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ドルヲタ男子高生、アイドル運営はじめました!  作者: フミヅキ
第二章 新人アイドルと愉快な仲間たちと僕
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新人アイドルと愉快な仲間たちと僕⑤

 あくる日、放課後の教室には柊木さんと白樺さんと僕がいた。


「そんなわけでアイドル活動の方向性も見えてきたわけで、そうなればご挨拶に行かないといけないなと僕は思ってるんだけど……」


 柊木さんは僕の言葉に最初は「ご挨拶ぅ?」と首を傾げていたが、何かに思い当たったかのようにハッとして顔を上げた。


「おお! げーのー界の重鎮にご挨拶ですな! で、でもどうしよ~? もし『売れたかったらホテルに来なさい』とか言われたらぁ……ルゥ、枕とかしたことないし~……」

「やめなさい! そういうのは無いから! 少なくともうちは絶対にありえないから!」


 僕は慌てて柊木さんの妄想をストップさせる。


(天真爛漫そうに見えて、どうしてそういうのは知ってるんだ……?)


 こういう業界での消えない噂だけど、噂はあくまで噂だ。そもそも何が悲しくて大切なアイドルをキモいおっさんに差し出さなければならないのか理解できない。自分たちで自分たちの商品価値を落としてどうするのだろう。


「僕は柊木さんと白樺さんの保護者の方にきちんと挨拶しなきゃいけないって言いたかったんだよ!」

「お~、なるほどぉ! 『娘さんをください!』って言ってパパに殴られるやつ!」

「いや、ちょっと違うけど……うーん……でも、あんまり変わらないかもしれない……」


 確かに、大切なお嬢さんを地下アイドルに誘うだなんて「何を考えているんだ」とお父様に殴られたとしてもおかしくない。


「二人はもうご家族には言ったのかな? アイドルを始めるってこと」

「ルゥは言った!」

「わたしも伝えたわ」

「ど、どうだった、反応は……? 反対されたりした……? ご挨拶、僕だけじゃ不足そうだったら、媛子姉さんに頼み込んで来てもらおうかとも思うけど……」


 不安でおどおどと窺う僕を見て、柊木さんと白樺さん顔を見合わせた。白樺さんは少し困ったような顔で笑いながら僕に言う。


「たぶん平気よ。ルゥちゃんのママはルゥちゃんがわたしと一緒なら大概のことはOKだし、うちのママはルゥちゃんの面倒見るって言えば大概のことはOKだし」

「うん……? どういうこと……?」

「今日は久々にママが家にいるから来る? ルゥちゃんのママもいるでしょ?」

「うんー! ママ外出ない人だから~」

「え……いきなり今日!」


 いつかご挨拶しなければとは思ってはいたけれど、まだまだ心の準備は出来ていなかった僕は、緊張に心臓をバクバクさせながらアイドル二人のご実家訪問をすることになってしまった。



 柊木さんと白樺さんはお隣同士の幼馴染み。

 南仏風と言えばいいのか、可愛らしい感じの同じデザインで色違いの、建売住宅らしき二軒が二人の家だった。


「お、お、お邪魔します!」


 僕はまず、クリーム色の壁に落ち着いたオレンジ色の屋根の柊木さんのおうちを訪れた。


「ママ~? カンカンP連れてきたよ~!」


 乱暴に靴を脱ぎ散らかして玄関を入っていく柊木さん。そのスニーカーを揃えてあげてから、行儀よく家に上がる白樺さんに続いて僕も玄関を上がった。


 女の子の家に来ること自体が激レアで、しかも、アイドル活動の説明やお許しを得なければならないと考えると、頭が爆発しそうなくらいの不安と緊張で僕の心臓はバクバクと暴れていた。


 柊木さんは電気が点いていないリビングルームを通り過ぎて、二階の一室に進む。


「ね、ね、ママ、いいでしょ? ルゥ、歌ったり踊ったりするのぉ!」


 書斎兼仕事部屋といった雰囲気の室内で、パソコンデスクの前に柊木さんとよく似た中年の女性が座っていた。複数のディスプレイには株式のチャートらしきグラフがいくつも表示されている。


