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第11話 本気のトリガー

 □タルランタ:シュガー武具店前の路地


「――フッ」


「はッッ!」


 シンとマッマは決闘を繰り広げていた。

 ルールは『1vs1』『スキル使用不可』『アイテム無し』『シンのステータスをマッマと同一のものへ変更』『HPが20%を切ったら敗北』『HP全損なし』だ。


 シンのステータスはマッマと全く同じであり、スキルも使用不可というルール。

 つまり、この決闘では単純なプレイヤー・スキルの差が出る。


 シンもそれを分かった上で挑んでいるのだが――


「凄い……ですね!」


 シンの攻撃がことごとく当たらない。

 シンの剣はマッマの剣により受け止められ――


「うぐぅッ!」


 シンの右脇腹にマッマの左拳が炸裂する。

 攻撃直後に生じる一瞬の隙に差し込まれる打撃。

 それにより、シンの身体が僅かばかり後方へ押される。


「はッッ!」


 普段のおっとりとした雰囲気は一切なく、ライトグリーンのショートヘアを揺らしながらマッマは踏み込む。

 シンに追撃を加えるためだ。


「……ッ!」


 対するシンも迎撃のため、マッマの次の動作に集中する。


(踏み込みが深い……ってことは!)


 マッマはシンの懐に入っている。

 超近接戦ではリーチの長い武器は逆に不利だ。

 剣を振ろうにも剣を振るスペースがないからである。

 ゆえに予測されるマッマの攻撃は剣によるものではなく、その細腕から繰り出される打撃だとシンは推測した。


「はあッ!」


 マッマは右手から剣を放り、無手へ。

 深い踏み込みから繰り出される右拳がシンの鳩尾みぞおちへ迫り――


「……フッッ!」


 シンがギリギリで防衛を間に合わせる。

 マッマの右拳を受け止めるように、自身の左手を合わせた。


(っし……止めた)


