終わりと、はじまりの雨
雨が、降っていた。
いつものことだった。
神代 天音は、空を見上げる。
(またか……)
苦笑する。
生まれてからずっとだ。
晴れの日でも、
なぜか自分の周りだけ、雨が降る。
その日
帰り道。
交差点。
信号は青。
一歩、踏み出す。
その瞬間。
強い光。
ブレーキ音。
身体が浮く。
音が消える。
世界が、スローモーションになる。
(あ、これ……)
理解してしまう。
雨が、頬に当たる。
冷たい。
なのに、どこか――
優しい。
(なんで、いつも雨なんだろうな)
その疑問を最後に――
意識が、落ちた。
漂っている。
身体はない。
でも、存在はある。
どこからともなく、響く。
「――見つけた」
(……誰だ)
声にならない問い。
だが、伝わる。
巨大な何か。
水そのもののような、
意識の塊。
「ようやく、届いた」
(……雨)
すべて、繋がる。
今までの“雨”は、
偶然じゃない。
「貴様は、呼んでいた」
「無意識にな」
「神代の血……」
「器としては、上出来だ」
「問おう」
空間が、震える。
「受け入れるか」
「消えるか」
普通なら、迷う。
でも――
(……どっちも、嫌だな)
わずかに、間。
「ほう?」
(消えるのも嫌だし)
(勝手に使われるのも嫌だ)
(じゃあ――)
(対等ならいい)
空間が、止まる。
龍神の気配が、変わる。
「……面白い」
龍神の気配が、変わる。
水が、渦を巻く。
意識が、引き寄せられる。
身体が、形を持ち始める。
骨。
肉。
血。
そして――
水
見えない文字が、流れる。
《個体:神代 天音》
《状態:消失》
《再構成開始》
《適合率:上昇》
全身が、裂けるような感覚。
だが、止まらない。
同時に
心の奥に、
何かが流れ込む。
雨の記憶。
川の流れ。
海の深さ。
(飲まれる……)
意識が薄れる。
(ダメだ)
(これじゃ、“自分”が消える)
流れの中で、
“中心”を見つける。
龍神の核。
それを――
掴む。
「……なにを――!」
今度は、こちらが流れ込む。
ぶつかる。
壊れない。
混ざる。
光が、弾ける。
《再定義》
《神代 天音 → 雨音》
《存在進化》
《称号付与》
《夜叉姫》
水が、割れる。
世界が、戻る。
そこは――
山。
霧。
静かな水面。
息を吸う。
空気が、冷たい。
生きている。
手を見る。
水が、まとわりつく。
意識すれば、形を変える。
見上げる。
雲が、集まる。
ポツッ。
「……なるほどね」
小さく、呟く。
「――これは、“雨”じゃない」
「……私だ」