「ルゥちゃん、離れなさい。ママお仕事中なの。で、何? ああ、アイドルやるとか言っていたっけ?」

「そ~! ねえ、いいでしょ? みーたんと一緒にアイドルするの~! だからね、カンカンP、挨拶来てくれた!」


 これだけの説明で伝わったのかは不明だが、ちらりと僕に視線を向けた柊木さんのお母様に僕は慌てて頭を下げた。


「あ、あの、は、は、はじめまして。柊木さんの同級生で……つ、椿寒三郎といいます。柊木さんと白樺さんのグループを、プ、プロデュースさせて頂きますっ……!」


 つっかえつっかえ話す僕を、お母様は興味あるのか無いのかわからない視線で一瞥してから、白樺さんに視線を向ける。


「美空ちゃん、あなたのところのママは何て言ってるの?」

「うちのママは『自分で目標を決めて努力するのは琉瑠夏ちゃんにとって良い経験になる』って。『美空も手伝ってあげなさい』って言っていました」

「そうなの。だったらいいよ。ルゥ、好きにして」

「やった~! ママありがとぉ!」


 抱き着いて頬擦りしてくる柊木さんを引き剥がして、お母様は彼女に言い聞かせるように言う。


「ルゥ、いい? ちゃんと美空ちゃんと美空ちゃんのママの言うことをよく聞くのよ。ママじゃ、ルゥの個性は生かしきれないけど、二人に従ってたら間違いないんだから」

「わかってるよぉ! ちゃんとみーたんのゆー事きくもん!」

「美空ちゃん、琉瑠夏をよろしくね」

「はい、おば様。任せてください。ねえ、ルゥちゃん。ルゥちゃんはちゃんとわたしの言う事きけるものね」

「うんー!」


 ニコニコしながら抱き着いてくる柊木さんの頭を、園児に対する保育士みたいな手つきで優しく撫でる白樺さん。


「いつもありがとう、美空ちゃん。お母さんにもよろしくって言っておいて」

「はい。わかりました」


 白樺さんは上品に微笑みながら頷いた。


 僕は緊張で心臓がバクバクしていたので、この三人のやりとりになんとはなしに違和感を覚えつつ、アイドル活動についてお許しを得られたらしきことを理解するのでいっぱいいっぱいだった。僕は何度も頭を下げながら、柊木さんのお母様の前から辞した。


 柊木さんの家を出た僕は、次に、若草色の壁に深緑色の屋根の白樺さんの家を訪問することになった。


「うちのママは教育コンサルタントをしているの。全国の講演会に呼ばれてお話ししたりもしているのよ」

「なんか……すごい人なんだね。僕の話なんて聞いてくれるかな?」

「大丈夫よ。そんなに緊張しないで」


 手作りらしきリースの飾りが付いた扉を開けると、スーツ姿でキャリーケースを持った中年女性が玄関にいた。こちらは白樺さんにそっくりだ。


「あら、美空。今帰ったの? ママ、明日福岡でADHD児についての懇談会に呼ばれているから……あらあら、琉瑠夏ちゃん久しぶりねぇ!」

「おばちゃ~ん!」


 抱き着く柊木さんの顔を覗き込んで、白樺さんのお母様はにっこりと笑う。


「この前の学年考査は結果が良かったみたいね」

「えへへへ~。ルゥ、授業出ないけど、みーたんがお勉強教えてくれるから~」

「琉瑠夏ちゃんはそれでいいのよ。人にはそれぞれ向いたやり方があるんだもの。それが個性なのよ。周りのみんなはそれを尊重して協力すべきなの。琉瑠夏ちゃん、アイドルをしたいんですってね」

「そ~なの! いいでしょ~?」

「ええ。自分で選択して進むということは、良い経験になると思うわ」


 お母様が僕の方を向いたので、僕はハッとして姿勢を正す。


「あ、あ、あの、初めまして! 白樺さんの同級生の椿寒三郎です。あ、あの、アイドル活動を……」

「ええ、美空から聞いているわ。琉瑠夏ちゃんのこと頼むわね」

「は、はい!」


 お母様は、今度は白樺さんの方を向く。


「美空、あなたも琉瑠夏ちゃんと一緒に活動するのよね。だとしたら、自分のことだけやっていたのじゃ駄目。あなたがしっかり琉瑠夏ちゃんの面倒を見るのよ、美空。彼女の個性が花開くか否かは、あなたのフォローにかかっているんだから」

「わかってるわ、ママ。わたし、いつもそうしてきたでしょ?」

「そうだったわね。じゃあ、ママ行ってくるわ」

「いってらっしゃい」


 白樺さんに手を振られて、お母様はスーツケースを引いて家を出ていった。

 僕たち三人は玄関にポツンと残される。


「えっと……じゃあ、二人のアイドル活動はご家庭的には無問題ってことで……?」

「そゆこと、そゆこと!」

「ええ。これで大丈夫よ」

「はあ……よかった……」


 僕は安堵の溜め息をこぼした。その一方で何となく違和感も覚える。


(保護者への挨拶ってこんなにアッサリ済んでいいものなの……?)


 どこか拍子抜けしたような腑に落ちないような気持ちで、僕は二人の家を後にした。

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