二人のアイドルとあの軍団と僕⑯
案の定と言うべきか、話し合いは平行線になってしまった。レッドくんたちは出入り禁止にするなら「ミソラは多数のファンと付き合ってる」と例の写真を流すの一点張り。この写真については恋愛関係か否かはともかく、「ファンと繋がっていた」と第三者からも判断されうるものなので、僕の弱みとなる。
でも、僕も譲れないから勧誘トラブルの件を出してねばり強く交渉を続けたが、誤魔化されたり開き直られたりで話は堂々巡りを続け、気がつけばファミリーレストランに入ってから二時間近くが経っていた。
「さすがに店に迷惑だからさ、場所変えない?」
「わかりました」
カフェに行こうと言うレッドくんたちにしたがって僕は店を出た。
歩道を歩いていると、腕に入れ墨をしたガラの悪い厳つい男が僕たちに向かって歩いてくるのが見えた。その人は「よお!」とレッドくんに対して手を挙げる。分厚い筋肉の付いた逞しい腕だった。
「話し合いうまくいってねーの? レッドくんが珍しいね」
「そう。意外に強情でさ、コイツ」
そう言って、レッドくんは僕を指差す。不穏な成り行きに僕は動悸を感じた。
「コイツに『金積もうか?』って言っても、『そういうのは受け取れません』とか言ってさ」
「うわ。面倒くせぇ!」
厳つい男はバカにしたように笑うと、僕の隣に来てその太い腕を僕の肩に回した。
「ちょっとさー、カフェより話し合いにいい場所があるから一緒に行こうか?」
「え……?」
戸惑う僕を、厳つい男とレッドくん軍団は無理やり路地裏に連れ込もうとする。
「ちょ……! や、やめてください……!」
他の通行人から目隠しのように軍団に取り囲まれた僕は、抵抗らしい抵抗もできずにビルの裏手の人気のない場所に連れてこられてしまった。
「オマエ、いい加減にしろよ!」
厳つい男は不機嫌そうに言うと、近くの空き缶を思い切り蹴りあげた。僕の顔面にすれすれを通って壁に当たった缶は甲高い音をたてて跳ね返り、再び地面に転がる。
僕は縮みあがって震えた。
「オマエが訳かんねぇこと言ってないで素直にレッドくんの言うこと聞いてればさぁ、オレは呼び出し食らわず、家で寝てられたんだよ! すっげー今ムカついてんだけど!」
厳つい男の怒鳴り声に僕が顔面蒼白で身を縮めるのを見て、レッドくん軍団がおかしそうに笑い出した。
「キャハハ! 見ろよ、コイツ! さっきあんだけイキがってたくせにこの顔!」
「ダッセー! ギャハハ!」
厳つい男も爆笑しながら僕の肩や胸をドンドンと何度もどつく。
「オイ、あんま舐めた真似してっと、どんな目に合うかわかんねぇぞ!」
「ぼ、暴力はやめてください!」
「なんだよ、ただオマエの訳わかんなさににツッコミ入れてるだけだぜ、オレは。オタク上がりみてぇなひ弱くんはただのツッコミにもビビるのかぁ?」
「や、やめ……」
心なしか、僕をどつく男の力が次第に強くなっていく気がする。レッドくんが吹き出して笑った。
「ギャハハ! ただのツッコミに何そんなに苦しそうにしてんの? だっせー。でも、あんまり強情にしてるとホントに痛い目見るかもなー? コイツ、キレやすいからさー」
「そ、それは僕に対する脅しですか……?」
「さあなー? ってか、もういいや。そろそろ飽きてきた。やっちゃっていいよ」
「痛たたたたた!」
厳つい男が僕の背後に回り、僕の首に腕を回して締め上げてきた。チョークスリーパーの体勢。僕は頭が真っ白になる。
「ちょ、ちょちょ、ちょっとやめでぐだざいぃ! だずげでぇぇぇぇ!」
僕が情けなく叫ぶと、レッドくんたちはゲラゲラと笑う。
「おいおい。ただの『プロレスごっこ』でそんなマジな悲鳴出すなって。本当に暴力振るってると誤解されるだろ?」
「早く言うこと聞いた方がいいんじゃないのぉ? マジでヤバくなーい?」
「ぐむむむむ!」
「ほらほら早くしないと、遊びですまなくなってくるぜぇ?」
絶体絶命――まさにその時。




