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平穏侵食

■その日、島は未曽有の脅威に襲われた■


「――?」


■時刻は昼過ぎ■

■ヤスミノ地区・ソルジャー部隊の下に一本の通信が入った■


「あ、ああ、ア。すまない、すまないいい、なんてことだ。失敗した・もうおしまいだ」


「? 何を言っている。用件はなんだ」


「ああ、用件は、だな」


■通信の内容は支離滅裂■

■サポート通信を行った男性は、顔面を青く染めて……■


「怪物に・全てを奪われた」


■通信は、その言葉を最後に途絶える■

■空間をねじるような轟音が、その直前に聞こえたという■


●■▲


■さらに同時刻■

■上級儀式場・【密林の大蛇】にて■


「……ふう。疲れましたね」


 大きなモニターの前で機器の操作を行っている、銀髪セミロングの女性が一人。周囲の空間はジャングルのような魔導場だ。

 背もたれのない丸い椅子に腰かけ、儀式場の管理者である守護の会所属の彼女は、儀攻戦終了と共に溜息を吐いた。

 今回の試合はそれなりに長時間で激しいものだった為、見ているだけでも体力がごりごりと削られていく。

 モニターに映された勝利者たちの姿を見ながら、彼女は心の中で称賛を告げた。

 試合後は選手たちが魔導場から離れて、守護の会のメンバーによる事後処理が行われる。

 管理者は、試合映像を編集してその人たちに渡す仕事があった。

 もうひと頑張りだと、彼女は自身の頬を叩いて気を引き締める。


「あれ?」


 そこで、手元のタッチパネルを操作しようと思った手が止まった。

 モニターに映された、分割表示の魔導場内部映像。

 その中のいくつかがノイズで埋められて、まったく様子を伺えなくなってしまった。

 

(なんで……?)


 この魔導場映像は監視カメラなどを用いているわけではなく、儀式場のシステムによる監視に過ぎない。

 なので監視システムが物理的に壊されるということはなく、それならば原因は……。


「!!」


 大きな衝撃音が管理室に響く。

 特殊な隠蔽・防衛システムによって守護された室内にそんなものが響くなどあり得ないと、女性は慌てて背後の音の方に振り向いた。

 

「なにっ、一体!?」


■砕けた空間の向こうに立つ異形■

■それは人型であった■


「ひ!?」


 人型であるだけでその外見は人のそれではない。

 口や目や鼻が全身に浮かび上がった、異様の極みと言えるカオスの生命体。

 いや、そもそも生命体ですらないのかもしれない。

 その証拠に、【機械的】な駆動音が異形なる人型から聞こえてくる。

 

(!! 向かってくる!?)


 駆動を開始した異形は、管理者の女性の方へ向かってくる。

 より正確には、その背後の管理用の魔導具へと。

 いきなりの展開に怯えながらも彼女は、出現した脅威を排除するべく右の掌を向けた。

 

「踏破◆踏破◆稲妻!!」


 放たれる魔導は彼女が纏う白いローブ・魔導強化の魔導具によって、威力を増して異形を襲う。

 対する襲撃者のスピードは大して速くはなく、最初の出現には戸惑った彼女も、すぐに平静を取り戻して冷静に対処する。

 

(何者かは分からないけれど、ここを通すわけにはいかない!! 絶対に阻む!!)

 

 決意の炎で全身を焦がしながら、全力の魔導攻撃。

 管理者としての誇りをもって、安寧の地を侵す異物を排除せんと意気込む。


■決意の雷は■


「!!」


■魔導の盾によって防がれた■


(え!? あれは【波動の言】の【防壁】!!)


 異形の存在の目前に出現した半透明の盾は、稲妻を完全遮断。

 管理者の見る・聞く限りにおいて、襲撃者が魔導を発動した素振りなどはなかった。魔導力が高い者ならば【圧縮詠唱】という、詠唱の気配を悟らせない高等技術もあるが、管理者の目に映るステータスは異形にない。

 つまりそれは一つの可能性を示す。


「ははは!!」


「ぎゃははは!!」


■異形の存在の背中から姿を現す■

■男性二人組■


「何者!? まさか!!」


■管理者は、乱れの一派をイメージして■

■素早く対処しようとした■


「はッははああッ!!」


 狂ったような笑いを上げるフード男が、両手を管理者の女性に向ける。

 そうすると、彼女の魔導を発射するポイントとなる右手が妙な圧力に襲われ、魔導発動までにわずかな隙が発生した。

 そこを突くかのように発動される【闇】の魔導。


「!! きゃあああ!?」


 管理者の周囲に発生した闇の渦が、生命の力を奪っていく。

 失われた現象の言・【暗黒】。

 既に、製造不可能とされる魔導を使いこなす賊に驚愕しながら、彼女は体力を強奪されて地に伏せてしまう。


「この女どうするゥ? ころしておくか?」


「あー処遇は適当でよかったよナァ。……まァ、殺すことはないナ。それよりモ」


 もう、指一本すら動かせない状態に追い込まれた管理者に、儀式場を制御する核となる魔導具を守る力はない。

 男の一人が鎖で彼女の肉体を拘束し、さらに麻袋をその頭に被せた。どうやら拉致する気のようだ。

 

