第12話 狩人を狩る番です
□タルランタ:〈ニート〉本部
「――以上が……“ルーキー狩り”のレオに関する情報だ……」
シンとメイクはニートから“ルーキー狩り”のレオについて情報提供を受けた。
「〈ライフ〉の幹部2人を相手に逃げ果せるなんて、とんでもない強さですね」
レオ相手に戦ったのが、まさか自身の知り合いであるとは露ほども知らず。
シンは驚きつつ感想を述べた。
「でも、レオは規格外の存在じゃないって話っしょ? ニート」
「そういうことだ……理解が早いな……」
メイクとニートの間で行われるやり取り。
シンは2人の意思疎通を見て、話に置いていかれていることに気づいた。
「えっと、どういうこと? メイク?」
聞けば、メイクはニッと笑って解説を始める。
「ニートはウチらを呼んだ。その目的はなんだと思う?」
「それはもちろんレオを仕留めるためかな」
「そうだね。そして話を聞く限りレオは強いけど対処のしようがある。
いい意味で対処できる範疇の強さに収まってるんだよ~」
ここまで聞いても、シンはメイクの言いたいことが分からなかった。
レオが対処できる範疇の強さだとして、つまり何なのか?
要領を得ないシンを見て、メイクは微笑を浮かべたまま言う。
「対処できる強さのレオを討つために、ニートは規格外の才を持つ“新星”を招集した。
これで伝わるっしょ?」
メイクがシンに対して『才能がある』と明言することは珍しい。
今までメイク自身、シンに才能や能力と言った話題を話すことに抵抗があったのだ。
それもシンの歪んだ過去を知ってのことだろう。
今回はメイクも少し勇気を出して発言した次第である。
とはいえ、少しでも雰囲気を軽くすためか、冗談ぽく異名で呼ばわってはいるが。
「……俺に規格外の才能があるかは分からないけど、メイクの言いたいことは分かったよ。
でも、メイクまでその恥ずかしい名前で呼ぶなんて……」
「恥ずかしくないじゃん! かっこいいじゃん! “新星”!」
「ああ。もう好きに呼んでください……」
「冗談だよ~! よしよし!」
反論するのを諦めて敬語になってしまったシンの頭を、メイクは優しくポンポンと撫でた。
その様子をニートは何とも言えない表情で見ている。
「まあ……メイクの言う通りだ……。俺はシンならば……レオを討つことが……可能と考えている……。
いいや……現状、シンとメイクのコンビこそが……最もレオを討つ可能性が……高いと思っている……」
「どうしてです?」
「シンは武力を……メイクは頭脳を……それぞれ有している……。
君たち2人ならば……倒せない敵を探す方が……難しいくらいだと……俺は判断しているのだが……」
「か、買いかぶりすぎでは……?」
恐れ多いと言わんばかりにシンが問うが、メイクがシンの口を塞ぐ。
「ニートの言う通り! シンは最強なんだから!」
「最強……か……。そうだな……」
ニートは微かに笑った。
『最強』という言葉に何か思い入れがあるとでも言うように。
しかしニートはすぐに気を取り直して提言する。
「2人ともレオの……討伐を頼めるか……? もちろん……報酬は弾む……」
「もちろんです!」「もち!」
ニートの頼みを2人は二つ返事でOKした。
シンもメイクも“ルーキー狩り”のレオを好ましく思っていなかった。
ニートから事の次第を聞いただけでも、レオの性格の一端を垣間見ることはできる。
――自らの快感の為に弱者を手にかける。
シンとメイクの精神性はレオの対極に位置する。
2人は困っている者を守るために剣を、杖を向けるのだ。
「うちのクランからも……ギルメンを貸す……。好きに使ってくれ……」
そうして、2人はレオの捜索を始めた。
■晋の自室
〈ニート〉本部にてレオの捜索、及び打倒の計画を立てた後。
晋と楓は現実世界にログアウトしていた。
ログアウトの目的は小休憩のため。
水分補給やストレッチをしてから、晋と楓はお菓子を食べながら雑談をしていた。
「よくよく考えるとさ~」
「どうしたの?」
「1日に4種類もG3モンスター攻略したのって凄いよね~」
「確かに……。学校に通いながらとはいえ、G2制覇するのに4カ月かかったもんね」
「【真の覚醒者】があれば、ゲームクリア余裕説あるかな~?」
楓がそんな説を唱え始める。
確かに今日のゲーム攻略速度は異常と言っていい速度だった。
しかし――
「そんなに甘くないんじゃない? G5の竜王とか一筋縄じゃ行かなそうだし」
G5に位置する現状最強格と目されるモンスター。
5種の竜王たち。
“最強”ナギがギルマスを務める〈フロクロ〉ですら、未だ攻略していない。
