盤面を手繰る者
(乱れ達の不意を突くことは出来たはず。……お前の想像以上の手札をこっちは揃えてきているぞ)
いまだに進撃を続ける、クライスとゼノのペア。今回は荒れ果てた荒野のような場所。
二人の疾走を止めるために、乱れの一派が一斉に襲いかかってくる。
ある者は魔導具を手に、ある者は融合魔導を放とうとして。
決して弱くはない就職者たちが、彼らの行く手を阻もうとしていた。
「邪魔だ」
■炸裂する爆発が、敵集団を蹴散らす■
■情報共有をおざなりにして、ゼノの能力に対抗できるはずはなかった■
「な、なんだこいつら!!」
「まるで止まらねぇえええェ!!」
侵攻を続けるのは島の最強たち。
弱くはない程度で止められるはずもなく、能力超過の域に達した双竜が脆弱な人間たちを食らっていく。
爆裂の隙を突いて接近しようとする乱れに対しては、無職の閃光が相手をする。
その速力から発揮される超速ブロックは、接近者を次々と戦闘不能に追い込んでいく。
倒れていく乱れたちの様子を見て、ゼノはある思案を抱いた。
(変異死ではなく、この儀攻戦では【通常消滅】するだけ……か。たとえ乱れの波動があろうと、それは変わらない)
クライスの肉弾攻撃が直撃して、消えていく肉体。消えないで、ただ戦闘不能になっただけの者たちもいる。
現在空間は乱れの波動によって歪んでいて、ならば変異死こそが生物の終着点になるはずだ。
その道理を捻じ曲げる法則が、現出していた。
この儀式場内では、復活の理の中に組み込まれていく。
だからこそ——。
「……」
倒れて消える敵選手たち。
その光景を見ているクライスの瞳は、なんとも言えない。
特に、乱れの一派が死のうが生きようがどうでもいいと感じているようにも見えるし、あるいはその逆に……。
なんにせよ、爆発するフィールド内を静かに駆け抜けていく。
「失せろ、用はない」
■今の彼は脇目を振らない■
■何より大切な平穏の欠片を取り戻すべく、逸る足を加速させる■
「ここは通さないぜ、糞野郎ッ。こっちにも意地がッ」
「……」
「踏破◆踏破◆烈風!」
クライスの前に立ちふさがる大男。
彼の周囲に渦巻く烈風が巨大な盾と化して、走行ルートを塞いできた。
それはまるで小さな竜巻となって、足元の石を削りながら加速する。岩の破片で装飾された風の大壁だ。
まともにぶつかっては消耗は避けられない、それを前にしてクライスは。
「壁は・所詮壁だ」
■クライスの姿が、大男の視界から消えた■
「は!?」
■驚愕の表情を浮かべた彼は■
■あっさりとクライスに抜き去られる■
(速く巧い。あれが最強の盾たちすら翻弄したという、無名の侵攻者の速力……単純に速いという意味ではなく、敵のブロックを掻い潜るという意味も含めた、総合的な防御突破力!)
ゼノは、電光のようなものを発しながら爆走するクライスの姿を見据える。
話には聞いていたが、想像以上の凄まじい走り。
この儀攻戦において、飛び抜けた突破力の保有者というのは特別な意味を持っている。
「誰よりも速ければ止められず、勝利への道は閉ざされない・どんな盾も突破できれば、それは最強の矛となりうる。たとえ相手を倒せなくても・か」
ただ相手を倒せば終了、というわけではない競技。
むしろ、終点にさえ到達すればまともに戦う必要すらなくなるのだ。どれだけ屈強な肉体を持つ敵だろうと、強大な魔導を持つ存在だろうと。
直接戦闘を回避して、ゴールに到着さえすれば意味はない。
あらゆる敵を抜き去る・突破する能力は・儀攻戦において最大効果を発揮する。
「君は……儀攻戦において【最強】なのかもしれないな。自由の閃光よ」
■クライスの疾走の先は■
■終点を守る柱の一つ■
「つかれる」
■柱から迸る光■
■この儀式場内にある式の柱は、これで3つ解放された■
■クライス達は、続けて次の柱へと向かう■
「頼もしいな……」
ゼノは、一緒に戦ってくれたクライスに感謝の念を送る。
送るのはクライスだけではなく、別の場所で戦っている仲間たちにも同様に。
自分だけでは苦戦していたであろう、今回の儀攻戦の内容。
味方側のゴールは突破されていない。
●■▲
■儀式場内・別の地点■
■中心に式の柱がある、大きな闘技場内にて■
「うおおおお!!」
「この柱は死守しろおおお!!」
屈強な肉体を持つ男たちが、侵攻者たちを決死の覚悟でブロックする。
彼らの防御は素晴らしく、並の就職者では太刀打ちできない。
元々守護者の経験のある者が率先して指示を出しているため、それなりのチームワークを保って応戦が出来ていた。
戦況は五分五分。
「く、ハ、ハハは。なかなかやるなァ」
「元守護者がいるカ……経験の差はある、ガ。おれ達だって能力値なら負けてなイ!」
