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第7話 PKKが様になる男

 □フィアドラング


「シンそっち行ったよ!」


「OK。【エンハンス・アジリティⅡ】」


 フィアドラングの街路。

 純白の騎士服を纏ったキョースケがシンに指示を飛ばし、シンもまた剣を抜いている。

 現在、2人はフィアドラングで戦闘を仕掛けてきたレッド・プレイヤーの相手をしていた。

 なお、敵の総数5名。


 周囲には戦闘を見物するためか、十数名のプレイヤーの姿がある。


 シンが敵の3人を受け持ち、キョースケが敵の2人を受け持つ形だ。


「まさか“狂剣”が相手とはなァ! いつもの相棒はどうしたよォ!?」

「フフフ……黒髪の子は〈ライフ〉の見習いさんですかぁ? フフフ」

「んなこたぁ、どうでもいい! 暴れんぞ、てめぇらァ!」


 獰猛なオーラを放つ5人に対し、シンは冷静だった。

【真の覚醒者】は敵が姿を現した時点で自動的に発動している。

 そのため敵ステータスのコピーは完了。


 そのうえで現在、【エンハンス・アジリティⅡ】を発動したシンの速度は言わずもがな速く――


「【エンハン――」

「【バフ・バイタ――」

「【インパク――」


 キョースケの受け持っている敵も含めて、シンは敵5人に同時に剣を浴びせた。

 一切の無駄のない動きで行われる移動は速く、なにより剣捌きが正確過ぎる。


 シンが狙ったのは喉。

 喉が機能しなくなれば、スキルは原則として詠唱できない。


 ただ、例外としてスキルを無詠唱で発動できる者たちもいるが。


 ともかくシンは敵の首は断たずに、スキル詠唱のみを潰した形だ。


 シンは喉元を抑えて距離を取る敵へ向けて忠告する。


「回復の素振りを見せれば容赦なくPKする。【自動HP回復】持ちがいれば、すぐに回復を中断して欲しい。

 こちらとしては、あなたたちが誰彼構わず暗闘を仕掛けるのを辞めてくれれば――」


「……ッ!」


 しかし、シンの言葉を待たずに5人全員が戦闘の意思を露わにする。


 これもまた当然だ。

 レッド・プレイヤーが喉を潰されたくらいで戦意を萎えさせるわけがない。


 レッド・プレイヤーとは詰まるところ、他者への迷惑を考えずにプレイヤーを殺せる者たちだ。

 ブイモンのデスぺナは1時間のログイン制限。

 加えて、ブイモンはモンスター攻略が主軸のゲームだ。

 本来はPKなどする必要がないのだから、プレイヤーキラーにPKされた方としては迷惑でしかない。


 ついでに言えば、プレイヤー・キラーには頭のネジが外れている者が多い。

 ブイモンというリアルすぎる世界で人を殺せるというのだから。

 血液も、肉を裂く感覚も、匂いも、熱も全てがリアルなこの世界で。


「――まあ、止まってくれないのは分かってたよ」


 シンもレッド・プレイヤーが降伏しないことは分かっていた。


 シン自身、オレンジ・プレイヤーやレッド・プレイヤーに出会ったこともあれば、人伝てにその恐ろしさを聞いたこともある。

 PKに魅せられた者たちを止めるには、結局のところPKで黙らすしかないのだと。


「【エンハンス・ストレングス】」

「【ガーディアンズ・スラッシュ】!」


 シンとキョースケのスキル詠唱が響き、数瞬の後に敵5人は燐光へと姿を変えていた。




「お疲れ! シン!」


「キョースケもお疲れ」


 シンはつい癖で左拳を突きだそうとした。

 しかし、拳を打ちつけ合い、戦闘を労う行為はメイクとだけすると決めている。

 シンにとってメイクはそれほど大きな存在なのだ。


 シンは握った拳を開いて、1つ息を吐いた。


「PKKを始めて1時間くらい経ったね。若干レベルも上がったし、ステ振りしてもいい?」


「もちろん! オレは周辺警戒しとくよ!」


 断りを入れてから、シンはステータス画面を開いた。


 ――――――――――

 PN:シン

 ID:12189698

 討伐カウント:61


 レベル:282(SSP:0)

 HP:300

 MP:100

 STR:200(+1737)

 VIT:200(+539)

 DEX:0

 AGI:520(+723)


 スキル:【エンハンス・ストレングス】【エンハンス・アジリティⅡ】

 スミス・スキル:【ブラック・リヴォルブ】

 イレギュラー・スキル:【インフィニット・インカーネーション】

 オリジナル・スキル:【真の覚醒者】


 武器:G5〖廻拓の剣・黒〗STR+1001

 上半身:G4〖千変万化のアーマー〗VIT+539

 下半身:G3〖獅子怪鳥のレザーパンツ〗AGI+365

 籠手:G3〖獅子怪鳥の籠手〗STR+366

 靴:G3〖獅子怪鳥のブーツ〗AGI+358

 アクセサリー:G3〖獅子怪鳥のブレスレット〗STR+370

 ――――――――――


 シュガー武具店で新ビルドを構築した時は280レベルだったが、レオ討伐やタルランタにおける暴動の際のPKK、そして今しがたのPKKでシンのレベルは282に上がっている。

