第1話 臨時パートナー参上!
□〈ライフ〉本部:10階フロア
シンは空のスキル【シャッフル・ポジション】で〈ライフ〉本部の最高階層に移動してきていた。
「――早速、今後の動きを考えていきましょう」
〈ライフ〉本部の10階フロア。
ハゲ先生のデスクとチェアが置かれた広い空間で、シンとハゲ先生は2人で話していた。
どちらも立ったまま、眼下に広がるタルランタの街並みを見ている。
「そうですね。先生」
『ハゲ先生』と呼ぶには些か抵抗があるため、シンはハゲ先生のことを『先生』と呼んでいる。
ちなみにシンは“守護者”と称されるハゲ先生のファンである。
そのため、〈ライフ〉の最高階層でハゲ先生と2人で話せていることにテンションが上がっている状態だ。
とはいえ、シャル奪還のために話し合いはしっかりと行うつもりだが。
「まず私から提案があります」
「お聞かせください」
堅苦しいやり取りだが、2人とも表情・声音ともに穏やかだ。
「空くんの言う通り、シンさんには暗闘都市フィアドラングにて治安維持活動を行ってもらうのがよいかと考えております」
――暗闘都市フィアドラング。
8大都市の中で最も治安が悪い都市として有名だ。
それこそ街路を歩いていれば、レッド・プレイヤーがいることも珍しくない。
一応、フィアドラングにも〈ライフ〉の支部はあるのだが治安は悪化の一途を辿るばかりだ。
元より土地柄からしてフィアドラングにルーキーは寄り付かない。
そのためルーキー保護に重きを置く〈ライフ〉もフィアドラングに人員を割きにくいのだ。
とはいえ、悪が蔓延った結果、他都市に良くない影響があるかもしれないのも事実だ。
そのため〈ライフ〉としてもフィアドラングを完全放置する選択肢は取れない。
「治安維持活動ということはプレイヤー・キラーを相手にPvPの練習をするという感じですか?」
「ええ、その通りです。PvPの練度向上ももちろんですが、PKKで得られる経験値はモンスター討伐時よりも多いですからね。
フィアドラングでの特訓により、シンさんのプレイヤー・スキルとステータスの両面が鍛えられると考えています」
「分かりました。異論はありません」
シン自身〈ライフ〉の治安維持活動を目にしたことは何度もある。
そのため活動自体もイメージしやすかった。
――簡単にまとめるなら、困っている人の助けになる行いをすればいい。
「しかし、ただ治安維持をするというだけでは面白みがありませんね」
ハゲ先生はそう言って微笑んだ。
まるでシャルの奪還という難題が差し迫っていても、いつもと揺らがない精神でゲームに臨むというように。
「そこで目標を決めましょう」
「目標……ですか?」
ハゲ先生のどこか楽しげな顔にシンは首を傾げる。
「はい。フィアドラングへの遠征はゲーム時間で3週間。その間にフィアドラングに潜む巨悪を討ちましょう」
「フィアドラングに潜む巨悪……?」
シンには、その巨悪とやらが誰なのか分からなかった。
元より、シンはタルランタをホームタウンとしており、他の都市にもほとんど行ったことがない。
そのため、シンはタルランタ以外で有名なプレイヤー・キラーや犯罪者に疎いのだ。
シンの質問を受けてハゲ先生は一つ頷く。
「今回、シャルさんを連れ去ったのは“破壊者”ムガミですね。そのムガミの右腕――仮称ですが『巨悪X』がフィアドラングにいると私たち〈ライフ〉は見ています」
ハゲ先生の言い方からも分かる通り、巨悪Xなる人物がフィアドラングに実在するのかは分からない。
ただ〈ライフ〉の調査によれば、かなり高い確率でフィアドラングに実在するようだ。
「その巨悪Xについて分かっていることは何かあるんですか?」
「具体的な戦闘背景をお話すると空くんに怒られてしまいそうなので、詳細は省きますが……巨悪Xは機械を操作するスキルを持っていると目されています」
「機械操作スキル……ですか」
ムガミの右腕――巨悪Xがフィアドラングにいう可能性が高いというのも機械操作スキルが関係している。
フィアドラングの街並みはタルランタとは違い、近代的なのだ。
タルランタが中世ヨーロッパ――ゲーム的王道の世界観なのだとすれば、フィアドラングは現代西洋の街並みだ。
魔法と科学技術が絡んだ街ということもあり、機械操作スキルを持つプレイヤーが根城にするには最適の場所なのだ。
「ええ。そして巨悪Xのいる地点もおおよそ目星がついています」
「それはどこなんですか?」
「フィアドラング中央に聳える高層複合施設『ロイン・タワー』の最高階層ではないかと私は睨んでいます。
というのもロイン・タワーのオーナーが一般プレイヤーの立ち入れる階層に制限を設けており、〈ライフ〉と言えど一定階層以上に立ち入ることができないのです」
わざわざ立ち入れる階層に入場制限をかけている以上、かなり怪しい。
一般プレイヤーの立ち入りが禁じられているロイン・タワーの高階層に、巨悪Xがいる可能性は確かにある。
「まあ、これはあくまで一応の目標です。達成できずとも問題はありません」
シャル奪還を控えて焦燥感を覚えているシンを気遣って、ハゲ先生は任務にゲーム性を持たせてくれたのかもしれない。
あくまでブイモンはゲームであり、ゲームは楽しんでなんぼである。
