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ドルヲタ男子高生、アイドル運営はじめました!  作者: フミヅキ
第二章 新人アイドルと愉快な仲間たちと僕
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新人アイドルと愉快な仲間たちと僕⑯

「真夜中のドールズクローゼット」の初舞台は、月二回程度開催されているアイドル合同ライブイベントの昼の部、早い出番のステージだった。渋谷駅から少し歩いた場所にある雑居ビル二階のライブハウスが会場だ。なかなかきれいなロビーを備えているため、物販スペースが必要なアイドル公演でよく使われている。


 午前中の指定されたリハーサル時刻に余裕をもって現場入りした僕は、緊張しながらそこにいる人たちに頭を下げた。


「あ、ああののの……『真夜中のドールズクローゼット』です! よよ、よ、よろしくお願い致しますぅ!」


 大人とアイドルだらけのリハーサル空間に気圧されつつ、媛子姉さんから常に「寒三郎ちゃん、挨拶だけはきちんとしなきゃダメよ(内気オタクだからって無愛想や無礼が許されるわけじゃねぇんだからな!)」という指導と脅しを受けている僕はなんとか言葉を絞り出した。


 楽器のセッティングの無いアイドルは基本的には出順通りにサウンドチェックを行う。


 正直なところ、音のバランスの良し悪しは、柊木さんにも白樺さんにも僕にもよくわからなかった。オケが流される中で二人は戸惑いながら歌い、それに対するPAさんの意見を全面的に信頼することしかできない。匠汰くんに話を聞いてはいたけれど、初心者丸だしな僕たちだけではなかなか難しい工程だった。


(こんなことなら匠汰くんをスタッフとして呼んでおけばよかったな……)


 ただ、今回のイベント、付き添いスタッフは一人まで、それ以上のスタッフを入れる場合はチケット代が必要という現場なので、なかなか増員に踏み切れなかったのだ。


(初ステージでチェキ列が僕一人で捌ききれないほど長くなるとも思えないし……)


 困惑顔でリハーサルのステージを降りた二人を、僕は笑顔で迎えた。


「大人たちが仏頂面で見てるステージじゃ、緊張していつもどおりいかないのは当たり前だよ。今はこれでOK! 全然大丈夫! お客さんが入ったら空気変わるよ。みんなテンション高いからさ、自然と楽しく歌ったり踊ったりできるはずだから!」


 僕の言葉を聞いた柊木さんは両の拳を握って叫ぶ。


「よっしゃああああ! ルゥ、ぜったい、ぜ~ったい、すっげぇライブしてやっぞぉぉぉぉ!」

「そうそう! その調子!」

「うぉぉぉぉ!」


 どこかの戦闘民族みたいな雄叫びを上げているが、柊木さんなら本番はアイドルらしく可愛くやってくれるだろう。たぶん。


 ただ、白樺さんは不安そうな表情のままだった。


「白樺さん……大丈夫?」


 彼女はハッとしたように顔を上げる。


「え、ええ! わたしもがんばるわ!」

「もしかして、不安? 何か心配なことがあるなら聞くよ?」

「大丈夫! ルゥちゃんが大丈夫なんだから、わたしだって大丈夫なはずだもの」

「白樺さん……?」


 僕には白樺さんが少し思いつめた表情をしているように見えた。でも、彼女は僕の追及を遮るように視線を逸らし、柊木さんに話しかける。


「ルゥちゃん、メイクしましょ。わたしがお化粧してあげるわ」

「やったぁ! みーたんのお化粧~!」


 柊木さんが白樺さんに抱き着くと、やっと少しだけ彼女の顔から険しさが取れた。


「白樺さん……」

「大丈夫だから心配しないで」


 僕の顔を見ずに、抱き着く柊木さんを引きずるようにして白樺さんは楽屋に向かっていった。楽屋は男性スタッフ立ち入り禁止なので、僕にはそれ以上追いかけることはできない。


 大丈夫と言われても、彼女の頑なな様子がどうしても僕は気になった。



 ライブハウスが開場し、少しずつ人が入り始める。僕は邪魔にならないようにお客さんたちの様子をフロアの後方から見守っていたのだが、その中に見知った顔を見つけた。


「来たぜ~」

「お疲れ様です、椿さん」


 金髪に三白眼の我らが作曲家先生・匠汰くんと、ショートカットに丸眼鏡の我らがデザイナー先生・山査子さんのカップルだった。


「二人とも! わざわざ来てくれたの!」


 まだまだひよっ子グループである僕たちは、このイベントでは関係者パスを発行してもらえていない。二人はチケット代を払って見に来てくれたのだ。


「当たり前だろ。どんなもんか見ておきてーし」

「ええ。楽しみです」


 なんと、二人はご丁寧にペンライトまで装備していた。彼らは僕と別れてフロア中央に向かう。こうやって改めて見ると、ロックTの匠汰くんとお嬢様らしい上品なワンピース姿の山査子さんは雰囲気がチグハグなはずなのに、なぜか隣り合っていても違和感がなかった。


(べ、別に羨ましくなんかないんだからねっ……!)


 なんだか最近自分に嘘を付くことに慣れてきてしまった僕である。


 しばらくすると、今度は花水木先輩がやって来た。


「おはようございます、先輩! 先輩にまで来て頂けて嬉しいです」

「ああ」


 私服もスポーティーな先輩は、姿勢や歩き方からして普通の人よりも洗練されていてカッコいい。花水木先輩はフロア後方壁際にいる僕の隣に立った。


「楽しみだな」

「はい……」


 半分同意で、半分不安と共に僕は隣の花水木先輩に頷いた。

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