表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
60/68

第8話 大人の色香がシンを襲う!

 □フィアドラング


「ちょっと……やめてください……!」


 人通りが多いとは言えないフィアドラングの街路。


 ブイモン時間は朝7時過ぎとはいえ、フィアドラング上空には厚い雲ができており、日陰となっている場所も多い。

 暗闘都市と言うだけあって、街路にはどんよりとした雰囲気が漂っている。


 そんな街路には1人の女性が男性プレイヤーに絡まれていた。

 その男性プレイヤーはオレンジ・プレイヤーらしく、頭上にオレンジ色でネームが表示されている。


「なぁ、一度デートしてくれてもいいじゃんかよ?」


「嫌です……その、私、結婚してますし」


 男性の顔立ちは整っているが、女性の方は嫌がっているらしい。

 女性はリアルの事情――結婚をしていることを告げれば、男が引いてくれると思ったのだろう。

 しかし、男は余計に嬉しそうに笑んだ。


「いいねぇ。俄然そそられる」


 昨今、仮想現実空間での不倫・浮気はメディアでも問題として取り上げられるようになっている。

 これは仮想世界での行動を夫婦間・恋人間で把握しづらいことに起因するだろう。


 仮想世界において、リアルでの情報を明かさないことは普通なので、余計に不倫や浮気問題は明らかとなりにくい。


 今、街路で女性を口説こうとしている男もそれを分かっているからこそ、人妻らしい女性に言い寄ろうとする。

 仮想世界でデートしても、どうせ女性の夫にはバレないと思っているのだ。


「暴れんなよ?」


 男は女性の腕に手を伸ばした。

 無理やりにでも女性を連れ去る気なのだろう。


 リアルでそのようなことをすれば逮捕案件だが、生憎とブイモンはそこら辺の規定が緩い。

 そもそもがプレイヤー同士の戦闘も想定されたゲームであるからこそ、管理AIによるセクハラの認定基準も緩い傾向にあるのだ。

 腕を掴んだ程度でセクハラ認定していては戦闘が成り立たない。


「あ……や、やめてくださいっ……」


「言ったろ? 暴れんなっつーの」


 腕を掴まれた女性は抵抗し、男性は女性を連れ去ろうとする。

 周囲のプレイヤーは見て見ぬふりだ。

 フィアドラングでは、これが日常。

 この都市を根城にするプレイヤーはほとんどが自らの利益にしか興味がない。


 ――それでも人の為に動こうとする者は少数いるが。


「止まれ、悪漢!」

「こらー! セクハラやめろ! 性欲モンスター!」


 シンとキョースケが女性を助けるため、街路を駆ける。

 両者共にトップスピードは出していない。

 本気で駆ければ、踏みしめたアスファルトが砕けてしまう可能性もあるからだ。


「チッ……〈ライフ〉かよ」


 セクハラ男はキョースケの騎士服を見て、瞬時に〈ライフ〉に目を付けられたことを自覚。

 そして舌打ちをして、渾身のSTRを腕に込めた。

 女性の腕を折ることも厭わず、強引に連れ去ろうとしたのだ。


 しかし――


「――はッッ!」


 女性の様子が変わる。

 男の力を利用して、瞬時に男を組み伏せた。

 その様子はまるで流麗な舞のようであり――


「いッ……!?」


 地面に叩きつけられた男は衝撃に顔を歪めた。

 見れば女性の細腕によって、男の腕は背へと捻られ、手首は完全に極められている。

 見る者が見れば、女性が何らかの格闘技をしていることが分かるだろう。


「あ、あの、だ、大丈夫です……よね?」


 遅れて到着したシンが女性に声をかける。


 呼びかけられた女性は男を無力化しながら、おっとりとした笑みを浮かべた。

 先ほどまでは男に絡まれたことから余裕がなかったようだが、本来はおっとりとした気質らしい。


「あらあら。心配してくれるの~? 優しい子ね~。ありがとう」


「……あ、えと、し、仕事ですので」


 女性の身長は165センチほど、ライトグリーンのショートヘアにエメラルドの瞳はどこか神秘的だ。

 耳が尖っていればエルフと見間違える人がいてもおかしくないほどの美貌。

 ブイモンにエルフと言う種族はいないが……。


 しかし綺麗な顔立ちをしている反面、女性はどこか可愛らしさも漂わせている。

 それに防具の下に隠れた豊満なバストは激しい主張を訴えてくるようで……。


 その女性からは男を釘付けにするようなフェロモンのような何かが発されているようだった。


 先ほど女性は結婚していると言っていたため、年齢はシンよりも上なのだろう。

 だからこそシンは緊張した。

 綺麗な大人の女性と会話する機会などシンにはほとんどないからだ。

