第2話 行ってみたい都市ってある?
□“暗闘都市”フィアドラング
〖転移の回廊〗でフィアドラングに移動してきたシンとキョースケ。
2人はひとまず〈ライフ〉のフィアドラング支部に向かって歩いていた。
走って向かわないのは、会話しつつ互いの距離感を測りたいという気持ちからだろう。
「シンって今280レべくらいって言ったっけ?」
「あ、うん。キョースケは485レベだよね?」
「そだよー! ブイモンが発売されてすぐゲーム始めたからレベル高いんだー! 受験勉強とかそっちのけでブイモンばっかやってたら親に怒られたけどねー!」
暗赤色の髪を風に揺らしながら、キョースケは悪戯げに笑う。
ちなみに高レベルになるほど、レベルアップに必要な経験値は上昇していく仕様だ。
「どう? フィアドラングに来た感想は?」
暗い金色の瞳でシンを見ながら、キョースケは質問した。
先ほど〈ライフ〉本部でハゲ先生を交えて会話して、キョースケはシンのことを大まかに知っている。
シンが8大都市の内、タルランタと“賭博都市”キュラシー以外訪れたことがないことも。
そのため、キョースケは世間話がてらフィアドラングの印象を尋ねたのである。
対するシンは周囲の景色を見て率直な感想を述べる。
ちなみにキョースケにリアバレする様子はなさそうので、今のシンはリアバレのリスクを考えていない。
「なんか海外旅行に行ったら、こんな感じなのかな……って思った。
タルランタはファンタジー世界って感じがするんだけど、フィアドラングは現実にありそうな世界感って感じがする」
例えば、タルランタの街路は未塗装もしくは石造りであるのに対し、フィアドラングの道はアスファルトが主流だ。
家屋についても、フィアドラングの家屋にはコンクリートなどが使用されている様子も見られる。
またフィアドラングには高層ビルや集合住宅、歓楽街や遊園地と言った場所もある。
「確かに海外に来たなって感じするよねー! フィアドラングだけじゃなくて、他の都市も色んな特色があって面白かったりするんだよ!
シンは行ってみたい都市とかある?」
その質問を受けて、シンは脳内に8大都市を思い浮かべた。
しかし、考えてみるも行ってみたい都市がなかなか出てこない。
そもそもシンはモンスター攻略にばかり精を出していて、8大都市のことをよく知らない。
「実を言うと……あんまり都市のこととか知らなくて……」
キョースケはシンが様々な都市を訪れたことがないことは知っていた。
しかし、そもそも都市の情報自体が頭に入っていないとは思っておらず……。
「そっか! まだブイモン始めて4カ月だもんな! ん? まだ4カ月? もう4カ月? どっちが正しいんだろ?」
「多分、もう4カ月の方が正しいかと……」
シンが困り顔をすると、キョースケは悪戯げに笑った。
「シンってば4カ月でG4相当のEBM倒しちゃったり、オレが倒せなかった“ルーキー狩り”倒しちゃったりしてるからさ! 何かルーキーって感じしなくて!」
「いやいや、まだまだ知らないことばっかりだよ」
「よーし。それじゃあ、先輩であるオレが8大都市について教えてあげよー!」
〈ライフ〉のフィアドラング支部まではまだ歩くようだ。
ゆえに話のタネはあった方がいいとシンも思った。
「それじゃあ、よろしくお願いします」
「敬語じゃなくていいよー!」
「それじゃあ、都市について教えてよ。キョースケ先輩」
シンは冗談ぽく『キョースケ先輩』と言ってみた。
ツッコミが来るかと思ったのだが、キョースケは胸を張って説明を始めた。
どうやら先輩と言われたのが嬉しかったらしい。
「ふふん! それじゃあ、8大都市の説明はこのキョースケ先輩に任せなさーい!」
「よっ、キョースケ先輩」
とりあえずシンはキョースケを乗らせておくことにした。
ほぼ初対面であり、キョースケの手綱の握り方が分からないからだ。
シンは一瞬、何も言わずとも息が合っていたメイクとの冒険の日々が恋しく感じられた。
一方のキョースケはシンの気持ちなど気にしている様子はなく、解説を始める。
「それじゃあ、8大都市の位置と特徴を説明していくよー!
