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第15話 いつかの親友は今日の敵

 □過ぎ去りし日


 ――本当にいいのー? リグ。


 ――何度も言ってるでしょ? 大丈夫だよ。俺はのらりくらり遊んでいくからさ。


 ――でも……。


 ――本当に大丈夫だからさ。行っておいでよ。元より〈百鬼夜行〉は自由主義だし、引き留めちゃ悪いしさ。




 ――それじゃ、今まで本当に楽しかったよー。また会う時は敵同士かな?


 ――俺が〈百鬼夜行〉やってたら敵同士になるね。()()は〈ライフ〉に行くんだから。


 ――だねー。それと俺の名前はもうリンじゃないよー?


 ――ああ、そうだった……。それじゃ、またどこかで。キョースケ。



 過ぎ去りし日。

 キョースケとキリングは道を違えた――



 □ロインタワー100階フロア


 ビカルタンの【マシン・コントロール】により大幅な地形変化がなされたロインタワーの最上階で。

 小雨に打たれながら、キョースケとマッマは敵に相対していた。


「――やっほー。リグ」


 キョースケがJokerに帯同していた敵に呼びかける。


 敵は灰色のエナメルコートを着用していた。

 175センチほどの背丈に、灰色の髪。

 目元には黒い仮面をつけており、顔の全てを伺い知ることはできない。


 しかし間違いなく、青年は“ルーキー狩り”のレオを操っていた赤眼の青年――キリングだった。

 キョースケはそれを直感しており、対するキリングはそれを認めるつもりはなかった。


「俺はリグじゃないって言ってるでしょ。今日は相方のイケメン騎士さんは一緒じゃないの?」


 小雨に打たれながら、微笑を浮かべてみせるキリング。


「生憎とイケメン騎士さんは一緒じゃないんだ~。ここのところ別行動してる感じー」


「へえ、そうなんだ」


「「…………」」


 キョースケとキリングはどちらも口をつぐんでしまった。

 話すことがないわけではない。

 むしろ、()()()()()()()()()()

