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獣の過ち

「おいっ!? さっき、あのモンスター喋ったよな!?」


「んなばかな! そんなモンスター、【言霊の竜】ぐらいしか知らねぇぞ!?」


■混乱中の盗賊たち■

■それを尻目に■


(さて、やるかー)

 

 すでに気力が抜けきったクライスは、右腕をグルグルと回して戦闘準備動作。

 その腕はとても太く・力強く・野生の力を感じさせ、完全に彼の肉体の一部として機能していた。


「就職者G……! またかッ」


「ウホ?」


 背後からかけられた声に振り返る。

 そこには、敗北寸前状態の仲間の姿が。


(やはりな……地面に転がった服を見るに、ソルジャーはやられたウホか)


■朝のことを思い出すクライス■


【少し走ってくる】


【はいよー】


 朝の客室で、ベッドに寝転がる半覚醒状態のクライスに向けて、ジンはそんなことを言っていた。

 それを覚えていたので、もしかしたら彼が巻き込まれているのではないかと思い、ゴリラ砲弾と化して助けに来たという展開である。


「しかも、このゴリラ……っ」


「ステータスがッ!? なんでだよッ。普通モンスターにはないだろッ」


「んだよッ!? このステータス!!」


■就職者画像:ゴリラ■

■名前:G■

■攻撃力:すごい■

■防御力:やばい■

■速力:最強■

■魔導力?知りませんね、そんなステータス■


(こんなふうに見えているだろうウホな)


■これぞ無職の勇士のスキル■

■【怠惰なる申告】■


(ステータス表記を適当にする、意外と便利スキル)


 マサル。改め、クライスのステータスを誤魔化すのには最適なそれを発動するのが、就職者G状態の時のお約束。

 

「設定された名前は簡単に……どうだったけかっ」


「変えられねぇよ! ばか!」


「名前はまだ分かるが! 顔が完全に人外じゃねぇか!?」


「新種の種族かよッ!?」

 

 盗賊達(×6)の動揺は収まらない。

 自分たちの仲間を空から飛来して吹き飛ばし、でたらめなステータスを持ち、人語を介する・笑顔が怖いゴリラ。

 完全に恐怖の対象である。


「モンスターだろッ。あの威圧感!!」


「しかしッ、就職者でモンスターなんてッ」


(ウホ、なにやら勘違いされているウホ)


 モンスターや他種族と勘違いしている風の盗賊たちの様子に、クライスは一思案。

 この状況をどうにか利用できないかと考えて、模索する。


(モンスター……ってことにした方が都合よし?)


 己の姿はどう見ても変であり、理由付けが難しい。

 ならば元からそういう生物であることにした方が、自然な感じになるのでは?と、彼は思ったり思わなかったり。

 実際、この姿を装備型の魔導具によるものと思っている者はいない様子。


「ウッホホ、愚かな人間どもよウホ」


「!?」


「どうやら俺の正体を知らないようウホ」


「!?」


 クライスがなにかする度に驚きのリアクションを返す盗賊達。

 これなら勢いでなんとかなりそうだと、彼は思った。


「……俺は偉大なるモンスター様の配下、【野生の四天王】の一角、【不動】のGッ」


「ふ、不動のッ」


「G……ッ」


■即興で考えた設定をぶち込む無謀■

■かつての、クライス誕生シーンが浮かぶG■


(行けるかッ)


「やっぱりかよ、どうりでッ、ステータスがバグってるわけだッ」


「間違いなくA級モンスター……! もしかしたらS級かッ!?」


「びびるんじゃねぇ!! 見かけ倒しの可能性もある!!」


(行けそう)


■ほくそ笑むゴリラ■


「不気味な笑みをッ」


「連携で行くぞ!!」


「うおおおおおッ!!」


 盗賊達は結束を強め、野生のクライスに戦闘を仕掛ける。

 そこには魔王に挑む勇者の面影があった。


「踏破◆踏破◆焼却!!」


「踏破◆踏破◆雷光!!」


(踏破は魔導強化――繋げて二回使用によって強化効果が上昇――その直後に攻撃系の魔導を組み込むことで、更に上昇する可能性があるウホ)


■クライスは、学んだ魔導の知識を反芻■

■ただし、やはり魔導は使えないのであるが■


「まだまだ!! 支援◆踏破◆踏破!!」


(三人目、こっちも踏破——しかし、同じ【支えの言】である支援と組み合わせることで、他者の魔導を強化する性質に変化するウホ――だったはずウホ)


