収穫
シュンローが来てから数日後、あっという間に馴染み口調も大分フランクになってきた。この軽さが本来の性格なのだろう。当初の厳格さは何処へと思わなくもないがTPOをわきまえ行動した結果なのだとしたらむしろ好印象だ
「これは…一面黄金色でキレイですね」
ついにやって来た稲の収穫、シュンローを連れ田の前に来た福太郎の手には鎌が二本握られていた
「いやぁ、丁度良い時に人手が来たな」
「…二人で刈り取るんですか?本気ですか?無理ですよね?」
そう思うのも当然である。合計16ヘクタールの田んぼが文字通り視界一杯に広がっているのだ。一体何日かかるのかわかった物ではない
「安心しなさい、この1面だけだ。他の15面は精霊達にやってもらう」
「…いや、それでもかなり広いですよ。何で全部やってもらわないんですか?」
「精霊に頼りっぱなしというのは良くないだろう、1つくらい人力でやり遂げてみせようじゃないか!」
「…福太郎殿、人じゃないですよね?精霊ですよね?」
「…ワシ、やっぱり精霊なの?」
「え!?だって精霊王ですよね?……でも確かに姿が有って食べて寝てますね」
「トイレも行くぞ」
「…肉の記憶というやつですかね?」
シュンロー曰く、肉体が滅び魂のみになった存在が体も無いのに食事をし睡眠を取る。それを肉の記憶と呼ぶらしい
「でもワシ、体もちゃんとあるぞ?」
「だから何で精霊なのに体があるんですか」
(すげぇだろ!)
(おうさまはとくべつですので)
(とくべつ!とくべつ!)
(じつはぼくらもよくしらないんだ)
(みんな~、じゅんびするよ~)
精霊達はわあわあ言いながら他の田んぼに行ってしまった
「さぁ、ワシらもやるぞ」
「…マジですか…マジですか」
片やスーのウォーターカッターで一斉伐採、片や人力二人で鎌でチマチマ、作業効率の差は一目瞭然だ
精霊達が15面の収穫を終えた時、福太郎達の田は4分の1も終わっていない
「ムリです…腰が…もう腰が」
「もう限界か…」
神に最高の体を与えられた福太郎はともかく、身長180㎝はあろうかというシュンローは限界が早かった
「仕方ない、次に作るときは人力用の小さな田でも作ろう。スーちゃん、すまないがこっちもお願いできるかな?」
(かしこまりましたわ)
残った稲も全てスーが収穫しシュンローは横においておく
脱穀はキーが行い合図1つで全ての稲穂から一斉に籾殻が取れ、フーの風で吹き飛ばした
1俵分、約60キロ程を残し前もって用意して貰ったタルの中に詰める
俵は作り方が分からず断念し、その代わりのタルだ
残した分をフーが風の力で玄米を擦り合わせる事で精米する
こうして福太郎は待ちに待った白米を手に入れたのだ
(たけたよー)
ツーに作って貰った土鍋で米を炊き、蒸らしを終え食卓に持っていく
居間には炊きたてのご飯の甘い香りが漂っていた
「おぉいい匂いだ」
茶碗に盛られた白米、ホカホカの湯気、ツヤツヤと輝き食欲をそそる
そしてそれを見たシュンローが騒ぎだした
「え!これまさか米ですか!?」
「自分で収穫しておいて何を言ってるんだ」
「いや、麦か何かの仲間だと…」
「まぁ間違っとらんが…キライなのか?」
「キライというか食べた事が…これすごい高級品だって知ってます?」
「そうなのか?」
「何でも栽培法か秘匿されてるとかで市場には出回らないんです」
「まぁそう言うのは後で聞く!とにかく食べよう」
福太郎はもう我慢が出来なかった。元の世界に居たときから合わせて数年間我慢してきたのだ。もう数分も待てない
「いただきます!」
「い…いただきます」
一口分を箸に乗せゆっくり口に持っていく、喜びの余り手が小刻みに震えている
米を口に含みゆっくり噛みしめ、絞り出すように一言
「はぁ…うまい」
品種の差か八重樫家で育てていた米よりパサパサしていたがそんな事は問題にならなかった
一口一口ゆっくりと味わいながら食べ進めて行く
その目には涙が浮いていた
「また…米が食べられた」
数年分の思いがこもった言葉だった
それに対してシュンローは
「こういう味なんですね」
珍しい物が食べられた以上の感想は無さそうだ
「これからこの家の主食は米だから苦手ならキツイぞ」
「なら良かった、ちゃんと美味しいと思ってます。おかわり貰っていいですか?」
「随分と図々しくなったなこの客人」
そう言いながらちゃんとついであげる福太郎。一瞬精霊達がピリついたが前回の反省からちゃんと学んでいるので何も言わない
この日二人は心行くまで米を味わった
そしてシュンローは福太郎の居ない場所で五人がかりの説教をくらった
余談だが料理番のヒーは初めて米を炊くのに全く焦がさない所か、自由自在におこげを作る手腕を見せつけた
(料理は火が命!)