 しかし、今のキョースケとキリングの立場上、それは叶わず。


「戦わないの? キョースケくん?」


 マッマが素朴な疑問を口にする。

 それもそうだろう。

 キョースケもキリングも少し言葉を交わしただけだというのに、戦意を萎えさせているからだ。

 とても今から戦いが始まるとは思えない。


「……マッマさん。少しリグと話してもいい?」


 その問いにマッマは笑顔で応える。

 拒む理由などない。


「ええ。もちろんよ」


「ありがとう」


 シンとJokerは少し離れた位置で火花を散らしている。

 戦闘の余波だけでも激戦が繰り広げられているのが分かるほどに。


 キョースケはシンを一瞥した後、キリングへ話しかけた。


「なんでここへ来たの?」


「Jokerさんの頼みでさ。本当は来たくなかったけど」


「オレが相手だから来たんじゃなくて?」


「そんなわけないでしょ。第一、俺と君に何の繋がりが――」


「リグ。本当はオレに怒ってるんでしょ?」


 キリングの言葉を遮ってキョースケが問う。

 雨は次第に大粒のものへと変わり、キョースケとキリングの頬を雨粒が叩いていく。


「…………」


 キリングは相も変わらず微笑を浮かべている。

 ただ、余裕はなかった。

 無理やりに表情を作っているために、口を開けば感情が零れてしまいそうだったから。


「――――」


 対して、キョースケは歩を進める。

 ゆっくりとキリングの元へと。


 キリングは迎撃行動を取らねばと思いつつ、しかし身体が動かなかった。

 キョースケに怯えているわけではない。

 体が竦んで動けないわけでもない。


 ただ、キリングの胸中に渦巻くキョースケに対する感情が、行動に制限をかけているのだ。

 どう動いたら良いかも分からなければ、自分がどういった目的でこの地へ来たのかもまともに考えられなくなっている。


 ただただ近づいてくるキョースケから目が離せない。


 ……そしてキョースケとキリングの距離は至近へ。

 手を伸ばせば手が届く距離でキョースケは立ち止まる。


「リグ。()()()、リグはオレを笑顔で見送ってくれた。これはゲームなんだから好きなように遊べばいいって。

 でも、あれは本心じゃなかったんでしょ……? 本当は――」


「――!」


 キリングはキョースケの言葉を待たずに、ホルスターからハンドガンを抜いた。

 その行動は半ば反射的なもの。

 キョースケにその先を言わせないための攻撃の意思表示。


 ただし、撃鉄は引けなかった。

 キリングにとってキョースケは特別な存在だったから。 


「…………」


 キョースケはハンドガンを向けられていることなど気にも留めず、キリングの顔へ手を伸ばす。

 そして目元を覆っていた黒い仮面を外した。


「――っ」


 瞬間、キョースケは息を詰めた。

 キョースケが見たのは作られたような微笑を浮かべたキリングの顔。

 そして雨粒に混じって滴り落ちるキリングの涙。


 咄嗟にキョースケはキリングを抱きしめようとする。

 立場上は敵だとしても、キョースケとキリングの関係値は深い。


「寄るなッ……!」


 しかしキリングはキョースケを突き飛ばす。


 今、キョースケと触れ合ってしまえば、どうしようもなくキョースケを求めてしまうと分かっているから。

 何もいやらしい意味はない。

 ただキリングは親友としてキョースケの隣に居たいと願い続けてきたのだ。


 キリングにとって、キョースケは人生で初めてできた友人だったから。

 無二の親友だったから。


 しかし、キリングは自らキョースケを手放したのだ。

 キョースケは自らの進みたい道を話し、キリングは彼の背中を押した。

 キリングは半ば押し切る形でキョースケを〈ライフ〉へ送り出した。


「リグ……」


 再びキリングに銃口を向けられるキョースケ。

 キリングも今度は撃鉄を引いている。

 いつでも発砲できるように。


「戦うしかないんだよ。キョースケ。敵として」


 対するキョースケも鞘から剣を引き抜く。


(――目的を忘れるな。シンとマッマさんに迷惑をかけるわけにはいかないんだ)


 キョースケは胸中で呟く。

 ここに来たのは巨悪X――ビカルタンを倒すためだ。

 立ちはだかる敵がかつての友であろうと、負けるわけにはいかないと。


「【ガーディアンズ・スラッシュ】【ガーディアンズ・リフレクト】」

「【クイック・リトリーブ】【エンハンス・デクステリティⅢ】」


 キョースケの身体と剣は光を纏い――

 キリングは種々のアイテムをインベントリから即座に引き出す。


「マッマさん! 戦うよ!」


「――ええ、待ちくたびれたわ!」


 瞬間、キリングにマッマが肉薄。

 その手には剣が握られていない。


 マッマが選んだバトルスタイルは()()()()

 2週間のPKKによる戦闘経験の蓄積により、マッマは自身に適したスタイルを確立したのだ。


 ここでマッマ、キョースケ、キリングの3者のステータスを見ておこう。


 ――――――――――

 PN:マッマ

 ID:12751909

 討伐カウント:30


 レベル:232(SSP:0)

 HP:500

 MP:0

 STR:500(+300)

 VIT:500(+300)

 DEX:0

 AGI:820(+2620)


