第6話 虚構を遊ぶか、虚構に縋るか
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デスクの上では複数のモニターが明かりを放ち、その明かりがどことも知れない空間を照らしだす。
闇に包まれた空間にはチェアに座り、肉を食むプレイヤーの姿があった。
「ムガミがまた何かやらかしてるみたいダナ。困ったもんダゼ」
プレイヤーの名は『ビカルタン』。
〈フィクション〉幹部の1人であり、ムガミの右腕として知られるプレイヤーだ。
灰色髪に水色の瞳をした青年。
スーツ姿で眼鏡をかけており、語尾に独特のイントネーションがみられる。
容姿から判断して20代前半と言ったところか。
興味の赴くままに世界を駆けるムガミとは違い、ビカルタンは世間にその身を晒さない。
世間にその身を晒さずとも、機械操作スキル【マシン・コントロール】を用いれば情報は手に入るし、充分に遊べるからだ。
「――仕方ありませんよ。それがわたし達〈フィクション〉の在り方ですから」
そこでビカルタンに返答したのは、ビカルタンのチェアの後ろに立っていた少女。
黒髪のボブカットに黒い瞳。身長は150ほどか。
平凡な容姿をした彼女もまた〈フィクション〉幹部の1人『ギル』だ。
ビカルタンとギルの幹部2人がムガミを――引いては〈フィクション〉を支えているといって差し支えない。
基本的に機会を自在に操るビカルタンと、諜報の天才であるギルの手腕が合わされば情報には困らない。
情報戦と言う土俵で、2人は“情報王”ニート相手であろうと張り合ってみせるだろう。
ビカルタンは肉を食み、ワインを飲み、愚痴をこぼす。
「正直言って俺、他にやってたことあるんだヨナ」
「戦争の誘発でしょう? やってることはムガミ様と変わらないですよね?」
「大違いダヨ。俺が誘発する戦争は“三強”を潰し合わせるためのものダ。その潰し合いに〈フィクション〉は巻き込まれナイ。
反面、ムガミがけしかける戦争の盤上には〈フィクション〉というギルドがベットされテル」
ビカルタンが個人的に起こそうとしていたのは“三強”の潰し合いが生み出す戦争。
“三強”とはブイモンに名を馳せる3つの強豪ギルドのことである。
ビカルタンが“三強”を潰し合わせる意味は未だ不明であるが……。
「…………確かに。そう言う意味では大違いですね」
ギルは呆気なく引き下がり、ビカルタンは困ったような表情を浮かべる。
「ギルみたいにムガミを信奉してれば、今回のムガミの決定をすんなり受け入れられるだろうケドナ。
まあ、しょうがねえヨナ。〈フィクション〉に囲ってもらってる以上、俺もデカい口なんて聞けねぇカラ」
ビカルタンはそう言ってワインを呷る。
今しがたの会話や彼自身の感情も“全知”であるムガミには筒抜けなのだろうと思いつつ、ビカルタンはそれでも構わないと笑った。
元より、ビカルタンは無法者。
ムガミとも互いの利害が一致したから協力しているにすぎない。
むしろ〈フィクション〉内部を見ても、ギルのようにムガミを信奉している者の方が少ないだろう。
テロや戦争と言ったイベントに心躍らせる、頭のネジが少し外れた者たちの集合体が〈フィクション〉である。
ムガミを信奉しようと、テロや戦争を楽しもうと個々人の自由。
ある意味で、彼らが最も自由にVRMMOを遊んでいると言えるかもしれない。
これは他のPKギルドや犯罪ギルドにも当てはまることかもしれないが。
「それで今は何を見ているんですか?」
ギルの問いにビカルタンは「ん?」と呟いて、ギルを手招きした。
そして無詠唱で機械操作スキル【マシン・コントロール】を発動。
即席のチェアを作り出し、ビカルタンは機械の椅子に腰かけ直した。
「機械の椅子は硬いからナ。俺が機械椅子に座るゼ。ギルは普通の椅子に座るとイイ」
「……ありがとうございます」
ギルとしては立ち見で良かったのだが、椅子を用意してもらった手前『座らない』とは言いだしづらかった。
ギルは柔らかな感触の椅子にちょこんと腰かけてモニターを見上げる。
「これはフィアドラングの街並み……ですね」
「そうダナ」
「なぜ……。もしかして“新星”の件ですか?」
「まあ、そうダナ」