■己の、適当な記憶力に疑念を抱きながらも■

■一応、分析には成功■


(なら、試してみるかウホ)


■迫りくる激しい炎・眩い雷光に対して■


「直撃だあああああああッ」


■クライスは■


「――ウホ」


「え? は?」


「???」


「なに? 消えた? なんで?」

 

■不動のまま、当たる直前で、それを無効化した■


「ウホホ、俺のバリアにはそんなの効かんウホ」


「な、なに言ってやがる!?」


「ま、待て! 今、バリアって言ったか!?」


 状況が理解できず混乱する盗賊達の一人が、就職者Gの言葉に強く反応した。

 震える彼は、信じられないものを見る目をクライスに向ける。


「ま、まさかッ!? 強力なモンスターしか使えないという、スキル【魔導・絶対消滅陣】!!」


(なんだそれウホ)


「なんだよそりゃあ!?」


「非常に希少なスキルで、あらゆる魔導を無効化するといわれるモンだッ」


(まじか。すごいなウホ……適当にバリアって言っただけウホ)


■クライスの行ったことは非常に簡単■

■ただ両腕を超速で動かし、迫る魔導をしっぺで払った■

■それが、周囲の目にはなにもせずに無効化したように見えた■


「さて、終わりにしようかウホ」


「ひ、ひいいッ」


「か、勝てるわけがないッ」


「に、にげろぉっ!!」


 自信の攻撃を容易く無効化したクライスに対し、盗賊達は逃走を選択。持っている武器すら放り投げて、必死の走り。

 それを眺めるクライスは。


(面倒だ。どうしよう・しかし)


■思い出す光景■

■そうだ・笑っていた盗賊団■


「――俺からは逃げられないウホ」


■クライスは少しかちんとなり■

■右腕を、強く動かした■


「!?」


「うそだろ!?」


■ゴリラの腕から投擲された、破壊された地面の欠片■

■それが盗賊達に直撃■


「ぐああああ!!」


「うああああああ!!」


■響き渡る絶叫■

■石の道を削りながら前進する、投擲兵器であるそれは■


「な、なんだ!? 魔導!?」


「退避ー!!」


■駆け付けたソルジャーの部隊すら巻き込み■

■ついでに周囲の建物や器物を壊しながら、突き進んでいく■


「……」


「お、おいGッ」


「………………」


 その惨状を見ているクライスとジン。

 ジンは不安そうな顔で、二度も己を助けた存在に声を掛ける。


「バナナの時間ウホ。食べないと死んじゃうウホ――あとはまかせたッ」


「!?」


■ダッシュで逃走するゴリラ■


 来た時以上の速度でクライスは去り。

 プラマイで言うと、微妙な成果を残していった。


●■▲


■少し時が飛び、後日談■


「おい聞いたか!? 新種モンスターの噂!!」


「聞いた! 聞いた! なんでも喋るとか!!」


「しかも、ステータスを持っているって」


 ユッタリシティに出現したゴリラ型のモンスターはたちまち島中の話題となり、ガリアン盗賊団の知名度の所為もあって、燃え広がっていった。


「だが、盗賊団を倒してくれたんだろう?」


「いや! 駆け付けたナイトにも襲い掛かったって話だぜ!!」


「無差別かよ! こえーな!!」


「しかも、黒幕の存在を示唆していたとかッ」


 噂には幻想が付与されていく。

 今回の場合、悪い意味であるが。


「飛行能力を有しているとか聞いたッ。着地の際、地面にクレーターを残したらしい」


「魔導を無効化するって聞いたぞ。厄介な……」


「竜巻を起こす能力持ちらしいが……」


「山を一つ消し飛ばしたって聞くぜ」


「遂に、ファンブルナイトが動き出したってよ!!」


「四天王ってことは、同格があと三人ッ!?」


「悪辣王とは別の勢力なのかッ!?」


■こうして、ラクラク歴1558年の冬■

■史上10体目となる、S級モンスターが誕生した■


「……」

 

 一方、屋上に帰還した現在のクライスは。


(なんてこったウホ)


 ショックで立てなくなっていた。


(……考え過ぎだ。まさか討伐対象モンスターになったりするわけないない、はははははははは)


■彼の予想は当たっていた■

■また、新たな乱れが追加された瞬間である!■


(バナナうまいウホ――)

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