それどころか〈フロクロ〉は先日G4を攻略したばかりだ。
「だよね~。言ってみただけ~」
「なんかいつも以上に間延びした声と言うか、気だるそうだね」
晋の言葉を受けて、楓はテーブルに頭を突っ伏した。
なんだかとても疲れている様子である。
「脳疲労ってやつかな~。頭痛はないけど、疲れちゃってさ~」
「そっか。オレンジ・プレイヤー相手に頭使うって言ってたもんね」
晋はつい先ほど行われた戦闘を思い出していた。
計4種のG3モンスターを相手にして、その上オレンジ・プレイヤーとも戦ったのだ。
その上、晋も楓もPvPに慣れていない。
慣れていないことをするのは精神的にも疲れるはずだ。
そんな疲労困憊の楓を見て、晋は迷わず手を伸ばしていた。
「お疲れ様」
そう言って晋は楓の頭を撫でる。
日頃、晋は楓にボディタッチをしない。
楓に触れることで嫌われたり、気持ち悪がられたりするのが怖いからだ。
しかし、今回に限っては『楓を労いたい』という想いが強く、半ば反射的に手を伸ばしていた。
遅れて『頭に触れてはマズかったか』と思いつつも、手を引っ込めるのも違うかと思い、楓の頭を撫で続ける。
そうして30秒ほど撫でた時、晋は異変に気付いた。
楓がテーブルに突っ伏したまま動かない。
というより、力が抜けているのか徐々にテーブルから身体がずり落ちていく。
「っと……」
咄嗟に楓を抱きかかえ、その顔を見る。
すると、楓は口をポカンと開けながらグルグルと目を回していた。
その顔を見た瞬間、晋は血の気が引くのを感じた。
「熱中症……?」
晋は焦り、楓を自分のベッドに寝かせた。
一切の無駄な動きを排除し、全速力で自室を出る。
自室を出たら、すぐに円の部屋へ。
楓の看病に協力をしてくれる人は多い方が良いという判断だ。
「円! 円いないの!?」
円の部屋をノックし、声をかけるも返事がない。
普段ならば妹の部屋に入ることなどしないが、背に腹は代えられない。
今回は楓の命が懸かっていると言っても過言ではないからだ。
「失礼します!」
なぜか敬語になりつつ、妹の部屋を開けると視線の先に円はいた。
しかし、起きていない。
頭に見慣れたガジェット『FVR』を装着しているのだ。
どうやらVRゲームをやっているらしかった。
しかし、すぐに異変に気付いたのか円が起き上がる。
FVRにはリアルでの来訪者が現れた時に、それを通知してくれる機能がある。
自室の扉が何者かによって開かれたことを悟り、円はゲームをログアウトしてきたのだろう。
「なっ……なに? 兄さん?」
「楓が熱中症みたいで!」
「え?」
それを聞いて、円は心配そうにベッドを立ち上がった。
そして晋を押し退けて楓の元へ急ぐ。
晋もその後を追った。
「楓ちゃん? 楓ちゃん!」
円が呼び掛けつつ、ベッドに寝かされた楓の額に手を当てる。
そこで早くも円は異変に気付いた。
「別に熱はなさそう……だね」
「え?」
晋は少し首を傾げた。
熱中症ではなかったのかと。
いや、よくよく考えればクーラーの効いた部屋で水分補給なども行っていたのだ。
熱中症になる要因の方が少ない気もした。
「兄さん……楓ちゃんと何してたの?」
少しジトッとした目で円が晋を見つめる。
対する晋は妹からの視線を受けながら、1つ1つ何が起きたかを思い出していく。
「えっと、ブイモンからログアウトした後は普通に喋ってたよ。ストレッチとか水分補給もして……お菓子を食べて。
それと楓がブイモンで頭を使って疲れたって言ったから、頭を撫でてあげてたら、こんな感じに」
それを聞いて、円は1つ溜め息をついた。
その溜め息は楓が熱中症でなかったことに対する安堵と、ただの呆れが綯い交ぜになったものだったろう。
だらしなく涎を垂らし、目にハートを浮かべている楓の頬を、円は手でパチンを挟むように叩いた。
「あいたぁ!」
それによって楓は意識を取り戻したようだった。
そう、楓は熱中症ではなく、晋に頭を撫でられて幸福のあまり意識を飛ばしただけだったのだ。
「あれ……ウチってば何してたっけ?」
なお、楓は一部記憶を失っているらしい。
晋はその反応を見て一層心配になったが、円は一層呆れているようだった。
「兄さん……頭を撫でるのはやめた方がいいよ」
「あ、ありがとう、円」
何が何やら分からないが、とりあえず晋は円に感謝を述べた。
その後、円は「楓ちゃんばっかりズルい……わたしも頭撫でられたいよぅ……」と超小声で呟いて自室へ戻った。
もちろんその声は誰にも聞こえていない。
「いつの間にVRゲームなんて始めたんだろ? 円」
晋はそんな疑問を口にしつつ、意識を取り戻した楓と雑談を再開した。




