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ドルヲタ男子高生、アイドル運営はじめました!  作者: フミヅキ
第三章 二人のアイドルとあの軍団と僕
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二人のアイドルとあの軍団と僕⑩

 このSNSログイン不可の要因がレッドくんだとすると、彼の居場所について僕にはいくつか心当たりがあった。僕の推しのグループの例の騒動で、レッドくんのアカウントを検証したオタクが、彼が繋がったメンバーと一緒に行ったと目星を付けた場所を何か所か挙げていたのだ。


 いくつかのカラオケ店、とあるバー、メンバーの自宅、レッドくんの自宅。


 僕は駅に向かって走りながら、文字を打つのももどかしいので柊木さんに電話した。


「あ、もしもし、柊木さん?」

「もっし~? カンカンPどしたん~?」

「ねえ、白樺さんって今自宅にいる?」

「えー? ちょと待ってぇ」


 隣の白樺さんの家に直接確認しに向かっているのか、ドタバタと大きな音をたてながら移動する音が電話口から聞こえてくる。


「おばちゃーん、みーたんいるぅ? ふーん? あ、カンカンP、なんかさっきお出掛けしたってさー」


 僕の中の嫌な予感が増した。ただ、レッドくんが彼女の家に上がり込んでいないことは最低限確認できた。


「ありがとう。じゃあ、またね」

「え? え、待ってよぉ、カンカンP! なんかあったの、みーたん……?」

「え? いや、えっと……具体的にどうっていうのはわからないんだけど……」


 僕が何も言えずにいると、電話口から柊木さんのすすり泣く声が聞こえてきた。僕は走っていた足を止める。


「柊木さん……?」

「ルゥはみーたんいないとなーんもできないの。だから、みーたん、ルゥに呆れちゃったのかな……? ルゥのこと、嫌いになっちゃったのかなぁ?」


 そう言って、柊木さんは泣いていた。


(柊木さんは何も変わっていないのに……どうして二人の間にこんなに隙間ができちゃったんだろう?)


 アイドルを始めたことで二人の間に生じた違和感。もしかしたら、それは二人が気付いていないだけでアイドルになる前からあったものかもしれないけれど、アイドル活動をきっかけに活動すればするほど大きくなっていって、今の状態になってしまった。僕の振る舞いはそれを加速させてしまったのだろうか。


 僕は胸が苦しくなる。


「柊木さん……僕も白樺さんの心の中まではわからないよ。でも……たぶん、色々な感情が白樺さんの中にぐるぐる渦巻いてるんだと思う」

「うぅ……うぇええ……」

「それは柊木さんのことだけじゃなくて、僕への不信感とか、ファンの人のこととか色々ありそう。だからそんなに自分を責めちゃ駄目だよ」


 僕はそう言うのがやっとで、でも、それだけでは柊木さんの泣き声を止めることはできなかった。僕は二人ともを傷つけてしまって、駄目プロデューサーすぎて自分が情けなくなる。


「ともかく、僕は白樺さんを探しに行こうと思う。彼女がどう考えているのか、ちゃんと聞こうと思う。まずはそれが大事だと思うから。だから、一旦電話切るよ。柊木さん、大丈夫?」

「う、うぅ、うん。わ、わかっ……ひっく、うえええ」


 僕は後ろ髪を引かれまくる気持ちで一度通話を切った。暗転するスマートフォンの画面を少しの間見つめてから、僕はまた駅に向かって走り出した。



 電車に乗りながら、僕は匠汰くんにライブのヘルプに行けそうにないと謝罪のメッセージを送った。彼はその理由を読んで、慌てたように返信をくれた。


匠汰『え。お前、それこっち来てる場合じゃねーじゃん。つか、俺も白樺探しに行くか?』

寒三郎『匠汰くんはライブなんだからそれどころじゃないでしょ! ホントごめんね』

匠汰『今日はカナメも手伝いに来てくれてっからダイジョブ!』


 続いて「心配するな」と親指を上げるキャラクターのイラストスタンプが送られてきた。あの三白眼の男はリア充なところは気に入らないけれど、いい奴なのだ。


 しばらくして、匠汰くんからまたメッセージが届いた。


匠汰『カナメがさ、しばらく暇だから探すの手伝おうかって言ってるけど』


 僕は少し迷ったけれど、山査子さんの厚意に甘えることにした。緊急事態であることに変わりはないし、実は心当たりのカラオケ店の一つは匠汰くんのいるライブハウスのすぐ近くなのだ。僕がその場所を伝えると、早速、山査子さんは走って確かめに行ってくれたようだった。


 リハーサルに入るという匠汰くんと連絡は途切れたけれど、しばらくして代わりに山査子さんからのメッセージが届く。


カナメ『残念ながらと言うべきか、幸いにと言うべきか、白樺さんはいらっしゃいませんでした』

寒三郎『ありがとう! 助かったよ。匠汰くんにも山査子さんにも助けられてばかりだね』

カナメ『いいえ。椿さんはわたしたちの恩人ですから』

寒三郎『恩人?』


 恩人という言葉にまったく心当たりがいかなくて首を傾げる僕に、山査子さんは「匠汰さんからは口留めされているので内緒にしていてくださいね」と断ってから教えてくれた。


カナメ『椿さん、前に匠汰さんのライブを見て、もっと曲調に合わせて衣装を用意した方が絶対いいはずというアドバイスをされましたよね?』

寒三郎『うっすらそんな記憶があるような? そういえば、匠汰くん、前はゴツイ音楽してる割に地味な格好してたね』

カナメ『椿さんのアドバイスで匠汰さんは衣装を気にするようになって、それでSNSで情報を探してる時にわたしたちは知り合ったんです。だから椿さんはわたしたちのキューピッドなのです』

寒三郎『そんなの全然知らなかった……』

カナメ『匠汰さんは、椿さんのアドバイスで衣装を用意するようにしたのが恥ずかしいみたいで、このことは本人に言うなと言われていて』


 山査子さんから苦笑する猫のイラストスタンプが送られてきた。


カナメ『だから椿さんには協力したいのです。匠汰さんは素直でないところはありますが、あの人も本心ではきっとそうなんですよ』


 全然そんなことだとは知らなかった。僕が何と返そうか迷っていると、山査子さんから先にメッセージが届いた。


カナメ『椿さんはきっと根っからのプロデューサー気質なんですよ。観察眼が鋭いし、アドバイスも適切です。白樺さんの問題もきっと適切な方向に導けますよ』


 本当にそうだろうか。僕にそれだけの能力があるのだろうか。


 でも、不安だからといって、この件から目を背けることはできない。アイドルの抱える問題は、プロデューサーである僕の問題でもあるのだから。

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