第10話 ルーキーに決闘を仕掛ける男
□タルランタ:シュガー武具店
「装備までオススメのものを選んでもらっちゃってありがとうね」
マッマはG1の“冒険者シリーズ”から、G2の“冒険者シリーズ”に装備を一新。
インベントリ内の素材を少しばかり売った後、手に入ったゴールドでG2装備を購入した形だ。
ちなみにマッマのインベントリ内にはそこまで多くの素材は入っていなかった。
シンとメイクのようにモンスター攻略に執心し、素材の売却をおざなりにしない限り、インベントリ内がモンスター素材で引くほど溢れ返ることも珍しいのだ。
ちなみにG2装備の購入金額は、乞食が大幅に値引いてくれた。
なお、値引きは完全に乞食の独断であり、マッマに良く思われたいがための暴走である。
彼は後々プー爺と空に説教をされるかもしれない……。
「いい感じですね。マッマさんが得意とするのは近接戦らしいですし。“冒険者シリーズ”ならステータス補正もバランスがいい」
“冒険者シリーズ”には散々世話になったシンがそうコメントし――
「めっちゃ似合ってるっす! もう最高っす!」
乞食は鼻の下を伸ばしている。
随分とだらしなく緩み切った顔である。
いつもの彼の威圧感はどこへ消えたのやら。
「ええっと、たしかステータスや装備を組み合わせて、自分のプレイスタイルを確立させていくんだったわね。
ステータスやスキル、装備なんかの組み合わせをビルドって言うんだったかしら?」
マッマの問いにシンが首肯を返す。
「そうですね。マッマさんは近接戦を念頭に置いてSTRとAGIを高めたビルドになってます」
先ほど〖SSPスクロール〗を用い、3人で軽く相談しつつ、マッマのステ振りをし直したのだ。
以下がマッマのステータスである。
――――――――――
PN:マッマ
ID:12751909
討伐カウント:30
レベル:102(SSP:0)
HP:200
MP:0
STR:320(+300)
VIT:200(+100)
DEX:0
AGI:300(+200)
スキル:なし
武器:G2〖冒険者の剣〗STR+100
上半身:G2〖冒険者のアーマー〗VIT+100
下半身:G2〖冒険者のレザーパンツ〗AGI+100
籠手:G2〖冒険者の籠手〗STR+100
靴:G2〖冒険者のブーツ〗AGI+100
アクセサリー:G2〖筋力の指輪〗STR+100
――――――――――
マッマはゲームを始めて半年経つとのことだったが、ログイン時間で言えばそれほど多くなかった。
そのためレベルも100ちょっと。
討伐カウントもG1を制覇した程度のものだ。
マッマはシンのように学校以外の時間のほとんどをブイモンに投下しているような熱心なゲーマーではないのである。
主婦業もあれば、習い事もしており、ブイモンはあくまで息抜きなのだ。
夫や息子たちが楽しんでいるのを見てブイモンを始めたという動機からも、マッマが元からゲーマーでないことは分かる。
なお、ステータスやビルドなどはチュートリアルで教わったものの、次第に基本知識など、あやふやになってしまったものも多かったという。
今回、シンと乞食にビルドを組んでもらったことはマッマにとってかなり有難かった。
「2人とも本当にありがとう。初めて会ったのにこんなに親切にしてくれて」
マッマが頬を少し赤らめて感謝を告げる。
彼女自身、ブイモンを1人でプレイする時間が長かったこともあり、親切にされることが嬉しかったのだ。
マッマに近づいてくるのは大体が下心のある男ばかりだったこともある。
まあ、乞食も下心丸出しな気がするが……。
「いえ、俺もマッマさんと遊ぶのは楽しいですから。新しい出会いを楽しむのもMMOの楽しみ方の1つだと思います」
シンは誰彼構わず友人になりたいというタイプではない。
そんな彼がこんなことを言うのは、シン自身マッマを気に入ったからだろう。
「なんだァ、シンも言うようになったじゃねえか。シンの言う通り、人との巡り会わせもまたMMOの醍醐味だ。俺とシンで良ければいつでも頼ってくれよ」
「頼もしいわ、乞食くん」
「おっふぅ」
いつになく決め顔で喋ったと思えば、マッマからの一言で破顔させる乞食。
そんな乞食を見て溜め息をつきつつ、シンは1つ提案する。