まずはシンもよく知る“始まりの都市”タルランタ! 俺たちのいるウェス大陸の中心にあるよ!
ルーキー中心に賑わってる都市だね!
そして、ここ“暗闘都市”フィアドラングはタルランタの真南に位置するかな。
フィアドラングはタルランタとは打って変わってルーキーが寄り付かない都市として知られてる。なんてったってプレイヤー・キラーが多い! 毎日、どこかしらで暗闘が起きてるし!」
また、フィアドラングでは闇取引などが横行していることも特徴だ。
フィアドラングにはルーキーが少ないことから、ルーキー保護を念頭に活動する〈ライフ〉から派遣される人員も少なく、結果として犯罪抑止の動きが弱い。
そうした意味でタルランタとフィアドラングは正反対の特徴を持つ都市と言えるだろう。
「そんでタルランタの南西には“天空都市”ミルヴァーナがあるね! この都市は文字通り天空に浮かぶ都市だよ!」
「雲の上を歩いたりできるの?」
「うん! 不思議だよね~! モコモコした雲を踏んで移動できるよ! “天空城”にはお姫様もいるんだー! ちなみにめっっっっちゃ可愛い子!」
「城に住んでるってことはNPC?」
ゲーム的に『城』と言えば特別な建築物のイメージがある。
そしてシンの中では特殊なスポットに住んでいる者は大抵NPCのイメージがあった。
NPCとはこの世界に息づく真の命たちだ。
シンがチュートリアルの場で出会ったエーダブのように、ブイモンにおけるNPCの自律思考能力や感情表現のレベルは凄まじい。
一見しただけではプレイヤーと変わりが分からないほどに。
「うん! NPCだよー!」
どうやらシンの予想は当たったらしい。
“天空都市”ミルヴァーナの城に住むお姫様はNPCとのことだった。
「そうなんだ。ミルヴァーナ……いつか行ってみたいな」
「やっぱりシンもお姫様に興味ある?」
キョースケが悪戯げな笑みを浮かべつつ聞いてくる。
「まあ、ないと言えば嘘になるけど……それより空に浮かぶ都市を見てみたいかな。城も」
シンは少しばかり天空に浮かぶ都市に思いを馳せた。
空に浮かぶ都市と聞くだけで胸が高鳴る感覚があった。
「それじゃ、次! タルランタの北西にある“賭博都市”キュラシー! ここはシンも行ったことあるんだよね?」
「うん。知り合いのギャンブル好きな人と一度だけ行ったことあるよ」
知り合いのギャンブル好きとは、カフェ・スカイの常連である乞食である。
数カ月前にシンとメイク、そして乞食という3人でキュラシーに行ったのだ。
ちなみに、乞食はギャンブルで負けまくり、賭博場で働く人たちに身ぐるみをはがされていた。
シンとメイクはといえば年齢制限によりギャンブルはできなかったが、優男の口利きで豪華なパーティに参加したりもした。
乞食は一文無しとなり、半裸状態だったのでパーティ会場の外で留守番だったが……。
“賭博都市”と言っても、ギャンブル以外にも様々な娯楽が揃っている都市と言える。
「そしたら次はタルランタの北に位置する“地底都市”アドエンテだね! ここは地下にある都市だな!」
「地下にあるってことは光源はどうするの?」
「都市の至るところ――岩壁とかが発光してるから明かりには困らないかな! めっちゃ幻想的な都市なんだよ!」
“天空都市”に続き“地底都市”はまさしくファンタジーのような都市なのだろうなとシンは思った。
「そんで“地底都市”アドエンテの北には都市がもう1個あるんだ! それが“港湾都市”ユントマー!