■乱れ達の攻勢を、クライス達のチームが防ぐ■
■決して弱い攻撃ではないが……■
「行かせるかよォ!! はッはァ!!」
■星に近い男・氷結のファイター、ベント■
■彼はみなぎる気合いと共に、乱れの侵攻者たちを防いでいる■
「ぐッ、おォ!? なんだコイツはッ」
「これは……ッ! うおお!? つめたッ」
■乱れ達を食い止める、氷結の拳■
■攻撃を停止して、一旦引かざるをえないほどの脅威■
■彼らの武器を持ってる腕が、いつの間にか凍りついていた■
「氷結の魔導ッ。さっきかわした拳に付属していたもんかァ!!」
「おっ。乱れのくせして博識っぽいな! 感心だが、容赦はしない!!」
「う、おッ!?」
一瞬の隙を突き、ベントは剣を持った男の凍った腕を粉砕する。
続けざまに打ち込まれた連撃が、その男の全身を氷結し、完全に戦闘不能へと追い込むことに成功した。
芯まで凍った敵は、消滅したも同然となってしまう。これこそが氷結魔導の脅威性だ。
下手をすれば一発で致命傷になりかねない。
「くそがァッ!!」
「ははッ!! もろいなァ!! 気を抜いてんじゃないぜェ!!」
「このッ」
■ベントの拳を、受け止めるのではなく避けるしかない■
「ぐ、がァ」
■しかし、直接当たらなくても凍るのだ■
「舐めんなよォ!! この円盤戦で鍛えられた拳!! 近接戦じゃあかなりのモンよ!」
「……ッ!」
■防衛においても、優勢なのはクライス達のチーム■
■ベントは自身の力を誇示しながら、ある事情のために、負けられないと気迫を増していく■
●■▲
「……」
式の柱の周囲で、それぞれのチームが魔導や白兵戦でぶつかり合う。その様は、プロチーム同士の戦いと比べても遜色なく、ゴールドがしっかりと乱れ達を選抜したのが分かる。
激しいこの戦況の中。その視線を強めながら、思案する者が潜んでいる。
潜む者が目を向けているのは……。
「——ここは、選手が比較的多いな。だがしかし、やることは変わらない。準備はいいかな?」
「ああ」
■ゼノとクライス■
■今回の試合における主力二人が、次なるゴールを目指す■
「次は平原……しかし、各所に配置されている不気味な像が気になるな。なんだアレは?」
「日差しつよい」
■今回のフィールドは、10メートルほどの像が点在する平原■
■像はこの世のものでない・禍々しい怪物をイメージしているかのように、どれも形が違って不気味だ■
「……やることは変わらない。蹴散らす!」
ゼノの爆発魔導が、再びフィールドに出現する。
今回は味方の数もそれなりに多いため、巻き込まないように上手く調節し、敵の壁に穴を空けていく形だ。
それは、生半可なコントロール技術ではないが。
「ゼノさん! 助かる!!」
「さすがのコントロールだな! 最強の味方だ!!」
見事に味方を避け、敵選手たちを吹き飛ばしていくゼノの魔導。
威力は抑えているために消滅させることは出来ないが、敵の防衛を崩すに十分すぎる脅威だ。
そうやって、味方が侵攻するためのルートが形成されていく。
これがソルジャーのトップに位置する者の実力。
「よし! 切り込むぞ!!」
「ああ」
■主力二人が、敵陣の奥へと進んでいく■
■二人をなんとか食い止めようとする者もいるが、ゼノ&クライスの肉弾戦で対処される■
「止まらないッ。強すぎる!!」
「なんなんだァ!? この二人ィ!!」
クライス達の攻勢によって、乱れ達の陣営は急速に勢いを失っていく。
中には、持ち場を離れて逃走してしまう選手もいる始末。
ゼノはそれを見て、やはりとつぶやいた。
クライスも、何か思うところがありそうな表情を浮かべる。が、すぐにゴール地点へと意識を戻した。
「……」
■まだ少し遠いが、選手たちの向こうに式の柱は見える■
■彼はそこで・今回の標的を脳内で反芻した■
「ハーディン」
■ジャスミンを攫った、特級の乱れ■
■彼は今、どこにいるのだろうかと■
「——ぐっフ。今だァアッ」
■一瞬で、クライス達の視界が青い光に包まれる■
「なッ!?」
「ッ」
■急停止するクライスとゼノ■
■その変化は、ゼノの方に起こった■
「ぐあ……ッ! ……これはッ。まさか」
「どうした」
クライスの方には変化がない。
いや、少し違和感があるにはあるが、無視できるレベルだ。
これは、ゼノだけに起きた強い変化。
……否、それもまた違う。
「……なんだ?」
クライス達の周りで戦っていた選手たちも、敵味方問わずに、その動きを鈍くしていく。
自分だけに起きていない現象。
それが何故なのかを考えた時、直感的に脳裏を過った発想。
そう、さっきから【ある攻撃】が見えなくなった。
「魔導力……か?」
■魔導攻撃の数が、さっきより激減している■
