第12話 正義の形は色々ある
□フィアドラング支部
「やっほー、お二人さん!」
「さっきぶりだね、キョースケ」
「先ほどはありがとうね。騎士さん」
フィアドラング支部にてシンとキョースケ、マッマは再会を果たしていた。
「マッマさんだよね? 名前はシンから聞いたよ! オレはキョースケ。〈ライフ〉ってギルドでPKKとか治安維持活動してるんだ!」
「キョースケくんね、分かったわ。えっとPKK……って何かしら?」
やはりゲーム用語には疎いらしいマッマが難しそうな顔をする。
説明は任せてと言わんばかりにキョースケが説明をした。
「悪者退治のことだよー! プレイヤーの頭上に名前が表示されてるのを見たことない?」
「あ! そう言えば見たことあるわね」
「その名前がオレンジ色の人はチョイ悪で、赤色の人は極悪人って感じかな!」
「そうなのね~。そういえば最初、チュートリアルでも説明された気がするわ」
マッマの納得を見て取り、キョースケが話を前に進める。
「シン伝てに聞いたとは思うけど、これから3人でPKKしていきたいんだ! このフィアドラングでさ!」
「ええ。楽しそうだし、私もぜひ参加したいわ。でも、キョースケくんはどうして私をPKKに誘ってくれたのかしら?」
マッマの素朴な疑問。
実を言えば、シンもキョースケの真意が分からずにいた。
マッマの実力や容姿、雰囲気などを考慮し、マッマを〈ライフ〉へ勧誘することがキョースケの目的なのではないかというのが、シンの中では有力な説なのだが。
問われたキョースケは人差し指を立てて、八重歯を覗かせて笑んだ。
「難しい理由なんてないよ! ただピンと来ただけ! マッマさんと一緒に居たら面白そうってさ!」
どうやらキョースケに勧誘目的はなかったらしい。
そもそもフィアドラングに来たのは、PKK活動およびロインタワーにいると目される巨悪Xを打倒することだ。
〈ライフ〉の勧誘は任務に含まれない。
「それとシンがマッマさん相手にあたふたしてて面白かったから、一緒に居させてみたら面白そうって思ったんだ~!」
キョースケはそう捕捉した。
キョースケとしては、シンがあたふたしている様子が面白く、マッマと一緒に居させたら面白いことが起こるのではないかと期待したわけである。
ともかくマッマをPKKに誘った理由に深い意味などない。
キョースケはただ一瞬一瞬を楽しんでいたいだけなのだ。
「キョースケって本当に気分屋と言うか……なんというか……」
シンはキョースケの思いつきの行動に振り回されたとも言える。
ただ、シンとしてもマッマを早くも気に入っているので文句はないのだが。
「そう言うことだったのね。キョースケくんは面白いことが大好きなのね」
マッマが笑いかけると、キョースケは腕をブンブンと振って、首をコクコクと縦に振った。
「それはもちろん! ゲームは楽しまなきゃ損だよ! まあ、〈ライフ〉に入った手前、他の人の嫌がることはしないようにしてるけどさ!」
キョースケの悪戯げな笑みを見て、シンもマッマも自然と笑った。
キョースケの笑みは自然と他者の毒気を抜いてしまうのだ。
それも彼自身がゲームを無邪気に楽しんでいるからなのだろうが。
「キョースケの思ってることは分かったよ。それでこれからのことだけど、PKKに行く前にマッマさんの戦い方やビルドをキョースケに説明したいんだ。現場では連携も重要になってくるでしょ?」
シンの問いにキョースケはニッと笑ったまま頷いた。
「シンの言う通りだね! 3人で軽く情報交換してから街に繰り出そー!」
その後、3人は各々プレイスタイルなどを話し、情報共有をし、フィアドラングの街へと繰り出すのだった。
□タルランタ:〈ライフ〉本部
「――キョースケくんはシンさんをしっかりと見てくれているでしょうか?」
〈ライフ〉本部の最高階層で、ハゲ先生はシンとキョースケの動向を少しばかり心配していた。
キョースケはシンとの決闘をする際に、本気のバトルスタイルを見せていいかとハゲ先生に許可を求めてきている。
それもあり、キョースケが無茶をやらかしていないかハゲ先生は心配しているのである。