「マッマさんが嫌でなければ、乞食さんとフレンド登録をされてみては? 乞食さんはギャンブル中毒者でどこか残念な人ですが……とても頼りになる人です」
「シン……」
乞食はフレンド登録を促してくれたシンに感謝をすればいいのか――
それともギャンブル中毒者であり残念な人と言われたことにショックを受ければいいのか――
頼りになると言われて喜べばいいのか、かなり複雑な心境となった。
そんな複雑そうな乞食を見て、クスリと笑うとマッマはメニュー欄を操作した。
拙い手つきだが、1つ1つ操作を完了させて、最後にフレンド申請画面を乞食に向けてスワイプする。
「乞食くんよりも大分年上のオバサンだけど、仲良くしてくれると嬉しいわ」
乞食に向けられる聖母のような慈愛に満ちた笑み。
乞食は「うぐッ」と言いながら胸を押さえ、倒れかける。
しかし最後の力を振り絞ってフレンド申請画面に手を伸ばした。
そうして何とかフレンド申請を承諾し、その場に倒れ込んだのだった。
シンが倒れた乞食を休憩スペースへと運んでから。
シンとマッマは座椅子に腰かけながら雑談をしていた。
乞食はといえば、だらしなく口元を緩め、ぶつぶつと「女神だ……この世界に女神はいたんだ」と何やらおかしなことを口走っていたが、今は放置されている。
「マッマさんはなぜフィアドラングへ?」
「色々な都市が見てみたくってね。旅行してたのよ~」
マッマが治安最悪のフィアドラングにいたのは彼女が旅行していたかららしい。
どこか無防備で緩いマッマのことだ。
旅先の情報もそこまで深く調べなかったからこそ、フィアドラングの治安の悪さも知らなかったのだろう。
その結果、先ほどのセクハラ男に絡まれてしまったらしい。
「今までどんな都市に行かれたんですか?」
「タルランタとフィアドラング以外で言うと“決闘都市”バルツァフね。夫が決闘好きみたいで」
「そうなんですね。あ、えと、少し話は変わりますが、マッマさんが強いのって何か理由があるんですか?」
シンはマッマのレベルが102であることを知っている。
マッマはレベル的にはルーキーに類されるだろう。
しかしフィアドラングの街路で見られたセクハラ男への迎撃は、ルーキーの動きではなかったように思えた。
「そうねえ。私、子供の頃から格闘技やっててね。親から護身の為に習いなさいって」
「護身術ですか。なるほど」
マッマのリアルの容姿などシンには知る由もない。
しかし、なぜだかマッマがリアルでも美人でモテそうだとシンも直感していた。
マッマのアバターと彼女自身の雰囲気がマッチしているとでも言うのか――美人が板についているとでも言えばいいのか。
シンの直感が正しいとして、マッマの両親は痴漢などから娘を守るために護身術として格闘技を習わせたというところだろう。
「シンくんも興味ある? 護身術とか格闘技」
「えと、習いたいとは思いませんが、マッマさんと戦ってみたいなと……少しだけ思ってます」
「あら」
マッマが驚いた様子を見せる。
誤解されないようにと、シンは早口で言葉を続けた。
「マッマさんを敵視しているわけではないんです。ただマッマさんの格闘技を体感してみたくて」
要は、シンはマッマの格闘技に挑戦してみたいのだ。
シンの直感はマッマの技量が高次元であることを告げている。
フィアドラングでセクハラ男を無力化した時のマッマの動きは流麗な舞のようであった。
シンの捕捉に合点したのかマッマは微笑んだ。
そうしてインナーの袖を少し巻くって、マッマは椅子を立った。
「いいわよ。戦いましょう」
「ありがとうございます……!」
シンも椅子を立ちあがったところで、店の奥にある休憩スペースから乞食がむくりと身体を起こした。
「そんじゃあ、店の前で戦ってくれ……俺は見物するからよ」
乞食はまだ上手く頭が働いていない様子だ。
しかし問題なく歩けるようで、3人で店の前の路地に出る。
「HPの全損がない決闘ルールで戦いましょう。どんなルールにしたいですか?」
「そうねぇ。具体的にはどんなことが指定できるのかしら?」
シンとマッマは決闘のルールを1つ1つ決めて、ルールを乞食にもチェックしてもらってから決闘を開始するのだった。