「……そのようだっ。そして、これはどうやら——僕を狙った策ッ」
■汗を流すゼノ・その魔導力は大幅に削られてしまった■
■この状況を生み出した当人は、式の柱の近くで笑みを深めた■
「ぐはははッハァ!! 狙い通り、敵の主力を大幅に削ったようだなァ。あぶないあぶない本当に……このままでは、あっさり負けていたぞォッ。【海水浴】をする時間ぐらいはァ欲しいなァ」
自身の狙いが上手くいき、ハーディンは安堵と達成感をにじませる。
彼が着ている服は、白を基調とした貴族服のようなもの。服の至るところに飾り付けられた宝石類が、彼の性格を象徴するかのように不気味に・傲慢に輝く。
威風堂々とフィールドを見渡しながら、思考を切り替えていく。
「さぁァ!! 次はァ!! こちらの反撃だァ!!」
■どこからか取り出された、赤と黄色の指揮棒■
■それを豪快に振り、選手たちの混沌発露する戦場を己のものとしていく■
「CHAOSを刻めッッ!! 排他を壊せッ!! 我らが偉大なる王に、勝利の証を届けよッ!! 乱れの軍勢ッッ!!」
■狂気と狂気が重なり、より深い狂気が生まれるように■
■弾けていくフィールドの乱れ■
「ひゃはハッ!! なんかやる気出てきたぜェッ!! おいおいおいッ!!」
「ぐッ!? なんだこいつら! いきなり勢いがッ」
■クライス達のチームが、乱れ達の防衛に弾かれる■
■それは敵選手の勢いが増した、だけではない■
「う……ッ! さっきから気分がッ」
「これが乱れの波動か……!! しかし何故っ」
乱れの波動も強まっている。
儀式場内だというのに、乱れの力が緩和されているというのに、それでも気分を害するようなレベルの乱れ。
それのせいで対峙する選手たちの能力は落ち、徐々に押され始めていた。
「……ハーディンめ。まんまとハメられたか。くそっ」
「なに?」
ゼノが、不利に傾いた戦況を見ながら愚痴を漏らす。
彼の十八番である魔導は十全に発動できず、さっきまでの威力はまるでない。
肉弾戦による攻勢も陰りが見え、勢いを増す敵防衛を突破し切れなくなっている。
「さっきまでの爆裂魔導……それで吹き飛んだり、戦線離脱した敵選手が戻ってきている。恐らくは、初めからそういうつもりで……劣勢に見せかけて、魔導力を奪われない場所まで退避していた」
■戻ってきた敵戦力によって、攻勢は完全に停滞■
■それを見たハーディンは、にやりと笑う■
「ふははッハ! 少しこちらを甘く見ていたようだなァア。そちらの戦力は確かにすごいが……こちらとしても、そう易々と負けるわけにはァ!! いかんッ!!」
高笑いを上げるハーディンだが、その瞳は真剣そのもの。
クライスとゼノという、脅威に過ぎる者たちを相手にしては、調子に乗れるような時は来ない。
だが、負ける選択肢を取るわけにもいかなかった。別にスポーツマンシップのようなものがあるわけでもないが、それでも——だ。
「厄介・厄介ィイ。どうする……かァ」
ぎょろりとした目で、フィールドの全体を見渡すように、しっかりと状況を精査する。
策が成功したおかげで、敵の侵攻を食い止めることは出来た。しかし・それでも・と。彼の中で幾重もの思考が交差しては弾けていく。
もっと深く・もっと集中して・この状況をどう転がすものかと。
「フムゥ……少し、仕掛けてみるかァ。グハッ」
■邪悪な笑みと共に、ハーディンは指揮棒を振る■
「なんだ……? 急に動きが」
■同時、ゼノが対峙する選手の動きの変化があった■
■それは予想外のものだ■
(防御が固くなった……ではなく、逆に弱くなった?)
■敵選手の壁がもろくなった■
■なんとか突破して、前に進めそうなほどに■
「……」
ゼノは逡巡し、しかしてこれはチャンスであるとも考える。自身の状態を鑑みた結果、その気持ちはより強まっていく。
考えている時間すら惜しい中で、共に戦う仲間たちのことを思い浮かべ、進退の決断を即座にした。
「クライス君」
「分かった」
■短い言葉でのやり取り■
■その間に、クライスへと魔導攻撃が飛んで来る■
「おっと」
彼はそれをかわし、同時にゼノが壁の突破を開始する。
ゼノの侵攻を止める敵選手の動きは軽く、明らかに意図的なものを感じた。
それならばと、勢いを止めることなくゴールへと走り出す。
比例して警戒心は上がっていく。
(誘われている——確実に)
■罠であるのは分かっているが、それでもゼノは止まらない■
■仲間たちと共に、ゴールへと進む■
■その道の先にいるのは■
「ぐッふ!! 予想通りィ……責任感の強いソルジャーァだッ!!」
■敵の主力、ハーディン■
■禍々しい気配を発しながら、最大級の乱れがゴールを守る■
■実際の体格よりも大きく見えるほどの、圧倒的な威圧感を与えるブロッカー■