 スキル:なし


 武器:なし AGI×2

 上半身:G3〖冒険者のアーマー〗VIT+300

 下半身:G3〖冒険者のレザーパンツ〗AGI+300

 籠手:G3〖冒険者の籠手〗STR+300

 靴:G3〖冒険者のブーツ〗AGI+300

 アクセサリー:G3〖敏捷の指輪〗AGI+300

 ――――――――――


 まずはマッマのビルドからだ。

 シンとキョースケの2人とパーティを組みつつ2週間にわたりPKKを続けた結果、マッマのレベルは大幅に上がっている。


 PKKによって倒されたオレンジ・プレイヤーは『レベルを1~5%ダウン』させ、レッド・プレイヤーは『レベルを1~10%ダウン』させる。

 そして失った分の経験値がPKKした人物に流れるため、PKKは効率よくレベルを上げることができるのだ。


 ただし注意すべきはプレイヤー・キラーのほぼ全員が対人戦に慣れていることだ。

 マッマのようにレベルや装備の格で劣りながら、PKKをするのは簡単ではない。


 さて、マッマのビルドはAGI特化の徒手空拳スタイルだ。

 装備もG2の“冒険者シリーズ”からG3のものへとランクアップしている。


 さて、徒手空拳についても解説する。

 ここでは武器を一切装備せず、無手で戦うスタイルを徒手空拳スタイルとする。


 徒手空拳のメリットはAGIに大幅な補正がかかることだ。

 武器によるステータス補正を得られない代わりに、AGIに2倍の補正がかかる。


 対して、徒手空拳のデメリットは相手の攻撃を受けにくいことだ。

 武器が剣ならば敵の攻撃を剣で受けることで、プレイヤー本人はダメージを受けずに済む。

 しかし、敵の攻撃を拳で受け止めればダメージをモロに受ける。

 自然、攻撃は躱すか、いなすかに限られると言っていい。


 それらを踏まえて、マッマは得意の格闘技を武器としたAGI特化型を選んだのだ。

 攻撃が直撃するのを躱しつつ、敵をいなして倒す。

 マッマの技巧があって成立するバトルスタイルとも言える。


 続いてキョースケのビルドを見よう。


 ――――――――――

 PN:キョースケ

 ID:90656663

 討伐カウント:80


 レベル:487(SSP:0)

 HP:1200(+1021)

 MP:200

 STR:1170(+1015)

 VIT:800(+504)

 DEX:0

 AGI:1000(+508)


 スキル:【自動MP回復】

 スミス・スキル:【ガーディアンズ・スラッシュ】【ガーディアンズ・リフレクト】【自動HP回復Ⅱ】【物理ダメージ上昇Ⅱ】【ダメージ耐性Ⅱ】【致命無効】


 武器:G4〖守護騎士の剣〗STR+505

 上半身:G4〖守護騎士のアーマー〗HP+515

 下半身:G4〖守護騎士のグリーブ〗HP+506

 籠手:G4〖守護騎士の籠手〗STR+510

 靴:G4〖守護騎士のブーツ〗AGI+508

 アクセサリー:G4〖守護騎士のブローチ〗VIT+504

 ――――――――――


 PKKによって、キョースケのレベルは2上昇している。

 やはり高レベルになるとレベルアップの速度は緩やかだ。


 スキルは【自動MP回復】を保有。

 毎秒、総MPの1%を回復できる。


 装備も〈ライフ〉幹部のみが身につけることを許されるスミス装備で固められている。


【ガーディアンズ・スラッシュ】は敵を攻撃した際、敵がパリィしたとしても、敵の武器に与えたダメージの5%を敵にも与えるスキルだ。

 貫通ダメージを与えるスキルと覚えておこう。

 当スキルの対策としては、攻撃を受けるのではなく躱すことで貫通ダメージを防ぐことができる。


【ガーディアンズ・リフレクト】はキョースケが受けたダメージの5%を攻撃者本人に返すスキルだ。


【自動HP回復Ⅱ】は毎秒HPの3%を回復するスキル。

【物理ダメージ上昇Ⅱ】は物理ダメージを40%上昇させるスキル。

【ダメージ耐性Ⅱ】は被ダメージを2割減するスキル。

【致命無効】は総HPを超える攻撃を一撃に限り、無効化するスキルだ。なお、時間経過によって再発動が可能になる。


 バランスの良いビルドであり、長期戦を見越したビルドとなっている。

 戦場に少しでも長く立ち、多くの人を守れるようにと言う意味合いが込められたビルドだ。


 続いてキリングのビルドだ。


 ――――――――――

 PN:キリング・タイム

 ID:04681640

 討伐カウント:80


 レベル:528(SSP:0)

