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第8話 ニートさんから連絡です

 □タルランタ


 シュガー武具店を後にしたシンとメイクはタルランタの街を歩いていた。


 今日はオークとの戦いに始まり、ワーム・トレント・グリフォンの同時攻略を達成し、その上オレンジ・プレイヤーと戦っている。

 戦うのが好きなシンとメイクと言えども、少し気分転換がしたかった。


 ということで現在、シンとメイクはタルランタの街を散歩しているのである。


「わぁ! このアクセかわい~! うわぁ、このインナーもいいな~!」


 メイクはステータス補正効果のない衣服や装飾品を見て回っている。

 シンも連れだって、メイクの様子を見守る。


「あ……ウチばっかり盛り上がっちゃってごめんね! シンは見たいところとかない?」


 メイクは可愛いものに目がないのだが、シンを第一に優先する。

 ゆえにシンが退屈していないか聞いたのだが。


「メイクが楽しそうにしてるだけで、俺も楽しい」


 シンは微笑みながら、そう言ってくれる。


 デートのような状況で、好意を寄せる相手からの嬉しい言葉。

 自然、メイクの頬が赤く染まる。


「きゅん」


 メイクは胸を甘く締め付けられる気持ちを味わいながら、反射的に呟いた。


(きゅん、って何なんだろう?)


 なお、シンは今日も鈍感だ。

 恋愛ではなく、戦闘であれば勘を働かすこともあるのだが。


 そうしてショッピングを続けていると、唐突に脳内に声が響いた。


(――ニートデスだ……。今話せるか……シン……?)


 話しかけてきたのは情報屋ギルド〈ニート〉のギルマス“情報王”ニートだった。


 シンは慌ててフレンド欄を開いて、ニートへメッセージを打ち込んでいく。


『はい。大丈夫ですよ』


 シンがメッセージを送ると、すぐにニートから思念が送られてくる。


(伝えることは……2点……。まず昨日頼まれた……人探しの件だ……)


 人探しの件とは、シンがニートに依頼したものである。


 シンは〖廻拓の剣・黒〗を貸してくれた仮面女子を探している。

 そして仮面女子に会って感謝を伝え、〖廻拓の剣・黒〗を返したいと思っているのだ。


彼女の協力がなければシンはインフィニット・バラエティ・スライムとの激戦を勝てなかっただろうと思っているから。


(白い仮面を付けた女は……見つけた……)


 その言葉にシンは驚愕した。


 シンが依頼したのは、リアル時間でつい昨日だ。

 ゲーム内時間では2日ほどが経過しているとはいえ、特定が早すぎる。


 ただしシンが感謝のメッセージを打とうとするのを制止するように、ニートが言葉を紡ぐ。


(ただし……問題がある……)


 ニートの言葉を受けて、シンは脳内に疑問符を浮かべた。

 仮面女子を見つけたのなら、後はシンが彼女に会って剣を返すだけとなる。


 人探しという依頼はもう終わったも同然だ。


 シンの疑問を察するようにニートは説明をした。


(仮面をつけた女は…………少々、人見知りでな……。会うならば……心の準備がしたいらしい……)


 その発言にまたもシンは目を丸くする。


(ニートさん、アポイントメントまで取ってくれようとしてくれたのか)


 シンはニートの迅速な行動に驚嘆しつつ、昨日の死闘のことも思い出していた。


 それはインフィニット・バラエティ・スライムに斬りつけられ、シンが死の淵を彷徨いつつも生還した時。

 シンがメイクの元へと駆けつけるまでに、シンと仮面女子は言葉を交わせるタイミングが数度あった。


 しかし、仮面女子は言葉を発さなかった。

 彼女が起こしたアクションと言えば、シンをつんつんと指でつつくことくらいか。


(なるほど。人見知りだから仮面で目元を隠して、言葉も発さなかったのか)


 シンは合点し、メッセージを打ち込む。


『分かりました。彼女の心の準備ができたらで構いません。

それよりもアポイントメントまで取り付けてくれようとしてくださったんですね。ありがとうございます』


 メッセージを送ると、すぐに思念が送られてくる。


(俺が勝手にやったことだ……それに人探しだけして、後は丸投げされても……困るだろう……?

