二人のアイドルとあの軍団と僕⑭
ある放課後、白樺さんの呼び出しで僕は彼女と二人で話すことになった。
がらんとして広く感じる二人きりの教室で、白樺さんはポツポツと話し始める。
「椿くん……わたしね、ルゥちゃんだけのステージを見て思ったことがあるの」
「うん」
「もしかして、わたしがいなくてもルゥちゃんは一人で十分なんじゃないかしら……。むしろ、あんな迂闊なことをしちゃったわたしは、ルゥちゃんの足を引っ張るだけなんじゃないかって思えたの……」
白樺さんの顔は自信を失って憔悴しているように見えた。
「ルゥちゃんには、もうわたしなんか必要ないんじゃないかって。そう思ったら、あんな態度をとっていたくせに、すごく寂しくなって……情けなくなって……わたし……」
白樺さんの目に涙が浮かんだ。
僕は彼女にちゃんと伝わるよう、率直に自分の考えを話すことにした。
「僕は……柊木さんには白樺さんの支えが必要だって思うよ。今のまま一人きりで活動し続けたら、いつか柊木さんはパンクしちゃう。柊木さんが今がんばってるのは、ただ白樺さんに好かれたいからなんだよ」
「…………」
「真夜ドクでのミソラはルルカの『補助係』になってしまうのかもしれないけど、真夜ドクにはミソラが必要不可欠なんだ」
顔を俯かせる白樺さんに、僕はできるだけ優しい声で話し掛ける。
「白樺さんは柊木さんと一緒に活動するのは辛い?」
白樺さんは口を一文字に引き結び、何秒か黙り込んでから静かに言葉を紡ぎ始めた。
「きっとわたしは今まで心のどこかでルゥちゃんを見下していたの。わたしがいなければあの子は何もできないって」
「うん……」
「でもね、アイドルとしてはルゥちゃんの方がずっと人気で。ダンスとか歌の上手さはわたしとそれほど変わらないはずなのに、わたしよりもずっとみんなに好かれてて……」
一旦言葉を切った白樺さんは、手をギュッと握りこむ。
「わたし、途中からルゥちゃんの存在に苛立っていたし、嫌い……というより憎いっていう気持ちを抱えてた。そんな精神状態なのに、それでもわたしはこの子のお守りをしなきゃいけないの? もうウンザリだって思えて……」
「うん……」
「わたし、『ルゥちゃんを好きなわたし』でいたかった。自分の中にこんな感情があるなんて知りたくなかったわ」
そう言うと、白樺さんは伏せていた顔を上げて僕を見た。彼女の目は燃えるような強い光を湛えているように見えた。それは苦しい心の発露なのだろうか。
僕は白樺さんを苦しい道に引き込んでしまったのだろうか。彼女はそんな僕を恨むだろうか。
でも、白樺さんの口調や目はただ選んだ道を後悔しているだけではなくて、執着心みたいなものを僕に感じさせた。
僕は思い切って問いかけてみる。
「でも……もしかして白樺さんはそれでも……本当はアイドルをやめたくないって……思ってる……?」
前にダンスレッスンで駄々をこねて「アイドルやめる」と言った柊木さんに、僕は「本当にそれでいいの?」と訊いた。本当にやめたいわけではないだろうと思ったからだ。
でも、今回は訊くのが怖かった。
「やめたい」の答えが返ってくるのも怖かったし、「やめたくない」と白樺さんが答えるのも怖い気がした。きついことを彼女に課しているのではないかと思えて。
緊張して手が汗ばむ僕に、白樺さんは燃える目をまっすぐに向けた。
「もし……戻ってもいいのなら、続けたいわ」
白樺さんの強い視線が僕を射抜いた。
僕は心臓がドキッとした。
「それは……苦しくない?」
「でも……だって、わたしは『ルゥちゃんのことが好きなわたし』でいたいもの。『ルゥちゃんの隣にいるわたし』でいたいんだもの」
もしかして、僕は白樺さんに酷な選択をさせてしまったのだろうか。今の白樺さんにとって柊木さんの隣にいることは苦行なのではないだろうか。
でも、今さら「やめた方がいいんじゃない?」だなんて言えない。彼女の強い言葉と表情を見てしまった今となっては。
白樺さんは選択をした。それならきっと、プロデューサーである僕はそれを支えるべきなのだ。
「わかった。レッドくんたちのことは僕がなんとかするから。大丈夫だよ。安心して戻ってきて、白樺さん」
「椿くん……ありがとう」
「だってミソラはうちの大事なアイドルだもんね」
そう言って僕が笑うと、白樺さんもやっと笑顔を浮かべてくれた。やっぱり彼女には笑顔が一番似合う。
僕は彼女たち二人の笑顔を守るため、もう一仕事する覚悟を決めた。




