第7話 双翼並び立つ
□タルランタ:シュガー武具店
「――延べ150万ゴールドだの」
「「150万……」」
プー爺が告げた素材の査定結果。
シンとメイクは驚愕しつつ互いに目を見合わせた。
NPC商店で販売されているG3装備の値段は安くて10万ゴールドほどだ。
150万ゴールドもあれば、G3装備を複数買えることになる。
つまり戦力の大幅な増強が見込めるはずだ。
しかし、シンとメイクには言うべきことがあった。
「本当にお手数おかけしました」
「マジごめんね~! ウチらインベントリとかほとんど開いてこなかったからさ~」
シンとメイクはプー爺に頭を下げた。
心なしか、プー爺の顔には疲労が見て取れる。
150万ゴールド分の素材をたった1時間強で査定してくれたのだ。
精神的に疲れてもおかしくない。
しかしプー爺は白髭を触りながら笑顔で応える。
「なぁに、気にせんでいいよ。これも儂の仕事だからの。それで、この素材は買い取っていいのかの?」
「はい。俺もメイクも全て売るつもりです」
「相分かった。それじゃあ、150万ゴールドで取引しよう」
そう言ってプー爺はメニュー画面を操作し、シンとメイクの前にウィンドウを表示する。
それは素材取引に応じるかを確認するためのもの。
シンとメイクはそれぞれ取引に応じ、ウィンドウに触れた。
そうして取引はワンタッチで終了。
シンとメイクが預けていた素材はプー爺へ。
その対価として、プー爺からシンへ77万ゴールド、メイクへ73万ゴールドが振り込まれた。
結果、2人のゴールドはそれぞれ100万ゴールドを超えた。
「――ここからが本題じゃったな」
プー爺は豊かな白髭を触りつつ、本題を切り出した。
素材の査定と売却はあくまで下準備。
本題はゴールドを得た後、シンとメイクの強化にある。
「シンくんはビルド変更とそれに伴う新装備の購入。メイクちゃんは新装備の購入で良かったかのう?」
メイクは「そだよ~!」と簡単に答えた。
そしてシンも肯定の言葉を口にする。
「そうですね。まずは〖SSPスクロール〗を購入してもいいでしょうか? ステ振りをやり直したくて」
「相分かった。ビルドの再構築が終わったらいつでも呼びなさい。
それとこの店は紹介制だからの。人の出入りも少ない。ゆっくりしてくれていいからの」
「何から何までありがとうございます。プー爺さん」
「サンキュー、プー爺!」
そうしてシンとメイクは新ビルドについて考え始めた。
椅子に座りながら、新ビルドについて話し合う2人の様子を眺めつつ、プー爺は微笑む。
プー爺は昔からカッコいい武具が好きだった。
ブイモンで武具店を営んでいるのも『武具が好きだから』という理由に他ならない。
ただ、こうして活気に満ちた若者を見るのも好きだった。
プー爺は友人であるカフェ・スカイの店主――空オススメのインスタントコーヒーを淹れて、2人の元へ運んだ。
2人は嬉しそうに受け取って、楽しそうに話し合いを再開した。
そうして15分ほどした時。
「――よっし。ステ振り終了!」
「いい感じだね~!」
2人はハイタッチをし、それを見たプー爺は笑い皺を作った。
「ステ振りは順調に終わったようだの。よかったよかった」
「お待たせしました。早速で申し訳ないのですが、装備の購入をしてもいいですか?」
「もちろんだとも。2人はどんな装備が欲しいのかの?」
プー爺の質問にシンとメイクは迷いなく答えていく。
「俺はAGI特化ビルドなので、AGIを高めたいです。剣と上半身のアーマーはそのままで」
「ウチはMPとAGIを上げたいかな~! もっとシンをサポートできるようにさ!」
2人の要望を聞いて、プー爺はまた柔らかく笑う。
プー爺の実年齢を考えれば、プー爺にとって2人は孫のような年齢だ。
そのため2人の一挙一動が愛らしく思える。
「相分かった。それじゃあ、目当ての装備を探していこうかの。もちろん、お財布とも相談しての」
「よろしくお願いします。プー爺さん」
「よろ~!」
そうして3人はあらゆる装備を見ていく。
シュガー武具店で扱われている武具は、NPC商店で売られているものよりも上等なものばかりだった。
通常、武具の補正値は素材元のモンスターのレベルに由来する。
例えば、討伐適正レベル300のモンスターの素材で作った武具は補正値が300になる。
剣であればSTR+300となるだろう。
ただ、プレイヤーの鍛冶スキルで作られたスミス装備は違う。
鍛冶師は素材の価値を引き出すのだ。
レベル300のモンスター素材から、ステータス補正値350の武具を作ることも可能なのである。
また、鍛冶スキルを極めた場合、シンが仮面女子から受けとった〖廻拓の剣・黒〗のようなスミス・スキルを付随した装備も作成できる。
――1時間後。
シンとメイクは新たな装備の購入を済ませていた。
既に新しい装備を身に着けている状態である。
「2人とも大分強くなったじゃろう」
