新人アイドルと愉快な仲間たちと僕⑮
そして、ついにその日がやって来た。
早朝のさらに早い時刻に起床した僕は、昨日の夜も確認した荷物を再度確認し直していた。
「チェキ券よし! おつり用の小銭とお札よし! チェキカメラよし! 記録用カメラよし! 物販のTシャツよし!」
ちなみにステージ衣装は柊木さんと白樺さんに管理してもらうようにしている。いくらプロデューサーとはいえ同級生の男子である僕が二人の衣装を扱うのには抵抗があるから。
洗濯方法などは山査子さんから二人にレクチャー済みだ。柊木さんの衣装の取り扱いの雑さが心配だったが、白樺さんがフォローしてくれるようなので安心している。
また、現段階ではコスメ関連も私物を活用してもらうこと、ヘアメイクも自分たちでやってもらうことにしていた。利益が出始めたらその辺りもフォローしていきたいところだ。
僕は段ボールから物販用に作ったTシャツを一枚取り出す。
「ちょっとでも売れたら嬉しいなあ」
漫研の協力者はいい感じに脱力系のゆる可愛イラストで柊木さんと白樺さんを描いてくれた。チェキ券には美術部の人がデザインしてくれた「真夜中のドールズクローゼット」のオシャレなロゴが印刷されている。
それから僕はスマートフォンで公式ホームページとSNSも確認する。もちろんまだまだ反応はほとんどないけれど、なかなか良さげな写真が並んでいた。これも近くの公園で写真部のポートレートが得意な人に撮影してもらったものだ。
(みんな、いい仕事してますねぇ)
僕は目を細め、骨董品に魅入る老人のようにうっとりとグッズやPCディスプレイを見つめた。
が、しばらくしてハッと我に返る。
(もしやこういうところがおじーちゃんみたいなのか……?)
僕は急いでグッズを元に戻して、てきぱきと出発の準備を始めた。
※
諸々の荷物を詰め込んだリュックを背負い、物販の段ボールを抱えた僕は、今日の会場の最寄り駅で柊木さん、白樺さんと合流してライブハウスを目指して歩いていた。先頭を僕が歩き、その後ろを二人がついてくる形だった。
「ライブライブライブ~♪」
柊木さんは白樺さんの腕に自分の腕を絡めてスキップしながら歩いている。
一方の白樺さんはいつもだったらそんな柊木さんを少し困ったように微笑みながら見守っているはずなのに、今日は無表情で自分の足元を見つめて歩いていた。
「白樺さん……どうかした?」
僕が話しかけると、ハッとしたように彼女は顔を上げる。
「な、なに? 椿くん?」
「え、あ、いや……もしかして……緊張してる?」
「え……? ううん! 大丈夫よ!」
そう言って、白樺さんは笑顔を浮かべた。僕はホッとする。
「ならいいけど」
柊木さんが白樺さんから離れて僕の隣に並ぶ。
「カンカンP、ルゥ荷物持ったげよっか~?」
「いやいや、いいよ。そんな重いものじゃないし」
「カンカンP、たくましーですなぁ!」
「いやぁ、それほどでも。アハハ!」
僕らの隊列は先頭に柊木さんと僕、その後ろに白樺さんという形に変わる。だから、僕は白樺さんが再び足元に視線を落としたことに気が付かなかった。
初ライブに浮かれていた僕は、さっきの白樺さんの笑顔が無理をして浮かべたものだということを見落としていたのだ。