 シンが拳を受け止めたと思ったのも束の間――


「ッッッ!?」


 マッマは攻撃を受け止められたことを意に介さず、そのままシンの手首を掴んだ。

 踏み込みの勢いはそのままにシンの背後へ駆け抜け、シンの足を払う。


「ぐはッ……!」


 そのまま重力に従って、シンは地面に顔をぶつけた。

 左腕はマッマによって捻られ、完璧に組み伏せられている。


「勝負ありだな」


 乞食が決闘の終わりを告げた。

 両者HPが20%を下回ったわけではないものの、勝敗は明らかだったからだ。


 マッマは「ふぅ」と息を吐いてからシンの腕をほどいた。


「楽しかったわ。ありがとう」


「完敗です。マッマさんには敵いませんね」


 そう言ってシンは路地に立ち上がる。

 シンの無事を確認してから、マッマが素朴な疑問を口にした。


「1つ聞いてもいい?」


「なんでしょう?」


「シンくん本気だった?」


 マッマの質問に対し、シンは少し悩んだ。

 決められたルールの範疇で、シンはできる限り真剣に勝負に臨んだつもりだった。

 しかし、インフィニット・バラエティ・スライムと戦った時のように『何が何でも勝ちにいく』スタンスではなかったのは明らかであった。


「――シンはまだまだこんなもんじゃねえっすよ、女神様」


 マッマの質問に答えたのは決闘を見物していた乞食だった。

 乞食はシンと共に冒険をしたことがあるからこそ、シンの本気を知っている。

 シンの本気は大抵、メイクなど仲間を守る時に発揮されることを。


 それはそうと、乞食はいつの間にマッマを女神様と呼ぶようになったのだろうか。

 シンもマッマも乞食の呼び方にツッコまなかったが。


「そうよね……。ますますシンくんのこと気に入っちゃったかも」


 マッマは乞食に比べて、シンのことをほとんど知らない。

 シンとはつい先ほど出会ったばかりなのだから当然だ。


 それでもシンの性格や信条といったものは何となく掴めてきていた。

 お人好しっぽいシンならば、きっと自分のためではなく他者のために力を発揮するのだろうと。


「なんか、よく分からないですけど気に入ってくださってありがとうございます」


「うふふ。いいのよ」


 マッマがそう言ったところで、シンの眼前にウィンドウが表示された。

 見ればキョースケからのフレンドメッセージらしい。


「乞食さん、マッマさん、少しだけ相方にメッセージ返信します」


「おお、メイクか」


「いえ、別の相方です」


「ん? ああ……そういや空が何か言ってたな……」


 乞食は何やら一人で納得したようだった。


 シンはチャットを表示し、キョースケからのメッセージを確認した。


『やっほー! デート楽しんでる?』


『デートかは分からないけど楽しいよ。今、決闘したんだけど負けちゃってね』


『……負けちゃったって……シンが?』


『うん。俺がマッマさんに負けた』


『“新星”のシンが……?』


『その異名恥ずかしいんだけど……』


『そ、そっか。了解! それじゃあさ、マッマさんが良ければだけど、3人でPKK活動しない? マッマさんって強いんでしょ?』


『あ、ちょっと聞いてみるよ』


 キョースケからの提案を受けて、シンはマッマに声をかけた。


「あの、これからお時間ありますか? これからフィアドラングで、俺と相方とマッマさんで悪者退治できたらと思って」


 PKKを悪者退治と分かりやすく言い換えつつ、マッマを誘うシン。

 対するマッマはおっとりとした笑みを浮かべてコクリと頷いた。


「あらあら。誘ってもらっちゃって嬉しいわ~。ぜひ一緒に悪者退治しましょ!」


 マッマの承諾を聞き、シンはキョースケに返信メッセージを送る。


『マッマさんも一緒にPKKしてくれるってさ』


『やったー! 最初、マッマさんの動きを見た時からいいなって思ってたんだよね~』


(もしかしてキョースケって、マッマさんを〈ライフ〉に勧誘しようとしてるのかな?)


