二人のアイドルとあの軍団と僕⑰
絶体絶命――まさにその時。
「ぼっちゃんたち、随分面白いことをやっているんだねぇ?」
暗い路地にクールな声が響いた。
声と共に現れたのは僕のオブザーバーさんとそのツレの人だった。オブザーバーさんはチョークスリーパーを極められた僕をスマートフォンで撮影している。
「な、なんだ、誰だよ、急に!」
レッドくんたちは途端に慌て始める。厳つい男が僕を締める力も抜けたので、なんとか僕はその腕から逃れたが、ゲホゲホと苦しい咳が止まらなかった。
「アンタ、何者だよ! コ、コイツの仲間か!」
「ただの通りすがりの者だけどね。こちらの方のご親族には世話になっていて。悪いけど、ちょっと口を挟ませてもらうよ」
オブザーバーさんは黒いスーツに派手な色のストールと淡い色付き眼鏡、そして、オールバック。目付きの悪いツレの人はオブザーバーさんより若くて、リーゼントに派手なジャージを着用。いかにもその筋の方々という感じだった。オブザーバーさんは今までの打ち合わせではこんな格好はしていなかったのだけど、「警察官の制服と同じようなものだから」とのことで今日はこの出で立ちだった。
レッドくんは若干の震えと共にひきつった笑いを浮かべる。
「オ、オイオイ、まさか本物じゃねえだろーな……ハハハ! やだなぁ。オレら、ちょっとじゃれ合ってただけっすよぉ。ハハハ!」
「あ? なんだその態度ァァァ? ナマ言ってんじゃねぇぞ、クルァァァァァ!」
途端にジャージの男性がキレて、巻き舌気味の怒声と共にレッドくんのシャツを掴む。息がかかるほど近くで睨み付けてくるジャージ男に、レッドくんの表情が凍りつき、額には汗が吹き出していた。
「オイ、お前、やめろ! 素人さんに何しやがる!」
オブザーバーさんは慣れた調子でジャージの人をレッドくんから引き離すと同時に、その男性の腹に蹴りを入れた。蹲ったジャージの人を無理やり立たせると、オブザーバーさんは何度もその人の顔を殴りつける。
「素人さんには手を出すなって何度も言ってるだろうが! わかんねえのか?」
「へ、へえ。すみません、兄貴……」
拳に付いた血をハンカチで拭くオブザーバーさんと、鼻と口から血を流しながらすっかり大人しくなったジャージの人。レッドくんたちの顔からは血の気が引いていく。
オブザーバーさんはレッドくんの友人らしき厳つい男に視線を向けた。
「で、キミは何? この赤髪くんの仕事仲間なのかな? どこかの組の人?」
厳つい男は頭を掻きながら気まずそうな笑みを浮かべる。
「いやぁ……全然そういうのじゃないっす。街で遊んでるだけのプータローで。レッドくんとはたまに会ったときに奢ってもらったり、金を立て替えてもらったりっていう。それで時々荒っぽい事の手伝いをするだけで、別にコイツのビジネスにも関わってないっす。アイドルとかにも興味ないし。ハハ!」
厳つい男は乾いた笑いを浮かべた。確かに、この人のことはうちの現場で見たことはない。オブザーバーさんは満足げに笑った。
「じゃあさ、悪いけど外してくれないかな? 赤髪くんたちとじっくりお話がしたいんだよね」
「あ、全然いいっすよ。じゃあ、レッドくん、オレ帰るから」
それを聞いてレッドくんが慌てる。
「な、何言ってんだよ! オレが普段からオマエにどんだけ恵んでやってると思ってんだよ! ふざけんなよ!」
「は? 恵んでやってるとか、なにそれ。そういう上から目線、マジでないんだけど。オレのこと舐めてんの? あ?」
厳つい男の目が一瞬で据わり、レッドくんの胸元をドンと叩いた。レッドくんはさらに慌てふためく。
「い、い、いやいや、違うって! そういう意味じゃなくてさ……」
「もう完全なしになったわー。じゃーねー」
厳つい男は手を振って路地を去っていった。オブザーバーさんはにこやかに微笑む。
「それじゃあ、うちの事務所でじっくり話し合おうか。こんなところじゃ、落ち着いて話も出来ないでしょう?」
「い、いや、オレ……ボクは……その……」
「そんなに遠慮しなくていい。怖くはないよ。僕があの人の代理でキミらと交渉するってだけなんだから」
オブザーバーさんは僕を指差しながら、色眼鏡の奥の目で微笑む。
「な、なぁ、アンタ、た、た、助け……」
トイレの個室に閉じ込められたいじめられっ子みたいな顔でレッドくんは僕を見たが、僕は視線を背けてオブザーバーさんに頭を下げた。
「よろしくお願いします」
「うん」
オブザーバーさんとツレの人に肩を抱かれたレッドくんたちは、スモークガラスの張られたバンに乗せられ、車は僕の前からどこかに走り去っていった。
数時間後、オブザーバーさんからメッセージが届いた。
「話はしっかり纏まりましたから安心してください。もうあなたの現場には二度と近づかないそうです」
僕はお礼を返信してスマートフォンを暗転させた。




