招待
福太郎は傭兵二人を誘ったがそれにあっさり乗る様では傭兵家業は勤まらない
そもそもいきなり空から降りてきた子供を信じる理由が無い
だからこそ傭兵リザードマンの対応も当然荒っぽい
「いなきり現れて何言ってんだ、このガ…キ……」
そしてそれを許す精霊達ではない
音もなく地面より突き出た巨大な鉄のトゲがリザードマンの首筋数センチ前で止まっている
一本だけではない、リザードマンを取り囲む様に何本も
半歩でも動けば突き刺さるだろう
前回、シュンローが同じ様な目に会った際には精霊達を叱咤した福太郎だったが今回はしない。脅しであり本当に殺す気など無いのは分かっていた
「ツーくん、手加減が上手くなったね。だか今回はワシが招いているわけだから多少の非礼は見逃すものだ。トゲを引っ込めてくれるかな」
(わかった)
スルスルとトゲが地面に戻っていく
リザードマンは思わず自分の首を撫でていた
「うちの子が失礼しました。どうもワシの事を思う余り過激になり過ぎる事がある様で。申し訳ない。そのお詫びも兼ねて色々もてなしたいと思います。長旅でお疲れでしょう、馳走を用意しましょう、風呂などいかがですか?色々お話を聞かせては頂けないでしょうか?」
福太郎は笑顔を浮かべ優しく話しかけたつもりであった。だが圧倒的強者が下から乞うてきた事を断れる訳もなく、事実上強制と変わらない
魔法使いは両ひざを突き、そのまま体を前に倒し─
「待て待て待て待て!土下座しないで!そんなことは求めてない!大丈夫!断っても何しない!」
一瞬魔法使いの動きが止まり体を起こし逆に片ヒザを立て片ヒザ立ちの姿勢になり顔を伏せる
それを見てリザードマンは驚いた顔をしながらも同じ様に片ヒザ立ちの姿勢をとる
福太郎としては普通に話して欲しかったが一旦その姿勢を許容した
「さぞ力のあるお方とお見受けします。仲間の無礼、慎んでお詫び致します。その上で先程のお誘い、ぜひお受けさせて頂きます」
シュンローやリザードマンは福太郎の力を図る事が出来なかったがこの魔法使いは既に福太郎の力の強大さに気づいていた
それゆえに初手からへりくだった態度を取っている
「おぉ、そうですか。それは良かった。ではお連れするので顔を上げお立ち下さい。時に温度や酸素の操作?とやらはまだ続けておられるのですか?」
「はい、しております」
「すいません、今元に戻しますので止められて結構ですよ」
福太郎のこの発言は回りから聞けばおかしな事を言っていた
「…福太郎殿、逆です」
「…逆?」
「今が『元』です、それが普通なんです。ここ、かなりの標高ですよ。酸素や温度、天気が平地と違うのは当然じゃないですか」
「えっ!?じゃなんでワシ達はは平気なんだ?」
「イヤイヤ、そんなの…」
(おれたちが!)
(そうさしてるからー)
(ですわ)
ヒー、フー、スーの声だ
そう、福太郎が転生しこの山に来てから今までずっと精霊達が過ごしやすい様に管理していたのだ
至高の肉体を持つ福太郎には酸素の薄さや温度の低さ等は余り関係が無い
しかし、『あまり』関係が無いだけで無関係でも無い。少しでも福太郎が過ごしやすい様にとの精霊達の心遣いだ
福太郎はゆっくりと目頭を押さえた
「そんな気配りを最初からしてくれていたなんて…ワシャ嬉しくて涙が出そうだよ。みんな良い子でワシにはもったいないくらいだよ」
(((エヘヘヘ~)))
「………福太郎殿、待ってますよ…」
傭兵達は立ち上がるタイミングを失い未だに片ヒザ立ちだ
「…これはまたしても失礼を、どうぞお立ち下さい」
「失礼致します」
こうして傭兵達はやっと立ち上がれた
「ところで福太郎殿、そっちの二人を客人として招くとして、他の奴等はどうします?」
「それなんだよなぁ。これ、すぐ起きる?」
「どうですかねぇ?ちょっとわかりません、ていうか全員生きてます?音で失神させた奴は大丈夫でしょうけど、剣で叩いた奴はなんとも…」
倒れた人々を福太郎が集める。腕を振るだけで浮き福太郎の前に並んでいく
福太郎は最近力を使いこなし始めている
並んだ人々の息を確めて生きている事を確信した
「こちらの二人はお二方のお仲間ですか?」
「いえ、私の仲間はこのエイチカだけです。そちらは同じ様に四名家に雇われただけです」
一度リザードマン、エイチカの方に目をやりまたこちらを向く魔法使い。他の傭兵の処遇についてはあまり興味が無いのか庇う様子はない
「なら全員まとめて蔵にでも突っ込んどくかぁ。でも途中で起きるとめんどくさいな」
「少し良いですかい?」
小さく手を上げるエイチカ、魔法使いに習い少しだけ言葉遣いが改まっている
「俺達眠り薬を持ってるんですがそいつをつかっちゃどうですかい?」
「…それは助かりますがよろしいので?」
福太郎の返答には二つの意味があった。一つはその薬を使っても良いのか、そしてもう一つが雇い主達を眠らせて良いのか
一応ここまで旅した仲間であり報酬をもらう相手のはずだ
しかしエイチカは
「別に構いやせんぜ、傭兵の勘だがあんた等について行った方がうまい目に会えそうだ。それにこいつらずっと威張ってて好きじゃねぇんですよ」
エイチカはコツンと代理人の頭を足で小突いた
「では有り難く使わせてもらいます。それでは懸案も片付いた所でご案内させてもらいます。浮かせますので体を楽にしてください」
全員の体が浮き、一路八重樫亭に向かった




