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10話

朝食を終えて少し休憩した後、俺は父様と共に訓練場へ向かった。


広い訓練場には兵士達が集まり、木剣を振る者、走り込む者、模擬戦をする者で賑わっている。


掛け声と木剣のぶつかる音が響き、活気に満ちていた。


「旦那様!」


「おはようございます!」


兵士達が一斉に敬礼する。


その中を堂々と歩く父様は、やはり格好良い。


アルトの記憶の中でも父様は憧れの存在だった。


ただ強いだけではなく、皆に慕われ信頼される人だ。


その姿を改めて見ても、自然と人を惹きつける魅力があると思う。


「さてアルト」


父様が振り返る。


「まずは見て覚えることだ」


そう言うと、訓練用の木剣を手に取った。


次の瞬間。


空気が変わった。


すっと自然に構える。


無駄がない。


ただ立っているだけなのに美しい。


そして。


ヒュン。


木剣が振られた。


速い。


だがそれ以上に。


綺麗だった。


一振り。


また一振り。


流れるような動き。


まるで舞でも見ているようだった。


兵士達も思わず見入っている。


「おお……」


気付けば声が漏れていた。


強い。


それは分かる。


だが。


それだけではない。


見ているだけで。


自分もああなりたい。


あんな風に振ってみたい。


そう思わせる魅力があった。


(すごい……)


体力作りのために始めた剣術だった。


だが。


今は純粋に格好良いと思う。


アイドルのステージにも少し似ていた。


歌が上手いだけじゃない。


踊りが上手いだけじゃない。


観客を惹きつける何かがある。


父様の剣にはそれがあった。


「どうだ?」


「格好良いです!」


思わず即答していた。


父様は嬉しそうに笑った。


「そうか!」


心なしか頬まで緩んでいる。


そして訓練開始。


構え。


素振り。


足運び。


また素振り。


さらに素振り。


「腕だけで振るな!」


「はい!」


「腰を使うんだ!」


「はい!」


「良いぞ!」


「はい!」


最初は楽しかった。


だが。


三十分後。


「はぁ……はぁ……」


腕が上がらない。


足が重い。


肩が痛い。


父様はまだ元気だ。


意味が分からない。


一時間後。


「アルト、大丈夫か?」


「だ、大丈夫です……」


全然大丈夫ではなかった。


五歳児の体力が悲鳴を上げている。


それでも。


父様も兵士達も応援してくれる。


「坊ちゃま頑張れー!」


「あと少しです!」


「流石は旦那様のご子息!」


(妙に期待されている気がする)


だが。


負けるものか。


俺は未来のアイドルなのだ。


そして。


限界まで頑張った。


昼食は驚くほど美味しかった。


運動した後だからだろうか。


普段の何倍も美味しく感じる。


父様も満足そうだった。


「よく頑張ったな」


そう言われると少し嬉しい。


昼食後。


部屋へ戻る。


「少しだけ昼寝しよう」


そう思った。


本当に少しだけのつもりだった。


ベッドへ横になる。


そして。


目を閉じる。


次に意識が浮上した時だった。


「坊ちゃま」


優しい声が聞こえる。


肩をそっと揺すられる。


「坊ちゃま、夕食のお時間ですよ」


ゆっくり目を開く。


見慣れたメイドの顔があった。


「……あれ?」


窓の外を見る。


夕焼けだった。


「えっ」


昼寝のつもりだった。


本当に少しだけ休むつもりだった。


なのに。


気付けば夕方である。


「そんなに寝てたんですか?」


「はい」


メイドは微笑んだ。


「とても気持ち良さそうに眠っておられました」


少し恥ずかしい。


だが。


それだけ疲れていたのだろう。


父様との訓練を思い出す。


腕も足もまだ少し重い。


それでも嫌な疲れではなかった。


夕食の席へ向かう。


「アルト!」


席へ着くなり父様が身を乗り出した。


「体調は大丈夫か!?」


「はい?」


突然どうしたのだろう。


首を傾げる。


「昼食後から全く起きなかったと聞いてな!」


なるほど。


そういうことか。


父様は心底心配そうだった。


「私が張り切り過ぎてしまったかもしれん……」


しゅんとしている。


思わず少し可愛いと思ってしまった。


「大丈夫です」


「本当にか!?」


「ただ眠かっただけですから」


そう答えると。


父様は露骨に安堵した。


「そうか……!」


その様子を見ていた母様がため息をつく。


「あなた」


「なんだ?」


「五歳の子供を初日から訓練させ過ぎです」


ぐさり。


父様の胸に刺さった。


「うっ」


「反省してください」


「……はい」


しょんぼりしている。


大公爵とは思えない姿だった。


思わず笑ってしまう。


「ふふっ」


父様も母様もこちらを見る。


「でも楽しかったですし、父様もカッコよかったです!」


「そ、そうか!」


父様の顔がぱあっと明るくなった。


やっぱり父様は分かりやすい。


夜。


お風呂を済ませ。


再びベッドへ横になる。


腕は少し痛い。


足も少し重い。


だが。


嫌な気分ではなかった。


今日一日を思い返す。


父様に剣を教わった。


たくさん体を動かした。


たくさん食べた。


たくさん眠った。


そして何より。


一歩だけ夢へ近付いた気がする。


「……楽しかったな」


小さく呟く。


世界初のアイドルへの道は始まったばかりだ。


だけど。


悪くないスタートだと思う。


「明日も頑張ろう」


そう呟きながら。


俺は静かに目を閉じた。

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