 会話する大人の女性と言えば、母親と学校の教師くらいのものだろう。


「とりあえず、オレは性欲モンスターを支部に連行するよ!」


 シンがドギマギしていると、キョースケがさりげなく女性からセクハラ男を奪い取った。

 セクハラ男については色々と情報を吐かせた後、アイテムを用いて監視したりと再犯の可能性を下げる取り組みを行っていくこととなる。


 ちなみに他者接触時にログアウトはできないので、セクハラ男はログアウトによってキョースケから逃亡することはできない。

 セクハラ男に都合よくリアルで異変が起こり、緊急ログアウトが作動しない限りは逃げられないわけだ。


「お姉さんはどうする? 一緒に支部に来る? 狭い所だから落ち着けるか分かんないけど!」


 対する女性は首をゆっくりと横に振った。


「大丈夫よ~。こんなオバサン、そう何度もナンパされないだろうし」


「オバサン……?」


 シンが不思議そうに首を傾げた。

 目の前の女性はどう見てもオバサンには見えなかったからだ。

 エルフと見間違ってしまいそうな綺麗な大人の女性。

 もちろんVRゲームゆえ美人となるようキャラメイクされている可能性は高いが。


「あら、どうしたの? 不思議そうな顔して~」


「え、えと、オバサンではなく……お姉さんでは? キョースケもそう思うよね?」


 大人な女性との会話にプレッシャーを感じ、シンはすぐさまキョースケに助け舟を出した。

 先ほどキョースケも女性のことをお姉さんと言っていたので賛同を得られると思ってのことだ。


「うん! めっちゃ綺麗だと思うよ! オレの通ってる学校の担任もこんなに綺麗な人だったら良かったな~」


 と言いつつも、キョースケは担任であるケンケンのことを気に入っているのだが。


「あらあら、嬉しいわ~!」


 そう言って女性は頬を赤らめた。

 感情が表に出やすい人らしい。

 大人な色香を漂わせつつも、分かりやすい感情表現をしてくれるギャップ。

 この女性は今まで多くの男を惚れさせてきたのだろう。


(かわいい……)


 シンもまた女性のギャップに当てられていた。

 ただし、女性に対して恋愛感情を抱いているわけではないが。


 年上の女性に対して失礼に当たるかもしれない感想を抱きつつ、大人の女性に免疫のないシンは依然としてあたふたしていた。


 そんなシンを見てキョースケがニヤリと笑った。


「お姉さんは支部に来ないって言うし、シンはお姉さんのボディガードお願いできる?」


「え……」


 PKK活動も開始から1時間を超えている。

 ずっと同じことを繰り返すよりも、息抜きを挟んだ方がいいとキョースケは考えた。

 それとシンと女性を一緒にしたら面白いのではないかと言う気持ちもある。


 シンが返答に窮していると、女性はパンと手を打ち鳴らした。


「いいの~? 嬉しいわ。私、お友達いなくて寂しかったのよ~!」


「気にしなくていいよー! オレ達の仕事は何でも屋みたいなところもあるし! それにシンは強いからボディガードとして適任なはず!」


「え、ちょ、ちょっと……」


 シンが制止しようとするもキョースケと女性は盛り上がり、すぐさま女性はシンへ頭を下げた。


「あなたが良ければ、少しだけ一緒に遊んでくれないかしら?」


「え、え、ええと……」


 シンが言い淀むと、頭を上げた女性は少し寂しげな表情を浮かべた。


「ふふっ、分かってるわ。ダメよね。こんなオバサン相手じゃ――」


「……っ! 一緒に遊びます! お供させていただきます!」


 その回答を聞いた女性は心底嬉しそうに笑った。

 シンとしては女性の口車に乗せられた感はあったが、ともかく女性の『ボディガード兼、遊び相手』を遂行しようと思った。


 やり取りを見ていたキョースケはセクハラ男の首根っこを掴んで、逆の手をシン達にブンブンと振る。


「それじゃあ、しばらく休憩しよー! 用事終わったら、また連絡するからさー!」


「ああ、また」


 シンとキョースケはそうして別れた。


 キョースケがその場を去ったのを見て、女性は豊満な胸に手を置いて自己紹介を始めた。


「私は優谷……じゃなくてマッマよ。よろしくね」


(今、本名言おうとしたよね……? こういうゲーム慣れてないのかな)


 そんなことを考えながら、シンも自己紹介する。


「俺はシンと言います。とりあえず、俺の相方から連絡が入るまで一緒に遊びましょう。もちろんトラブルからもお守りします」


「うふふ。ありがとう。シンくん」


 そう言って頭を撫でられたシンは耳まで赤くしつつ、マッマとフィアドラングの街を歩き始めるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