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【コミカライズ連載中】貴族学園の不文律 ~ある侯爵令嬢様が、ダンスパーティーで婚約を破棄された理由~  作者: ヤマモトユウ(スケ)


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ある教授の元に、差出人不明の恋文が届いた理由。(4/5)


 一度、生徒会室に集まった生徒会一行は、ミネットの提案で庭園のある女子寮に赴いた。

 小さいがよく手入れされた庭園には、なるほど、赤土の区画がいくつか造られている。

 オディロンは花々を眺めつつ「さて」と呟いた。


「ミネット、次はどうする。入寮者全員の靴のサイズでも確認するかい?」

「……いえ、それは――」


 ミネットの言葉を遮って、誰かが「きゃあ!」と叫んだ。

 声をたどって上を見上げると、アパルトメントの二階の窓から、女子生徒が身を乗り出してこちらを覗き込んでいた。


「オディロン殿下! オディロン殿下が、わたくしたちの寮にいらっしゃったわ!」

「何ですって!? どこ!? 下!?」

「それとも上!?」

「上なわけはなくないかしら」

「庭園!? ――生徒会の皆様もいらっしゃるじゃないの!」


 わあわあと騒ぎながら、女子たちが降りてくる。


「……凄まじい人気でございますね、オディロン様は」

「人気なのは私ではなく、第三王子さ。あと……人気があるのは君たちもだよ」


 そして、一行はあっという間に女子生徒の群れに囲まれてしまった。


「カロル様、本日もお美しいですわ……! あの、わたくしたち、お茶会をするのですけれど……、いつか来てくださいますか?」

「ええ、機会があれば、ぜひ」

「ミネットさんもいかが? ご招待したいの」

「小生は、そのような高貴な場所に行けるほどの者ではございません」

「あら、気軽に来てくださればよいのに! わたくしなんて男爵ですもの、その辺の平民より貧乏で、家賃を支払うだけで精一杯――」

「ともかく、みんなミネットさんとお話ししてみたいのです。どこから来たのか、どんな方なのか、あまり知られてないでしょう? みんな、あなたの秘密が知りたくて仕方がないのです」

「あと、できれば算学を教えていただきたくて……。いやもう切実に。わたくし、もう三期連続で単位を落としておりますの」


 生徒会の三人を囲む輪の外で、ジルベールは苦笑した。学園内ではおしとやかな女子生徒達も、街中や寮では年相応の素顔が見えるものなのだろう。


 ……ふと視線を感じた。

 ジルベールが寮の入り口に目を向けると、庭園を……いや、ジルベールを眺めている少女がいる。

 彼はその少女を見て……、目を見開いた。面影(・・)があった。ゆっくりと歩いて近づき、その女子生徒と向かい合う。


「君は……、私の授業を、とっていませんな」

「はい。歴史は好きじゃないので」

「そうですか。君の……おそらく祖母にあたる人は、好きだったんじゃないかと思いますが」

「授業中のあなたが好きだったんだと思いますよ。歴史よりも」


 さらりとそんなことを言う。

 ジルベールは、は、と息を吐いた。覚悟と、理解と、納得の吐息を。


「では、君だったのですね。恋文を投函していたのは」

「はい。そして、いいえ。私はただ、書き写しただけです。お婆様が、若い頃に書き溜めて、けれど、誰にも届けることのできなかった恋文を」


 少女は庭園に視線をやった。生徒会の三人。寮生の女子生徒達。姦しくお喋りを続けている。

 庭園には色とりどりの花が咲き、美しく刈られた生け垣の造形が規則正しく並んでいた。


「……お爺様が亡くなってから、お婆様はずっと家の長老として気を張っていらっしゃったのですけれど、それが祟ったのか、最近、物忘れの病にかかってしまったのです。まだ、そんな歳じゃないのに」


 物忘れの病。基本的には老齢の者がかかる病だが、若くしてそうなるものもいる。


「お婆様はすごい方です。記憶がはっきりしているときに『良い人生だった』なんて笑って、自分で少しずつ、身辺の整理を始めたのですよ。私も実家に戻った際は手伝っていたのですが、あるとき、古い箱から恋文の束が出てきて。それを見て、お婆様は……唐突に、涙を流し始めて。何事かと思いました」

「……良い人生だと言っているのですね、彼女は」

「本心だと思いますよ。お爺様は、私が生まれる前に亡くなられたので、どんな関係だったのかはわかりませんけれど。でも、お婆様は誇り高い貴族の義務を、全うされたのです」


 でしょうな、とジルベールは思う。義務(・・)を果たしたから、その孫がいま、目の前にいる。


「……しかし、彼女が、その手紙を君に命じて代筆、投函させたとは思えません。……君が?」

「はい。私が勝手にやっていることです。今更手紙を渡しても、先生は困るだけでしょうし……もう、お婆様のことなんて忘れているかと思いましたから。差出人の名前以外を書き写して、毎日一通、届けていたんです。ごめんなさい。でも、お婆様の涙を見たのは、あれが初めてだったから……私も、何かしたくなってしまったのです。何もせずにいると、後悔しそうで」


 ジルベールは空を見上げた。雨天はとうに過ぎて、太陽が見事に輝いている。

 雨上がりのほうが、太陽の光は透き通って見えるものだ。


「……そうですな。後悔は、したくないものですな」



コミカライズ連載中です!


https://to-corona-ex.com/comics/266984473297131


是非お読みくださいませ!

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