二人のアイドルとあの軍団と僕⑱
家に帰ると媛子姉さんがいた。どこかに外出するところだったのか、綺麗なドレスを着て化粧もいつもより派手な姉は、僕を見て優しく微笑んだ。
「話し合いはどうだったの、寒三郎ちゃん?」
「なんとかなった……みたい」
「そう」
「ありがとう」
「どういたしまして」
これ以上さっきの恐ろしい光景について細かく思い出すのは頭が痛くて、僕は話を別に振ることにした。
「そういえば媛子姉さん、学年主任の先生が『よろしく』って言ってたよ」
「学年主任……? ああ、あの男ね」
思い当たるところがあるようで、姉さんは意味ありげな笑みを浮かべる。
「あの人、教師と言いう聖職にありながら、ちょっとオイタをしてね、怖い人たちとトラブルになったのよ。わたしが在校時代、たまたまそれを知って解決をお手伝いしたの。だからあの人、わたしには頭が上がらないのよね」
つまり、先生は女子高生時代の姉に助けられたということか。
「今回寒三郎ちゃんに紹介した人と知り合うきっかけになった事件……。まあ、貴方は詳しくは知らなくていいことよ」
また今回の件に繋がってしまって、僕の頭痛が復活する。
「寒三郎ちゃん。わかっていると思うけれど、これは禁じ手なのよ。貴方は今、大きなリスクを抱え込んだの。ちゃんと意識して頂戴」
猛禽類みたいに鋭い姉の目が厳しく僕を見据える。
「まるで興行をヤクザに仕切らせていた昔の芸能界のような行動なのよ。だから、貴方はいつかわたしたちから苦汁を飲まされることになるかもしれない」
「でも……媛子姉さんはまず第一に僕への投資を回収したいと考えてるはずだよね。だったら、僕のアイドル運営の邪魔をするような真似はしないと思うけど……」
「ふふ。それは貴方が奢らず真摯に、しかも安定的に利益を上げる運営を続けていればの話でしょう。何かがあればわたしは簡単に手のひらを返す。貴方はわたしの性格をよく知っているはずよ」
愉しげに笑う媛子姉さんを見て、僕は冷や汗をかきながらも拳を握り込む。
「僕は……ちゃんとやります。うちの二人のこともきちんと守ります」
震えながら宣言する僕を、媛子姉さんの獲物を見据える猛禽類のような強い目がじっくりと観察する。
どのくらいか経った後、姉はふと厳しい表情を解いた。
「媛子姉さん……?」
「そう出来ることを、姉さんも信じているわ」
媛子姉さんは猛禽類の目で嗤うと、踵を返して家を出ていった。




