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夜叉姫は龍神の花嫁になりましたが、実は最強の水属性魔法使いでした  作者: 水鏡 季夜里
夜叉ヶ池伝説(改)

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8/25

決めるのは、

夜。

村は、異様な静けさに包まれていた。

誰もが家に籠もり、

誰もが、同じ思考に沈んでいる。


囲炉裏の火だけが、小さく揺れていた。

その淡い光が、三人の顔を不安定に照らす。

早霧も、清乃も、言葉を持たない。

沈黙は重く、空気は沈みきっていた。


やがて、清乃が口を開く。

「……お父さん」

安八太夫が、顔を上げる。

「今日、誰かに会った?」

その瞬間、空気が凍る。


手が、止まる。

ゆっくりと、娘を見る。

「……なぜ、そう思う」


清乃は、ためらわない。

「私も、会ったから」


「……は?」

理解が、追いつかない。


「若い武士の格好」

「雨を降らせるって言った」

「その代わりに――」

そこで、言葉が途切れる。


安八太夫は、静かに目を閉じた。

「……同じだ」

立ち上がる。


「ちょっと待ってよ、それって――」

早霧の声を遮るように、外が騒がしくなる。


村人たちが、集まっていた。

「お前もか!?」

「見たのか、あの男!」

「俺もだ……!」

一人ではない。

二人でもない。

ほぼ全員が、同じ提案を受けていた。


幻ではない。

偶然でもない。

「……選ばせる気だ」


清乃が、低く呟く。

外では、声が荒れていく。

「このままじゃ全滅だ!」

「一人で済むなら……!」

「でも、誰を――」

その言葉で、皆が止まる。


「……決めないといけない」

その一言が、流れを変えた。


「村のためだ」

「仕方ない」

「誰かが犠牲になるしか――」

“仕方ない”が、

いつの間にか“当然”へと変わる。


早霧は、耳を塞ぐ。

「やめて……」


清乃は動かない。

だが、その表情は強張っていた。

(これは……)

(選択じゃない)

(圧力だ)


安八太夫は立ち上がり、外へ出る。

人が、集まっている。

誰もが、誰かを見ている。

自分ではない、誰か。

それを探す視線。


「公平に決めよう」

誰かが言った。


「くじか……?」

「順番か……?」

合理の顔をした、残酷。


清乃が、小さく呟く。

「……違う」


早霧が震える声で問う。

「何が……?」


清乃は答える。

「これは、“選ぶための仕組み”じゃない」

「“納得するための仕組み”」


誰も、反論できない。

ふと、視線が揃う。

三姉妹へと。


家族構成。

年齢。

性格。


言葉にはならない。

だが、確かにそこにある。

“選ばれやすさ”

早霧が、一歩下がる。


(やばい)

清乃が、唇を噛む。

(来る)

そのとき。


静かな声が、落ちた。

「……いいよ」

雨音だった。


いつもと変わらぬ、穏やかな顔。

空気が、止まる。


すべての視線が、

一人に集まる。

(これ……止まらない)


誰かが名乗り出るまで、終わらない。

二人が壊れる未来が、見える。

(怖くないわけじゃない)

(でも……)

(みんなが壊れるのを見る方が、嫌だ)

(このまま、誰かが泣くくらいなら)

(最初から、決まっていたことにしよう)

雨音は、俯かない。

逃げもしない。

ただ、そこに立つ。


その選択は、押しつけられたものではない。

選ばされたのではない。

――自ら、選んだ。

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