ユントマーの港からはイーオ海を縦断する豪華クルーズ船『クイーンズ・モンスター』が出港することでも有名だよ!」
「あ、クルーズ船については聞いたことある」
つい先日、カフェ・スカイにてブイモンに関するニュースを尋ねたところ優男が教えてくれたのだ。
「クルーズ船めっちゃ楽しいから一度乗ってみるのをオススメするよー!」
キョースケはクルーズ船で遊んだときのことを思い出してか楽しげに語る。
その楽しげな様子を見て、シンも少し笑ってしまう。
キョースケのテンションは高いが、鬱陶しさや嫌みはない。
シンはキョースケに対し、早くも初対面特有の苦手意識をなくしてきていた。
「残る都市はあと2つだよね?」
シンが聞くと、キョースケはニッと笑って首肯する。
「そだよ! タルランタの北東に位置する“和風都市”ジャパンと、タルランタの南東に位置する“決闘都市”バルツァフだね!」
「“和風都市”ジャパンってそのまんま過ぎるネーミングだね」
「まあ、分かりやすいネーミングだよねー」
「ジャパンはどんな都市なの?」
「んー、昔の日本って感じだよ! 戦国時代とかそんな感じ? 着物とか刀とか身につけてる人も多いかな!」
「なるほど」
ちなみにジャパンでは、もう少しで祭りがあるという。
屋台が並んだり、花火が打ち上ったり。
夏の季節はジャパン以外の都市でも夏祭りは行われるが、ジャパンにおける祭りが最も大規模で派手である。
「最後は“決闘都市”バルツァフだね! ここは文字通り決闘の街だね! 街並みはタルランタに近いよ! ただ都市の中にたくさんコロシアムがある感じかな!」
「コロシアムって決闘場のことだよね?」
「うん! 円形の戦闘フィールドを囲うように観客席があってさ! めっちゃ賑わってるんだよ!」
そこでシンは少し疑問に思ったことを口にする。
「決闘って普通のPvPとは違うんだよね?」
「そうそう! 決闘は当事者同士でルールを設けて、そのルールに則って戦うんだ!
決闘ではHPが一定以下にならないようにルールを決めて、デスぺナを避けるのが一般的かな!」
「へぇ、それは初めて知った。決闘ならデスぺナにならずにPvPの練習ができるんだね」
一瞬、シンはシャル奪還のためのPvPの練習を“決闘都市”で行えばよかったのではと考えた。
しかし、すぐに空やハゲ先生に言われたことを思い出す。
フィアドラングにおけるPKK活動では、プレイヤー・キラーを殺すことで多くの経験値を得て、レベルを上げる目的もあるのだ。
対して、決闘では相手を殺すことができず、シン自身のレベルが上がらない。
【真の覚醒者】があるとはいえ、シン自身のレベルを上げておくことも大切だ。
理想は【真の覚醒者】を用いずとも敵のステータスを上回っていること。
それにシンの相手が中・遠距離を主戦場とする手合いで、MPもしくはDEX特化だった場合、シンの武器である剣の良さが出づらくなる可能性もある。
そのため、シンの素のステータスを上げておいて損はないのだ。
「バルツァフには“決闘王者”って呼ばれる人がいてさ! その人は決闘で負けたことないらしいよ!
ハゲ先生もPvPでは負けなしみたいだし、“決闘王者”とハゲ先生が戦ったらどっちが強いんだろうな~?」
「“決闘王者”か……ちょっと戦ってみたいかも」
“決闘王者”という名前を聞いて、シンは何となく挑戦したくなった。
その“決闘王者”に『勝ちたい』のではなく、決闘で無敗を誇る者の強さを体感してみたいのだ。
「ルーキーだったのにEBM倒しちゃったシンならいい勝負できると思うよ!
それと各都市には“決闘王者”みたいに有名プレイヤーが1人はいる感じだね。タルランタなら“守護者”や“情報王”、それに“新星”みたいな!」
「“新星”って呼ばれ出したの昨日だよね? もうそんなに広まってるの?」
「広まってるよ! あと、ゲーム内時間ではシンがEBMと戦ってから3日経ってるし!」
「あ、そっか。リアルでは昨日でも、ブイモンの中だと3日も経ってるのか。たまに時間間隔が変になるなあ」
「加速世界あるあるだね~」
その後も他愛ないことを喋りつつ、不意にキョースケが言った。
「あ! 見ーっけた! あそこが〈ライフ〉のフィアドラング支部だよ! いこいこ!」
「うん」
そうしてシンとキョースケは〈ライフ〉のフィアドラング支部に入っていくのだった。




