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2/8

前夜

その村では、雨が止まって三年が経っていた。

田は割れ、川は枯れ、空はただ青いだけ。

そして――

「今年こそ、“夜叉ヶ池”に捧げねばならぬ」

村の長、安八太夫あんぱちだゆうは静かにそう言った。

安八太夫には、三人の娘がいた。


長女、早霧さぎりは気が強く、村一番の美人だった。

早朝の霧が立ち込めた時に生まれた。

現実から逃げがちで、最初に拒否する「普通の人」。


次女、清乃きよのは賢く、誰より現実的であった。

損得勘定で判断するタイプで、合理的に拒否する人。


そして――

末娘の雨音あまね

これが、転生した俺だ。

雨音が生まれたとき――

晴れていた空が、突然崩れた。

静かに降り始めた雨。

やがて屋根を打つ音が村中に響く。

そのとき母が言った。

「この子は、雨の音と一緒に来たのね」

そこから「雨音あまね」と名付けられた。

どうやら、俺の呪いをこの娘は受け継いだらしい。


姉たちは、それぞれ本音を吐いた。

その夜、家の中は重かった。

「……なんで私なのよ」

「死ぬくらいなら逃げるわよ、当たり前でしょ」

長女が吐き捨てる。


「冗談じゃない。死ぬなんて無理」

「生贄なんて非効率よ。他の方法を探すべき」

「他の家から出せばいいじゃない」

次女も続く。


静まり返る部屋。

誰も“やる”とは言わない。


父、安八太夫は苦悩する。

何も言わなかった。

いや、言えなかった。

村を救うためには、生贄が必要とは。

だが――

娘を差し出す父など、本当は存在してはいけない。


「……わたしが行くよ」

雨音がぽつりと、声が落ちた。

二人の姉が振り向く。

「は?」

「ちょっと、何言って――」


(……まあ、そうなるよな)

心の中で、俺はため息をついた。

そう。

俺は知っている。

この世界の理不尽さも、この村の限界も。

そして――

自分が“普通じゃない”ことも。


俺の雨の記憶。

転生してからも、変わらなかった。

俺の周りだけ、空気が湿る。

祈ると、雲が集まる。

感情が揺れると――雨になる。


(たぶん、これが原因だ)

干ばつ。

偶然じゃない。

俺が“呼んでない”だけで、雨は、きっと呼べる。

だが呼ばないと、雨はやってこない。


うん、決意した。

「どうせなら、有効活用しないとな」

小さく呟く。

生贄?

違う違う。

これは――

「交渉だ」


父は、つぶやいた。

「……本当にいいのか」

初めて、父が声を震わせた。

俺はうなずく。

「うん」

「でもね、お父さん」

一歩近づいて、微笑む。

「ちゃんと帰ってくるから」


姉たちは、動揺した。

長女は目を逸らし、何も言えなかった。

次女は唇を噛み、拳を握った。

誰も止めない。

止められない。


だがその夜、夢の中で声が響いた。

よくぞ、決意した。

《水属性魔法 Lv.∞ を獲得しました》

《龍神の加護を取得しました》

は?

ちょっと待って、いきなりチート来たんだけど。


そして、翌日。

白装束で、静かな朝。

村人たちの祈り。

そして、雨音は山へ向かう。


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