「分かりました。頑張ります……!」
シンが元気に返事をしたところでハゲ先生の部屋の扉がノックされた。
それを聞いて、ハゲ先生はシンに笑顔で告げた。
「フィアドラングで治安維持活動を行って頂くという話でしたが、私としてはシンさんを1人で向かわせたくはありません。シンさんはPvPにも慣れていないでしょうからね。
ということで、シンさんの遠征にピッタリの相方を用意させていただきました。ただしシャルさんのことは秘密にしてくださいね」
どうやらこれから部屋を訪れる人物はシャル奪還に関わっていないようだった。
しかし、口ぶりからしてハゲ先生はシンに同行するプレイヤーのことを信頼しているようだった。
シンが頷くのを見てから、ハゲ先生は扉に向かって「入ってきていいですよ」と告げた。
その声を聞いた何者かが扉を開き、ハゲ先生の部屋に入室した。
「“ルーキー狩り”の件が終わったと思ったら、また新しい任務~? 最近の〈ライフ〉は大忙しだね~!」
入ってきた人物の声にシンは聞き覚えがあった。
その声はちょうど今朝と昨日の2日に渡って出会ったチャラい少年騎士のもの。
「あ! なんで“新星”がここに!? また会ったねー!」
そうして少年騎士――キョースケは元気よく手を振りながらシンの元へと駆けてきた。
(マズい……)
リアルとは容姿を少し変えているとはいえ、シンとしてはリアバレは避けたい。
仲の良い友人ならまだしも、シンとキョースケはクラスメイトと言うだけで仲が良いわけではない。
顔見知りくらいの関係性だ。
「えっと……どうもです……」
歯切れの悪い挨拶を受けてもキョースケは気にした様子がない。
「聞いたよー! “ルーキー狩り”倒してくれたんだってね! やっぱりG4相当のEBMを倒しちゃう人は凄いなぁ!」
「あ……一応、倒しました……」
テンションに著しく差があるが、会話は成り立っている。
シンのテンションの低さを特に気にせず、キョースケはハゲ先生に視線を向ける。
「それでハゲ先生、新しい任務って?」
そしてキョースケが『ハゲ先生』と言ったことで、シンの脳内で点と点が繋がる感覚があった。
まず、ケンケンとキョースケはシンと同じ学校に通っている。
そしてケンケンとキョースケは夏休み直前のホームルームで生徒指導の教師に向かって『ハゲ先生』と言っていた。
ここへ来て、シンはハゲ先生も自身の知り合いである可能性に気づいてしまったのだ。
(どんな偶然なんだ……)
シンは数奇な運命に巻き込まれたことに驚くよりも呆れつつ、ハゲ先生を見た。
ハゲ先生はと言えば、何やら覇気のなくなったシンを不思議に思いながら口を開いた。
「シンさんとキョースケくんの2人には共にフィアドラングへ行っていただきます。
目的はフィアドラングに潜む巨悪Xを討つことです。
とはいえ〈ライフ〉も人手不足ですから、今回は“新星”と言った異名を冠されるシンさんに協力を依頼したわけです」
昨今の〈ライフ〉は人手不足だった。
これもまたムガミが関わっている。
タルランタ以外の都市で犯罪件数を増やし、〈ライフ〉の仕事を増やした。
そして“ルーキー狩り”騒動、引いてはシャル捕獲に邪魔が入る確率を少しでも下げていたのだ。
ハゲ先生の言葉を聞いて、キョースケも内容を何となく理解したようだった。
「とにかくフィアドラングで巨悪Xを倒せばいいってことか!」
「その通りです。シンさんには詳しく話しましたが、ここからはキョースケくんも交えて話していきましょう――」
そうして3人は会話を始めた。
シャル奪還については伏せつつ、シンがPvPに慣れていないことやフィアドラングで注意すべきことなども話し合っていく。
そうして十数分の話し合いを終えて、ハゲ先生がシンとキョースケに告げる。
「困ったことがあれば、私やフィアドラングにある〈ライフ〉の支部を頼ってください。
2人とも任せましたよ。フィアドラングの悪を暴いてください」
先ほども言った通り、ハゲ先生としては巨悪Xが打倒されずともよい。
今回はシンの強化が第一優先だからだ。
しかし、キョースケに自然な形で任務を引き受けてもらうために巨悪Xの存在を出すのは必要だった。
もちろん、フィアドラング遠征にゲーム性を持たせ、シンの焦燥感を緩和する意味合いもあったが。
「もちろんです」
「任しといて!」
シンとキョースケはハゲ先生の指示に返事をした。
そしてキョースケがシンに向き直って右手を差し出す。
「よろしくな、シン! 友達に“新星”って言うの堅苦しいし、名前で呼ぶよ!」
(いつの間にか友達にランクアップしちゃった……)
シンはぐいぐい来るキョースケに若干戸惑いながらも握手を返した。
そうして人懐っこそうな笑みを向ける新たな相方に告げる。
「こちらこそ、よろしく。キョースケ」
「おー! まあ、気張らずに頑張ろーぜ!」
握手を交わしてから、キョースケは複数人転移アイテム〖転移の回廊〗を取り出して使用した。
キョースケの使用した〖転移の回廊〗を潜れば、その先には暗闘都市が広がっている。
「それじゃ、早速行ってくるよ! ハゲ先生!」
「行ってきます、先生」
「ええ、行ってらっしゃい。2人とも」
そうしてシンとキョースケは暗闘都市フィアドラングへと転移したのだった。