その返答を聞いて、ギルは首を傾げた。
というのも、“新星”のシンがフィアドラングに来るという情報をギルは前もってビカルタンに伝えている。
その時、ビカルタンはシンに興味を示さなかったのだ。
しかし、ギルがビカルタンと数時間ぶりに会ったと思えば、彼はシンを監視しているのである。
ギルはビカルタンの心境の変化を不思議がっているのだ。
「“新星”についてはノータッチのつもりでは? 心変わりですか?」
ギルが率直に疑問を口にする。
対してビカルタンはワイングラス片手に首を横に振る。
「いや、そうじゃナイ」
その返答に、またもギルは首を傾げる。
そんな少女の愛らしい様子を見て、ビカルタンは1つワインを呷った。
「見ていれば分かるサ。ともかく俺は“新星”なんぞに興味はナイ。ついでに言えば“戦乙女”を巡る戦争にも興味がナイ」
“戦乙女”とはシャルの異名である。
世に広く知られた名ではなく、一部の人がシャルをそう呼ぶだけだが。
「そうですか……。それにしても圧巻ですね。この数の中継映像が並ぶと」
フィアドラングの街に設置された録画機器〖マジック・カメラ〗。
その中継映像がデスク上の複数の巨大モニターに映し出されている。
「市販の〖マジック・カメラ〗も使ってるケド、要所は婆さんの作った特別性も使ってる感じダナ」
ビカルタンの言葉を受けてか、特別製の〖オート・マジック・カメラ〗が作動する。
優先観測対象としてシンを映すよう命じられた〖オート・マジック・カメラ〗は、フィアドラングを歩くシンと隣を歩くキョースケを映し出した。
「“新星”たちの狙いは俺の首だったヨナ?」
「そうです。PvPの練度向上も兼ねて、ゲーム内時間で2週間ほどPKK活動に専念し、その後ロインタワーに乗り込んでくるでしょう」
諜報の天才であるギルが確度の高い情報を述べる。
どうやらギルは空やニート達が行った会議の内容をいち早く掴んでいるらしい。
どうやって情報を得たのかは不明だが……。
「まあ、俺の場所まで辿り付けるもんなら辿り着いてみろって感じダナ」
ビカルタンはまたも肉を食みながら、笑う。
対するギルの表情は硬い。
「ですが“狂剣”もいます。それに、どうも情報が簡単に手に入りすぎている気も……」
ギルは諜報に長けている。
情報収集の手管は追々明かすが、ギルならば空達の会議内容を知ることは難しくない。
ただそれでもギルにはどこか上手く行きすぎているような――わざと情報を掴まされているのではないか、という悪い予感があった。
ちなみに“狂剣”とはキョースケの異名である。
「考えすぎダナ。“狂剣”も今や脅威じゃナイ」
ギルの心配は杞憂であると笑うビカルタン。
そんなビカルタンに、ギルはとある1つの可能性を提示する。
「“狂剣”以前の彼が相手になるとすれば?」
ギルの問いにビカルタンの肩が少し震えた。
ビカルタンもギルも、キョースケが“狂剣”と呼ばれる以前のことを知っている。
だからこそ――
「考えたくもないナ」
ビカルタンは食事の手を止めてモニターに映るシンとキョースケを見る。
キョースケがロインタワーにて本気を出してくるかは分からない。
いや、キョースケのプレイスタイルを考えればロインタワーで全力を出してくる可能性は低い。
キョースケが全力を出せば都市機能の停止にまで影響が及ぶ可能性があるからだ。
〈ライフ〉の幹部であるキョースケがそのような行動に出るとは考えにくい。
ビカルタンもギルもそう考えている。
しかし、もしもキョースケが本気を出して来たら面倒だと2人とも思っている。
ただし、ビカルタンだけがなおも余裕そうに笑んだ。
「まあ、それでも何とかなるダロ。こっちには援軍もいることからナ」
「?」
ギルは空やニート達の動向を忙しなく追っていたために知らないが、現在フィアドラングには強者が降り立っている。
ビカルタンは【マシン・コントロール】を発動し、モニターに2人のプレイヤーを映し出した。
「――っ! 彼らは……!」
ギルがモニターを確認し、すぐさま戦慄する。
ビカルタンに“全知”の力などないが、それでも分かる。
シンとキョースケはこれより強大過ぎる敵を相手にし、敗北を喫するだろうと。




