表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【コミカライズ連載中】貴族学園の不文律 ~ある侯爵令嬢様が、ダンスパーティーで婚約を破棄された理由~  作者: ヤマモトユウ(スケ)


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
32/34

ある教授の元に、差出人不明の恋文が届いた理由。(3/5)


 翌日。

 オディロンは信頼できる知り合いに声をかけた。

 カロルの婚約者であるフィーリクス、生徒会に借りがあるヴィクトルとアリス、それから事件に協力的な――つまり刺激を求める学園付きメイドのうち、手の空いている者達である。

 学園都市内に散らばって、赤土を探すのだ。


 街中に、色とりどりの花が満載の屋台がある。

 そこでは糸目の男が、せっせと花束を作って働いていた。

 屋台の前では、少し緊張した面持ちの男子生徒が「女の子に贈る花束なんだ、綺麗に頼む」なんて注文をつけている。


 一人、屋台に近づく女子生徒がいた。ミネットだ。

 男子生徒に花束を渡してすぐに、糸目の男はミネットに気づいて会釈した。


「これはこれは、姫さん――いや、生徒会書記殿じゃあないか」

「今日は花屋ですか、コルボ」


 コルボと呼ばれた男はにやり(・・・)と笑う。


「明日は肉屋さ。……それで、花は入り用かい? 姫さんの好きな青い花もあるよ」

「不要です。……学園都市内で、赤土を使っているところに心当たりは?」

「赤土かぁ。山ほどあるぜ、そんなところ」

「女子生徒が通るところでは、どうです。靴に赤土がつくようなところでございます」


 コルボは顎を撫でて、少し考えた。


「赤土と言えば陶器の工房だが、女子生徒が出入りするとは考えにくいねぇ。あとは……、植物を育てるのにも使えるとかなんとか聞いたことがあるなぁ。水をたっぷりやると、いい花が咲くんだって、こないだ庭師の手伝いをやったときに聞いたよ」


 二人は屋台を埋め尽くす、色とりどりの花を見た。


「……なるほど。では、庭園が併設された貴族学生向けの女子寮を教えてください。全部です」

「西区に二つ、南区に一つ。大きいから行けばわかるよ」

「ありがとうございます。……それと、王から連絡は?」

「ないよ。次は花を買ってくれると嬉しいねぇ」

「次会うときは、花屋ではないくせに」


 ミネットは屋台から離れて、足早に道を歩いて行った。


 ……ややあって、花屋の屋台の前に、一人の男子生徒が立った。老齢の侍従と、老齢の教授と、護衛の衛士を連れている。

 コルボは少しだけ目を見張って驚いた。


「やあ、花屋さん。調子はどうかな」

「……これはこれは、学園都市を統括する偉大なる生徒会長様にして、光り輝く高貴なるお方、オディロン・シエール王子殿下ではございやせんか。このような場末の花屋に、如何なる御用でございましょうや」

「花束を。今ここで喋っていた女の子が好きそうな花で頼む」


 笑顔でそう言う。コルボは口をへの字(・・・)にした。


「書記殿は平民でございやすよねぇ」

「そうだが、それがどうかしたか?」

「下々の者に花を贈って弄ぶのは、高貴なるお方のたしなみというやつですかい」


 じい(・・)が「無礼な……!」と前に出ようとして、しかし、笑顔のオディロンに片手で制された。


「もしかして、ミネットの友達なのかな?」


 コルボは手早く花束を作りつつ、笑顔で応じる。


「この街に住む平民で、書記殿のことを知らない者はいませんや。出世頭ですからねぇ。……はい、どうぞ。書記殿が好きそうな花で作った花束でございます。ああ、お代は結構。生徒会様にはお世話になっておりますので」

「そういうわけにはいかない。じい、払っておいてくれ」


 オディロンは、全体的に赤い花(・・・)でまとめられた花束を受け取って、にっこりと微笑んだ。


「ミネットは青い花のほうが好きだと思うけどなぁ。それは知らなかった?」

「はっはっは。ええ、存じませんでした。俺ァ、愚かで物知らずの平民なもんですから」


 ●


 オディロン達は屋台から離れて、また赤土を探して街を歩き始めた。

 ……共にいたジルベールは少し躊躇してから、オディロンに問いかける。


「殿下は、ミネット君のことを想っておられるのですかな」

「まさか。私は王子ですよ、ジルベール先生。まあ……面白い平民だとは思いますが」


 気になってはいるし、ちょっかいもかけるが、愛を認めるにはほど遠い……といったところだろうか。

 ジルベールは微笑む。己を自覚し、感情に名前をつけることは、難しいものだ。特に、若い男にとっては。


「……殿下、私の昔話をお聞きくださいますかな」

「是非頼む」

「では。……その昔、私は嫡子ではないことをいいことに、貴族学園を卒業した後もギモーヴ(実家)の領地に戻らず、学問に傾倒しておりました。なんとか教職の見習いに就き、安いアパルトメントを借りて、人類の歴史や、哲学や……思想(・・)を研究しておりました」

「なんと。独り立ちを試みたのですか。……その思想とやらは、つまり、自由主義だったのですね? それが、いまでは学園随一の伝統派貴族になっている。どういう変遷を?」

「その話は、また後日に。……ともあれ、そんな若き私に、ある貴族の女子生徒が愛を告げてくれました。穏やかで、詩を好むひとでした。……正直に申しまして、私達は惹かれ合っておりました」


 ジルベールは「しかし」と言葉を繋いだ。


「当時の私は、貴族の責務から離れ、市井の一人として生きようともがく最中でした。私と一緒になるならば、彼女にもそれを強いることになる――」


 貴族にとって、結婚は『血を残せるかどうか』『それによって家同士の結束を強められるかどうか』が重要なのだ。

 そこから逸脱しようとしている当時の尖った(・・・)ジルベール・ド・ラ・ギモーヴが、若い貴族の結婚相手として、相手の家に認められる可能性は、万に一つもなかっただろう。


「――彼女はそれでもよいと。家から離れて市井に骨を埋める覚悟だと言ってくれました。なのに、私は……返事を濁したのです。そう焦らなくてもいい、と。まだ時間はあるから、なんて言って。……とどのつまり、覚悟がなかったのですよ、私には」


 ジルベールは嘆息した。


「愛を告げられてから、ほんの数日後のことです。彼女は突然、学園を去りました。結婚が決まって、退学したのです。どこかの貴族にもらわれて、二度と会うことはありませんでした」

「……その結婚が決まっていたから、あなたに愛を告げたのかもしれませんね。その女子生徒は」

「かもしれません。……殿下、私は今でも思うのです。あのとき、覚悟を決めて彼女を連れて逃げれば、どうなっていただろうか、と。それが無理でも、せめて、きちんと断っておくべきだったのではないか、と。『私にはあなたの人生を背負うことができない、私にそこまでの覚悟はない』と、情けない己を晒せばよかったと、そう思うのです」


 ジルベールは歩きながら、視線を少し下に向けて、話を締めくくった。


「こんな老骨の、くだらない後悔の話でございました。昔と今では時勢が違いますが……殿下は、悔いのなきようになさいませ」

「……忠告、痛み入る」


 オディロンは抱えた花束に視線を落とした。真っ赤な花束に。



コミカライズ連載中です!


https://to-corona-ex.com/comics/266984473297131


是非お読みくださいませ!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