(キョースケくんがトラブルに巻き込まれるのは問題ないのですが、キョースケくんがトラブルを起こしかねないのが問題なんですよね……)
ハゲ先生は10階からタルランタの街並みを見下ろしながら、少し息を吐いて、ふと隣に視線を移す。
そこにはスーツを身にまとった長身の女性――ルルの姿があった。
ルルは〈ライフ〉と〈ニート〉の活動の橋渡しを行っている女性だ。
ルルは先のシャル奪還会議にも参加していた手練れのプレイヤーでもある。
ちなみに、ルルは今しがた〈ライフ〉本部に立ち寄った次第である。
「お二人の心配ですか。任務が上手く行くかどうかは、ハゲ先生がキョースケさんをどれだけ飼い慣らしているかに懸かっているのでは?」
ツンとした、どこか棘のある言い方。
しかし、ハゲ先生はそれを咎めない。
彼女がこうした口調になるのも無理はないことと知っているからだ。
ルルはキョースケを嫌っている。
それを察してハゲ先生もキョースケをフォローする。
「キョースケくんを〈ライフ〉に引き入れてからブイモン時間で1年の時が経ちました。
その間、キョースケくんは立派に働いてくれた」
「――だからと言って、大虐殺の過去は消えない」
ブイモンにおいては、プレイヤーもNPCも時間経過で復活できる。
命が永久的に失われることがないゲームだからこそ『大虐殺』という過去の出来事も忘れ去られやすい。
とはいえ、キョースケの巻き起こした大虐殺の場にいた者ならば、その凄惨な光景が忘れられないものとなっているはずだ。
ルルもその場を目にしているからこそ、過去に大罪を犯したキョースケが〈ライフ〉にいることをよく思っていない。
「私は立場上〈ライフ〉にも〈ニート〉にも属していませんが、どちらとも関わらせていただいています。
シャルさんのことだけじゃない。ハゲ先生とニートさん達が築き上げた不動の正義に、あのような異物は――っ」
そこまで喋った時、ルルは喉を詰まらせた。
ルルの隣に立つ安寧の象徴が滅多に見せない怒気を発していたからだ。
しかし、それも一瞬のことだ。
ハゲ先生はルルの発言を止めるため、わざと怒気を発したのだ。
完璧に感情をコントロールし、相手の言動をも制したと言える。
「すみませんでした。つい、喋り過ぎました……」
ルルはハゲ先生に向き直り、頭を下げた。
ルルがどれだけキョースケを目の敵にしても、キョースケはハゲ先生の部下だ。
それもハゲ先生が絶大の信頼を置く懐刀の1人である。
だからこそ、ルルは自身の失言を恥じていた。
謝罪を受けて、ハゲ先生はルルの肩に手を置いた。
「あなたがキョースケくんをよく思っていないのは分かります。あなたが目指す正義にキョースケくんはきっと必要ないのでしょう」
少し悲しげにハゲ先生は目を伏せる。
しかし、微笑を浮かべてルルの頭を上げさせる。
「ルルさんはそのまま自らの信じる正義へと道を歩めばいい。ただ、どうか今のキョースケくんを見てやって欲しいのです」
元より、大虐殺自体、ブイモンのルールで禁止されているわけではない。
大虐殺を実行できるほどに強ければブイモンにおいては何の問題もなく、管理AIであるエーダブも介入しないのだ。
ただ、大虐殺によって多くのプレイヤーが殺され、デスぺナによりゲームのプレイ時間を奪われたのは事実だ。
一時期、満足なゲームプレイが行えなくなるほどにウェス大陸全土が荒れ、ブイモン運営に多数クレームが入ったことも事実だが……。
「正義の形は千差万別。人によって信じる正義は違っているのが普通です。キョースケくんにも彼なりの正義の形があるのだと私は信じています」
ハゲ先生はまた外へと視線を向けた。
次いで、ルルもゆっくりとタルランタの街並みを見下ろす。
「キョースケさんなりの正義、ですか」
「はい」
2人はそう言葉を交わし、以降シャル奪還についての情報共有を行うのだった。
そうして日々はあっという間に流れ――
ブイモン時間で2週間、リアル時間では5日程度が経過した。
リアルでは8月直前。
シンとキョースケ、そしてマッマによるロインタワー潜入が――巨悪Xの打倒が始まる。