 獲得した『20』SSPはAGIに振った形だ。


 ちなみに高レベルになるほどレベルアップに必要な経験値は多くなるため、数度のPKKを経てもシンのレベルは大きく上がっていない。


「シンってどんなビルド?」


 不意にキョースケが質問してきた。

 それに対し、シンは深く考えず返答する。


「AGI特化だよ」


「ん?」


「え?」


 キョースケが疑問の声をあげたので、シンも首を傾げた。

『AGI特化』であることに何かおかしな点はあっただろうかと。


「気のせいかもしれないけど、シンって戦うたびにステータスが変わってる気がしてさー」


(…………マズい)


 シンは【真の覚醒者】のことを失念していた。


 キョースケは以前インフィニット・バラエティ・スライムと戦うシンを野次馬根性で見ていたと言っていた。

 インフィニット・バラエティ・スライムと戦っている時のシンは、キョースケの目にAGI特化として映ったはずだ。


 しかし、先ほど訓練場でキョースケと手合わせしたシンのステータスはSTR特化となっていた。

 これはキョースケの本気のビルドがSTR特化だったからだ。


 そして今しがたの戦闘では、もっと複雑なことが起きていた。

【真の覚醒者】は敵が複数いる場合、各種ステータスにおいて敵の中から最も高いものをコピーする。

 つまり敵5人のステータスのいい所どりができる。

 シンのステータスは全体的にいつになく向上していた。


 つまり、だ。

 キョースケから見たシンのビルドは定まっていないと言える。

 シンの動きのキレからしてAGI特化と言われれば信じれないこともないのだが……。


「あ、え、ああ、ええと……」


 シンが困っているのを見てキョースケはニッと笑った。


「そんな困るなって! あれだろ! スミス・スキルとかの兼ね合いだろ? 別にシンの強さの秘密を暴こうとしてるわけじゃないし安心してよ!」


「あ、ああ」


 キョースケの言葉に、シンはどう答えたものか微妙な返答をした。


 確かにスキルの兼ね合いでシンが強化されているのは間違いないが、キョースケもまさかオリジナル・スキルによる強化とは思うまい。

 そもそもオリジナル・スキルという言葉自体、世界では知られていない。


(【真の覚醒者】ってオンとオフの切り換え――できそうだね)


 使用法に疑問を覚えると同時、シンに感覚補助システムが働いた。

 瞬時に【真の覚醒者】の詳細な使用法を悟る。


(オン・オフの切り替えは可能……か。でも、とりあえずオンにしといていいかな。もし誰かに何か言われても『スキルの兼ね合い』って言えばオリジナル・スキルについては明かさなくていいし)


 一人で納得し、シンはキョースケに話しかける。


「ともかくステ振りは完了。PKKに戻る感じでいい?」


「おう! ていうか、1時間PKKしてみた感じ、シンって結構PKKに慣れてるよな!」


「え、そうかな?」


「うん! さっきも敵に向かって降伏を促したりしてたし、手慣れてたよ!」


「……俺自身〈ライフ〉や他の自警ギルドには世話になってるからさ。見様見真似だよ」


 それに加えて、シン自身がプレイヤー・キラーのことをよく思っていないからこそPKK活動が板についているともいえる。

 プレイヤー・キラーや犯罪者を取り締まる〈ライフ〉と、シンの性格はマッチしていると言える。


「なるほどねー。それと敵の喉を正確に潰したのも凄かったなー! 殺さずに生かすテクニックが使える場面もあるかもしれないし!」


「プレイヤー・キラーが好みそうなテクニックだね……」


 シンが思い描いたのは、喉を潰してスキルの詠唱を封じ、相手方に恐怖を与えて無理やり要求を通すプレイヤー・キラーの姿。

 もちろんシンの想像でしかなく、実際にそんなプレイヤーがいるかは分からないが。


「あはは! シンはプレイヤー・キラーに転身しても上手くやってけるかも?」


「嫌だよ、そんなの。俺はただ仲間とゲーム攻略してたい平和主義者なんだから」


「冗談だって! シンにプレイヤー・キラーなんて似合いそうもないし!」


 キョースケがニッと笑い、その悪戯げな顔を見てシンも自然と笑みを零す。


 その後も会話を交わしつつ、2人はフィアドラングの街を巡回していく。



「――ちょっと……やめてください……!」


 人通りの少ない街路で女性の困ったような声が聞こえたのは、2人が歩き始めてからすぐのことだった。

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