満足げに言うプー爺。
シンとメイクはそれぞれ自分の格好を鏡で見ていた。
「何か……ルーキーっぽくない格好になったなぁ」
「感慨深いってやつだね~!」
2人はソワソワしながらも嬉しそうに口角を上げる。
まずはシンの格好から。
ステータスも合わせて見ていこう。
――――――――――
PN:シン
ID:12189698
討伐カウント:61
レベル:280(SSP:0)
HP:300
MP:100
STR:200(+1737)
VIT:200(+537)
DEX:0
AGI:500(+723)
スキル:【エンハンス・ストレングス】【エンハンス・アジリティⅡ】
スミス・スキル:【ブラック・リヴォルブ】
イレギュラー・スキル:【インフィニット・インカーネーション】
オリジナル・スキル:【真の覚醒者】
武器:G5〖廻拓の剣・黒〗STR+1001
上半身:G4〖千変万化のアーマー〗VIT+537
下半身:G3〖獅子怪鳥のレザーパンツ〗AGI+365
籠手:G3〖獅子怪鳥の籠手〗STR+366
靴:G3〖獅子怪鳥のブーツ〗AGI+358
アクセサリー:G3〖獅子怪鳥のブレスレット〗STR+370
――――――――――
シンが新たに購入した装備は“獅子怪鳥シリーズ”。
グリフォンの素材を基に作られた装備だ。
赤褐色を基調とした装備であり、STR・AGIをバランスよく高めてくれる。
そしてシンのスキルにも注目だ。
シンが新たなに獲得したスキルは【エンハンス・ストレングス】と【エンハンス・アジリティⅡ】。
【エンハンス・ストレングス】はMPを10消費し、STRを2倍に。
【エンハンス・アジリティⅡ】はMPを20消費し、AGIを4倍化するスキルである。
どちらも10秒ごとに少量のMPを消費する仕様だ。
そのため、シンはMPにもステ振りを行っている。
【真の覚醒者】で敵のステータスをコピーした上で、上記2つのスキルを使うことで相手のSTRとAGIを確実に上回れるという算段だ。
「ますますカッコよくなっちゃってさ~」
シンの姿を見て、メイクはニッと笑った。
「メイクの方こそ」
シンはメイクの新たな装備を見て微笑んだ。
彼女もまた強くなっている。
メイクが購入した装備はガルーダの素材から作られた“風纏怪鳥シリーズ”だ。
どのような成長を遂げたのか、実際にメイクのステータスを見てみよう。
――――――――――
PN:メイク
ID:70095416
討伐カウント:61
レベル278(SSP:0)
HP:200
MP:480(+1472)
STR:0
VIT:200
DEX:0
AGI:400(+717)
スキル:【クイック・リトリーブ】【バフ・アジリティ】【ファイア・コントロール】
武器:G3〖風纏怪鳥の杖〗MP+378
上半身:G3〖風纏怪鳥のローブ〗MP+371
下半身:G3〖風纏怪鳥のスカート〗AGI+363
籠手:G3〖風纏怪鳥の籠手〗MP+368
靴:G3〖風纏怪鳥のブーツ〗AGI+354
アクセサリー:G3〖風纏怪鳥のブレスレット〗MP+355
――――――――――
“風纏怪鳥シリーズ”は暗めのグレーを基調とした装備だ。
以前までメイクが装備していた“魔術師シリーズ”よりは僅かに印象が明るくなった感がある。
ただ、〖風纏怪鳥の杖〗だけは暗い黄色をしていることもポイントだろうか。
杖にはガルーダのかぎ爪が素材として使われているらしい。
4つの装備を新調したメイクは充分すぎるほどに強化された。
以前に比べ、MPは800以上、AGIは500ほど上昇している。
シンのサポートと【ファイア・コントロール】による攻撃面の活躍。
どちらも今まで以上に期待できるだろう。
「プー爺さん、値引きまでして頂いて本当にありがとうございました。おかげで強くなれました」
「ありがとね、プー爺! また会いに来るからね~!」
プー爺は2人に相場よりもかなり安く装備を売っていた。
優男の紹介ということもあり、初回サービスということで大幅に値引いたのだ。
2人のお礼を受けて、プー爺は何てことはないとでも言うように首を振った。
その口元には、やはり柔らかい笑みがあった。
「またいつでも来ておくれ。儂は暇しとるからの。武器のメンテナンスも受け付けとるよ」
「はい。ありがとうございました!」
「またね~!」
そうしてプー爺はシンとメイクを見送る。
つい先ほどまでシンとメイクはルーキーらしい装備を身に着けていたというのに、今は見違えている。
自分の作った武具を活気ある若者が使ってくれることが、プー爺にとっては嬉しかった。
いや、もう1つプー爺には嬉しいことがあった。
1人になった店内で、プー爺は椅子に座って思いを馳せる。
――シンが携えていた黒の剣に。
――とある1人の少女に。
「やっと想い人を見つけたみたいだの。なあ、シャルちゃんや」
その声は誰に届くこともなく。
プー爺はまた柔らかく笑った。