 HP:500

 MP:500

 STR:0

 VIT:500

 DEX:1280(+2219)

 AGI:1000(+1128)


 スキル:【エンハンス・デクステリティⅢ】

 スミス・スキル:【サイレント・バレット】【自動MP回復Ⅱ】【クイック・リトリーブ】

 イレギュラー・スキル:【インビジブル】【スティール】【危機感知】


 武器:G4〖静寂のハンドガン〗DEX+545

 上半身:G4〖透化のコート〗DEX+565

 下半身:G4〖魔力回復のジョガーパンツ〗AGI+558

 籠手:G4〖強奪の手套〗DEX+549

 靴:G4〖危機感知のブーツ〗AGI+570

 アクセサリー:G4〖引出の指輪〗DEX+560

 ―――――――――—


 キリングはDEXとAGIの高いビルドだ。

 メインウェポンとしてハンドガンを選択していることから、中距離の物理攻撃を得手とする。


 スミス装備、イレギュラー装備のみで武装を固めているところを見るに、やはりキリングもブイモンの強プレイヤーであるらしい。


 1つ1つスキルを解説していこう。


【エンハンス・デクステリティⅢ】はMPを消費し、DEXを8倍化するスキルだ。

 自己強化系スキルの最上位に位置し、獲得には1500ものSSPが消費されている。


【サイレント・バレット】は一撃に限り、銃声を消すスキルだ。

 消費MPは50で、銃装備にしか使用できない。


【自動MP回復Ⅱ】は毎秒MPの3%を回復するスキル。

【クイック・リトリーブ】はインベントリから即座にアイテムを引き出すスキル。


 そして【インビジブル】は透明化するスキルだ。

 発動時MPは100。毎秒、1MPを継続消費する仕様である。


【スティール】は敵対者の装備もしくはアイテムを確率で奪うスキルだ。

 消費MPは10。

 敵のVITに比べてキリングのDEXが高いほど、【スティール】の成功確率は高くなる。


【危機感知】は半径500メートル以内の危機を察知するスキルだ。

 装備者に向けられる敵意や殺意を鮮明に知覚し、奇襲対策などに使われるサポートスキルである。


 総じて、キリングは正面戦闘を踏まえたビルドではないように思える。

 特に【インビジブル】や【スティール】と言ったスキルは敵の裏をかくためにあるスキルのようだ。


 ビルドの解説はここまでにしよう。



「――邪魔はよしてほしいな」


 戦場に割って入ったマッマに銃口を向けるキリング。

 引き金を引き、銃弾が雨をかき分けマッマへ迫る。


 銃弾の速さは音速を超えている。

 銃声がマッマの鼓膜を打つより早く、銃弾がマッマへと迫り――


「はぁッ!」


 吼えつつ、マッマは銃弾を躱した。

 マッマはキリングの筋肉の僅かな力みから、引き金を引くタイミングを計ったのだ。

 結果、マッマはキリングの放った銃弾を躱した。


 シンに比肩するほどの超人ぶりにキリングも驚愕するしかなく――

 マッマはキリングの懐へ踏み込む。


「――はッッ!!!」


 細腕から繰り出された打撃がキリングを打ち据える。


 しかし、キリングは衝撃をうまく逃がし、後方へ跳躍。

 マッマの超人ぶりを目にしつつ、攻撃の衝撃をうまく逃がしている辺り、キリングの戦闘センスも高い。


 マッマは不敵に笑み、キョースケは追撃に動き、キリングは手にしたアイテムを掌から弾き出す。


 死闘は未だ始まったばかり――

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