うむ」


グランお祖父様は腕を組んだ。


「希少属性と基本属性の複合なら過去にもおった」


「儂も何人か知っておる」


「しかし――」


そこで俺を見る。


「アルトのような希少属性同士の複合は見たことも聞いたこともない」


そして豪快に笑った。


「わっはっはっは!」


全然参考にならなかった。


「んもぅ!」


母様が俺を抱き寄せる。


「アルトちゃんはやっぱり天才ですねー!」


今度は母様まで監獄に加わった。


左右から抱き締められる。


苦しい。


とても苦しい。


やはり親子だった。


親子監獄は、メイドさんがお茶を運んでくるまで続いた。


「お茶をお持ちしました」


救世主だった。


ありがとうメイドさん。


心の底から感謝します。


全員がお茶を飲みながら落ち着いたところで。


母様が真面目な顔になる。


「基本的な事は私でも教えられます」


「ですが」


「やはり氷属性となれば、お父様に教えを請うのが一番だと思いまして」


するとグランお祖父様は胸を張った。


「うむ!」


「儂に任せなさい!」


杖を掲げる。


無駄に格好良い。


「儂を超える立派な宮廷魔術師に育て上げてみせよう!」


「よろしくお願いします、お父様!」


母様は嬉しそうだった。


だが。


俺は思った。


(おいおい……)


氷結の大賢人を超える魔術師って。


どんなレベルだよ。


五歳児に何を期待しているんだこの二人は。


そんな俺の心境などお構いなしに。


話はどんどん進んでいく。


その後。


俺達は父様、母様、お祖父様と共に訓練場脇の広場へ移動した。


広々とした場所だ。


父様が辺りを見渡しながら頷く。


「ここなら多少魔法を使っても問題ありません」


「よし」


グランお祖父様が前へ出る。


「まずは初歩的な魔法からじゃな」


そして杖を軽く掲げた。


「――凍てつく柱よ」


次の瞬間。


ごごごごごごごっ!!


地面が震えた。


目の前に巨大な氷柱が出現する。


見上げるほどの高さ。


透き通るような美しい氷。


圧倒的だった。


「おぉ……!」


思わず声が漏れる。


凄い。


本当に魔法だ。


グランお祖父様は満足そうに頷いた。


「魔法はイメージが大切じゃ」


「詠唱は必須ではない」


「じゃが思考を固定し、具体化する助けになる」


「なるほど……」


「ではやってみるがよい」


ついに俺の番だった。


この数日。


母様から魔力の扱い方は教わっている。


体内を流れる魔力も感じられるようになっていた。


後は。


それを形にするだけ。


俺は目を閉じる。


氷。


柱。


冷たく鋭い氷柱。


柱。


柱……。


「凍てつく柱よ!」


魔力を放つ。


すると。


ごごごごごご……。


目の前に氷が生まれた。


お祖父様ほど大きくはない。


だが。


確かに氷柱だ。


氷柱なのだが。


「おお!」


グランお祖父様が目を輝かせる。


「初めてでこれは凄いではないか!」


「流石は儂の孫じゃ!」


「アルトちゃん凄いわ!」


母様も大喜びだ。


だが。


父様だけが首を傾げていた。


「ふむ……?」


「これは何だ?」


無理もない。


目の前に出来上がったのは。


どう見ても東京タワーだった。


展望台まで付いている。


誰がどう見ても東京タワーだった。


(終わった……)


俺の氷柱はどこへ行った。


氷柱→柱→塔を経由して東京タワーへ着地してしまった。


完全に脳内連想ゲームの敗北である。


どうしよう。


東京タワーなんて説明できない。


俺があわあわしていると。


「なんと綿密な構造なんだ!」


「美しいですわ!」


母様とお祖父様は大絶賛だった。


「見ろレオンハルト!」


「この細かさを!」


「確かに……!」


父様も感心している。


「なるほど!」


「アルトは凄いな!」


親バカモードへ突入した。


違う。


そうじゃない。


俺はただ氷柱を作ろうとして。


途中で東京タワーを思い浮かべてしまっただけなんだ。


芸術性も設計思想もない。


ただの事故だ。


だが。


そんな言い訳ができるはずもなく。


目の前では。


王国最高峰の魔術師達が、謎の氷製東京タワーを囲んで大騒ぎしていた。


本人だけが「失敗した」と思っているのに。


周囲は全員「天才的な魔法だ」と絶賛している。


話が全く噛み合っていなかった。

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