雨を呼ぶ男は、最後まで運が悪かった
※本作のプロット作成および執筆補助に生成AIを使用しています。
本作品はフィクションです。
作中に登場する人物・地名・伝承(夜叉姫・夜叉ヶ池に関する描写を含む)は、
物語上の設定であり、実在のものとは一切関係ありません。
その男の名を、神代天音という。
齢二十余、どこにでもいる、取り立てて語るべきところのない社会人であった。
少なくとも、本人はそう思っていた。
ただひとつを除けば。
彼が生まれた日の記録に、こういう話が残っている。
産院の窓の外は快晴であった。
ところが、産声が上がった瞬間、突如として空が掻き曇り、窓硝子を打つほどの豪雨に変わったというのである。
居合わせた看護師が笑いながら言った。
「この子、雨男ね」と。
偶然、と人は言った。最初のうちは。
しかし偶然というものは、一度や二度で済むものだ。
遠足は必ず雨だった。
体育祭は延期になった。
修学旅行の年には台風が来た。最初のうちこそ笑い話で済んでいたが、やがて笑えるような話ではなくなった。
「また神代かよ」
「お前のせいで中止になった」
冗談半分に投げられたその言葉が、積み重なるにつれ、じわじわと骨身に沁みた。
いつの間にか、あだ名は「低気圧ボーイ」になっていた。
大人になってから、天音は気づいた。
これは運などではない、と。
試してみれば、明らかだった。
意識を集中させると、周囲の湿度が目に見えて上がった。
感情が乱れると、雨になった。
「俺が……降らせているのか」
呟いた声が、ひどく虚ろに聞こえた。
当然、誰にも言えなかった。
言えば終わる。気が狂ったと思われるか、物珍しいものとして扱われるか、そのどちらかである。
だから天音は黙っていた。
何も知らぬ顔をして、ただ黙って、雨の中を歩き続けた。
唯一、役に立ったことがひとつあった。
天気の予測が、異常なほど正確だった。
空気の匂い、風の湿り気、雲の重さ。
それらが言葉にならぬ感覚として、天音には「わかった」。
同僚が笑いながら言った。
「お前、気象庁より当たるな」
天音も笑ってごまかした。当てているのではない、と内心で思いながら。
あの日も、嫌な予感がしていた。
空は不自然なほど青く澄んでいた。
風がなかった。
鳥も鳴かなかった。
晴れているのに、空気が妙に重かった。
大きいのが来る。
根拠などなかった。しかし確信があった。
交差点の信号が青に変わった。
一歩、踏み出した。
その刹那、視界が歪んだ。
唐突な豪雨。
金切り声のようなブレーキの音。
横から突っ込んでくる車体の影。
ああ、またかよ。
人生の最後まで、雨に振り回されるのか。
天音はそれを、どこかおかしいと思った。
笑えた。
ほんの少しだけ、笑えた。
意識が遠のく寸前、声が聞こえた。
「見つけた」
「ようやく、届いたか」
暗闇の中に、水の音がした。
深い場所だった。
何か巨大なものが、こちらを見ていた。
冷たいはずなのに、怖くなかった。
むしろ、奇妙なことに、懐かしかった。
水の中にいるのに、息ができた。
低く、しかし穏やかな声が言った。
「長い間、待っていた。雨を呼ぶ者よ」
意識の裡に、見えぬ文字が流れた。
《個体識別:神代天音》
《水属性適性:規格外》
《龍神契約:可能》
天音は、ぼんやりとそれを眺めた。
体が沈んでいった。
沈みながら、不思議と恐ろしくなかった。
むしろ身体から、長年抱えてきた何か重いものが、するすると抜け落ちていくような心地がした。
最後に声が聞こえた。
「今度は、ちゃんと使えよ」
誰の声であったか、とうとうわからなかった。
目を開けると、知らない天井があった。
身体が、小さかった。
白い肌。長い黒髪。見慣れない、細く小さな指。
遠くで雨の音がした。
頭の奥に、静かに流れ込んでくる名がひとつあった。
雨音。
窓の外、雨が降っていた。
それはもはや、呪いではなかった。
全面的に修正しました。