 追加料金を取ったりするつもりはない……安心してくれ……)


 とにかく人探しの件は上手く行っているようだった。

 シンが仮面女子に再会する日も近いだろう。


『2つ目の要件というのは?』


 仮面女子に関する報告を聞き終えたシンがニートに問う。

 先ほどニートは伝えることが2点あると言ったからだ。


(これは俺が話さずとも……すぐに有名になるだろうが……一応伝えておこうと思ってな……)


 ニートはそう前置きして語る。


(昨日のシンと……EBMの戦闘……。あれにより……棍棒巨人の集落近辺が荒れてな……所々、地面もめくれた……。

 ただ地面が捲れたことで……見つかったんだ……新たなダンジョンが……)



 ――ダンジョン。


 ゲームや創作物では、お決まりの存在なのでイメージはしやすいだろう。


 ブイモンにおけるダンジョンの定義はたった一つ。

 そのエリアが()()()()()()()()ことだ。


 地下に広がる迷宮も、道が幾重にも分かれる祠など。

 ダンジョンという呼称には、未知を探索するという意味合いが強く込められている。


『地面が捲れた結果、見つかったダンジョンということは、ダンジョンは地下にあるんですか?』


 念のためシンは確認メッセージを送信した。

 すぐさま返答が返される。


(地下迷宮……ということになるだろうな……。ただ、今回は……ダンジョンが発見されたことが……問題ではないんだ……)


『と言いますと?』


(見つかったダンジョンは……EBMを母体とした……E()B()M()()()()()()だった……)


 EBMダンジョンとは、EBMの意志・影響で作られたダンジョンのことだ。

 

 つまり、ブイモン運営はEBMダンジョンの建造に関わっていない。

 運営の手が加わっていない天然物のダンジョンであり、超危険なダンジョンともいえる。


(EBMダンジョンに……挑戦しろという訳じゃない……。ただの情報共有だ……)


『いえ、お気遣い感謝します。EBMダンジョンに挑戦する時は一報いれますね』


(ああ……それは助かる……。EBMダンジョンの母体は……おそらくG5相当のEBMだ……。

 内部の探索は……困難を極めるだろう……。いつでも頼ってくれ……)


『はい。ありがとうございます』


(それでは……またな……)


『ええ。また』


 それでシンとニートの会話は終わった。


 まとめると、仮面女子が見つかり、EBMダンジョンが見つかったという報告だったわけだ。

 どちらも良い報せだと言えるだろう。


「デート中なのに他の人と連絡してるの~? さてはお主、不届き者か~?」


 ファッション店の中。

 メイクが上目遣いでシンを覗き込んだ。

 シンは慌ててチャット画面を閉じ、メイクの顔を見る。


「ご、ごめん。ニートさんから連絡で……!」


 いつになく慌てるシンを見て、メイクは耐えられなくなったのか笑い出した。


「あははっ! も~、嘘だって~! そんなに慌てなくてもいいのに~!」


 それを聞いてシンはホッと胸を撫でおろした。

 メイクは機嫌を損ねると宥めるのに苦労するからだ。


(――今度は2人に……要件がある……)


 とそこで、ニートの【テレパシー】が再び飛んできた。

 しかし、今度はシンとメイクの双方に思念が送られている。


(良ければだが……今から〈ニート〉本部へ……来れないか……?

 君たちの力を見越して……頼みがある……)


 ニートの思念に、シンとメイクは顔を見合わせた。

 その後、思念とメッセージとで軽くやり取りし、2人は〈ニート〉本部へ向かうのだった。


 ◇


「いきなり呼び立てて……すまないな……」


 ニートの話を受けて、シンとメイクは現在〈ニート〉本部へ来ていた。


 ニートはいつも通り、目にクマを作り、枯れ木のように細い体をソファに沈ませている。


「いえ、俺たちもタルランタを散歩してただけなので」

「予定もないし、全然いいよ~!」


「そうか……それじゃあ、早速……本題に映ろう……」


 ニートは無詠唱で【クイック・チェンジ】を発動。

〖超記憶脳〗を装備し、イレギュラー・スキル【ハイパーサイメジア】を発動した。


 瞬間、ニートの脳内に無数の情報が浮かび上がる。


「2人に頼みたいのは……ここ1カ月タルランタを騒がせている……プレイヤー・キラーの鎮圧だ……」


 シンとメイクは既にその依頼を受ける気持ちで、この場に来ている。

 その話を聞くことに躊躇ためらいはない。


「聞かせてください。そのプレイヤー・キラーのことを」


「ああ……早速説明を始めよう――」


 そうしてニートは脳内に列挙された情報を手繰り寄せ、語り始める。


 ブイモン世界に存在する8大都市。

 その中で最も治安が良いとされるタルランタを騒がせるプレイヤー・キラーのことを。


 PKKギルド〈ライフ〉さえ返り討ちにし、情報屋ギルド〈ニート〉でも鎮圧できないプレイヤー・キラー、通称“ルーキー狩り”のことを。

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