 シンはふとそんなことを考えた。

 ハゲ先生とキョースケが『〈ライフ〉は人手が足りていない』と言っていたのも記憶に新しい。


 マッマにはフィアドラングのプレイヤーを無力化し、シンに決闘で勝利してしまう実力があり――

 なおかつ、その美貌は〈ライフ〉を華やかに、更に気高いものとするだろう。


 もしくはキョースケが単に気分に従って、マッマを遊びに誘っているだけとも取れるが……。


『それじゃあ、準備できたらフィアドラング支部に来てよ! 待ってるからさ!』


『了解。すぐ行くよ』


 そうしてキョースケとのメッセージ交換は終了。

 シンはマッマにフィアドラングへ戻ろうと告げる。


「〖転移の翼〗はありますか? マッマさん」


「大丈夫。持ってるわ」


「それじゃあ、早速フィアドラングへ移動――」


「――ちょっと待ちやがれ、シン」


 フィアドラングへ移動しようとするシンを乞食が止める。


「時間は取らせねえ。俺とも決闘しようぜ」


 乞食は手慣れた様子で決闘ルールを選定し、シンへと果たし状を送る。


 それをシンはすぐさまOKした。


「こうして1対1で戦うのは初めてですね」


 シンの胸中にワクワクとした感情が沸き起こる。

 マッマとの戦いよりも強く胸が高鳴る。


 マッマとはほとんど初対面だが、乞食は違う。


 ――乞食が相手ならば全力をぶつけてもいいと思える。


「いい顔してんじゃねえかよ。それじゃあ、お前の成長見せてもらおうじゃねえかァ!」


 乞食は威勢よく言い放ち、シンに特大の威圧感を飛ばす。


「行きますよッ! 【エンハンス・ストレングス】【エンハンス・アジリティⅡ】」


【真の覚醒者】は既に発動済み。

 その後、シンと乞食は決闘を開始した。



 ――結果、ものの10秒で乞食は敗北したのだった。


「くそッ……女神様にカッコいい所見せようと思ったのによォ……!」


 地面を叩きながら、悔しがる乞食。

 かっこつけたかった相手の前で『カッコいいところを見せようと思ったのに』と言うのは、かなりカッコ悪い気がするが……。

 そこに気づかない辺り、乞食はやはり残念な男である。


「かっこよかったですよ。乞食くん」


 ただ、女神――もといマッマは乞食に笑みを向けた。

 その言葉が嘘だとしても、乞食は救われた気持ちになった。


「マジっすか……? 女神様……?」


「ええ。本当です。私達はもう行きますが、また今度お会いしましょう。乞食さんと出会えて本当に楽しかったです」


 そうしてマッマは地に伏せていた乞食に慈愛に満ちた笑顔を振りまき、〖転移の翼〗を使用した。

 白い翼は発光を始め、転移開始まで残り10秒のカウントダウンが始まる。


「乞食さん、バイト頑張ってくださいね。ギャンブルもほどほどに。プー爺さんにもよろしくお伝えください」


「おう、任しとけ。女神様は頼んだぜ」


「はい。それじゃあ、また」


「ああ、またな」


 シンと乞食は互いに笑みを交わし、マッマは2人を見て笑みを溢して――

 燐光に包まれながら、シンとマッマはフィアドラングへと転移したのだった。




 ――数分後。

 買い物に出かけていたプー爺はシュガー武具店に帰ってきていた。


「何をしておる? 乞食くんや」


 武具店の中には椅子に座りながら、中空をぼけーっと見ている乞食の姿があった。


「俺を乞食って呼ぶんじゃねえっつーの。シンと女神様を接客してたんだよ。あー、シンがプー爺によろしく伝えといてくれって言ってたぜー」


「シンくんと女神様……とな?」


「ああ。この世界に女神様ってのがいたとはなー。マジで驚いたぜー」


 何やらトロンとした目で語る乞食に、プー爺は困り顔を浮かべた。

 いつも強面で威圧感のある乞食のあまりの変化にプー爺はついていけていないのだ。

 しかも、いきなり女神様がどうとか言っている始末だ。

 プー爺からすれば尚更意味が分からない。


「ともかく色々あったみたいだの。それで装備は売ったのかの?」


「ああ。特大値引きしたさ。なにせ相手は女神様だからなー」


「ふむ。特大値引き……その取引のログは残っとるかの?」


「ああ。これだよ」


 そう言って、乞食はメニュー画面から装備の取引ログを参照した。

 それを見たプー爺がまたも困り顔をした。


「乞食くん……これでは赤字……」


「しょうがねえだろ。相手は女神様だぜ。()()()()()()でも()()()()()()()でもねえ。慈愛に満ちた女神様が来てくれたんだッ……! しかもフレンドにまでなっちまったッ……!」


 両手を絡めて天に祈る乞食を見て、プー爺は頭を抱えた。

 もはや何からツッコめばいいか分からなかったからである。


 そもそもプー爺が乞食をバイトに雇ったのには理由がある。

 理由の1つは乞食の借金返済に協力してあげようという思いからなのだが、もう1つの理由の方がよほど大きな比重を占める。


 現在、プー爺は店番をしている暇がないのだ。

 プー爺はこれから鍛冶師として、新たなスミス装備を作り上げる必要がある。

 お得意さん――否、友人のために。


 だからこそプー爺が店番をできない間は、乞食にしっかりと店番をやってもらわねばならないのだ。


「ともかく儂には手に負えなそうだの……。空くんを頼るしかあるまいな……」


 乞食の浮かれっぷりを横目にプー爺は空に連絡。

 すぐさま空がシュガー武具店に訪れ、乞食を叱り――

 反省した乞食は以降、真面目にバイト生活を全うするのだった。

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