「だ、めッ。それに近づいたら、だめッ」


■恐怖しながらも彼女は必死に、異形の到達を阻止しようとするが■

■駆動音を響かせる腕が、モニター型の魔導具へと伸ばされ■


●■▲


「……?」


■その時■

■魔導場内に残っていた選手たちが、異変を察知した■


「こりゃあ、背筋がひんやりクールだぜ……!」


「何を言ってるんだ、おめぇ。たしかになんか嫌な感じあったがよ」


「いやいや。これはオレの勘が言っている。【なにか起きた】」


■砂地に立つ四人組の侵攻者■

■全員が屈強な肉体を持ち、優れた選手であることをうかがわせるオーラを纏う■


「どうするかね。このまま魔導場を出たら不味い予感がする」


「おい、留まってたら怒られるぞ。早く飯食いに行こーぜ」


「まったくだわ。腹減って今にも倒れそうになっとる……」


「うーむ……」


 仲間たちに帰還をうながされる黒髪の青年は、儀式場の終点がある方向を見遣る。

 さっきまで自分たちが戦っていた場所に戻るべきと、彼の頭の中で警鐘を鳴らす第六感。

 胸騒ぎがその足を止めて、動くこと叶わない。

 なにか。

 己の世界を壊すなにかが、侵攻している確信。


「オレ……やっぱり戻るよ。悪いな!」


「え、あ、オイ!」


■踵を返して、終点のある方へと向かう青年■

■だが■


「!%?>()&$#」


■立ち塞がる人影があった■


「……!!」


 赤・緑・青・黄色・紫……。

 様々な色が不規則に塗りたくられた長髪を生やした、細身の女性。右手に持った長剣を地面に突き刺している。

細身ながらも引き締まった、ほどよく筋肉質な肢体が、彼女が競技者であることを思わせた。

 髪とは対照的に真っ黒に染まった瞳が、侵攻者たちの心の臓を狙って鈍く輝く。

 鈍く・鈍く・殺意を光らせる。


「……おい、お前ら」


「分かっている。こいつは【やばい】、クレイジーだッ」


 危機を察知した四人の侵攻者は、彼女のステータスを即座に確認。

 表示された能力値に驚愕した。

 破格の数値は島のトップクラスに見劣りしないレベルで、彼等の警戒度を上げるには十分な領域。

 油断なく、強化魔導によって肉体を強化した侵攻者たち。

 それに対し彼女は。


「……」

 

■鈍く・鈍く■


「・??*@、4:」


■鈍く・速く――■


●■▲


「つまり、儀式場のシステムが乗っ取られたと?」


「そうさな。ヤマトの妖怪伝説は知っているだろ、あれが現実のものとなったわけだ。笑えない話だがね」


「……妖怪が儀式場を襲ったってかよ」


■異変から十数分経過後■

■儀式場・密林の大蛇■

■終点近くのジャングルにて■

■安寧の太陽の構成員・男性二人組が走る■


「管理室の制御用魔導具が侵食されていた。妖怪と思われる【ロボット】は破壊したが、既に手遅れ。どれだけ操作しても正常な状態に戻らない。姿を消した管理者の女性は、拉致されたと見て間違いはないだろう」


「破壊されたスーパーロボット……大魔導連盟の技術、【魔導テクロノジー】が用いられていたとか言ってたな」


「連盟の頭は拉致されたまま行方不明。情報を引き出されたか」


「……対儀式場用のロボットとは。結界すら通り抜けて、管理室の隠蔽すら見破ってしまうのかよ」


 彼ら二人は、儀式場内部に入り込んだ乱れたちに対処するため、慎重・迅速に終点へと向かっていた。

 ただ乱れの一派を排除するだけでは、儀式場は戻らない。

 管理システムを正常化するには、終点に行く必要がある。。


「現在の儀式場は、毒となる侵食渦に所有権を奪われている状態だ。つまり」


「終点に到達して、その所有権を奪い返すってことだわな」


■彼らの周囲には、切り裂かれた強力なモンスターが転がっている■

■そして、奥にいる脅威と数秒もしない内に接敵することになるだろう■




「――なんだアレは」


■ジャングル内にある終点■

■発見したそれは、限りなくA級に近いモンスター二体に守護されている■


「……ば、化け物」


■はずだったが■

■二体とも消滅間際■

■残っているのは■


「?!・>%」


 細身の少女が終点前に立っていた。

 身に纏う衣服は、ぴっちりと肌に張り付いたカラフルなスーツ(腹の部分が切り取られている)、全体的に形の整った肉体は健康的な美を想起させる。

 見惚れるほどの美しさはあるがそれ以上に。


(動けない、威圧感)


 見える能力値の話だけではない。

 全体から発せられる生物としての格のようなものが、普通の人間とは違っていた。

 脆弱なる肉体を持つ生物が・そうではない生物と遭遇したことによる、本能的な恐怖感が彼らを縛っている。

 優秀な就職者である二人は、簡単な事実を認識する。


■戦力が足りない■

■しかし時間も足りない■


(他のメンバーは道を切り開くために戦闘中。加勢は無理だ)


 儀式場が侵食されて、今もそのシステムは【破壊】されている。

 完全なる崩壊にかかる時間は正確に掴めないが、ここで足を止めていては間に合わなくなるのは確か。

 ならば、危険と分かっていても勝負を仕掛けなければならない。

 敵は一人。

 数で上回っていることなど何の気休めにもならないが、彼らは覚悟を決めて一歩を踏み出した。


「?・?*:」


■踏み出した足が■

■視界から消える■


「お、あ?」


■金髪の成人男性は■

■足の消失と共に・凄まじい激痛に襲われた■


「が、アああああッ!!」


「!?」


 相棒の絶叫に心臓が壊れそうになった茶髪の男性は、事態を迅速に呑み込んで・絶望した。

 血を吹き出す己の右足を抱えて、地面を転がる仲間。

 右足の先は、いつの間にか背後に立っていた乱れの女性が持っている。

 彼女の持つ剣が赤に染まっていた。


(速い――対処する!!)


■動揺時間は1秒にも満たない■

■茶髪のソルジャーは、己の【大砲】を即座に展開■


「ごッッ!?」


 展開前に彼の胴体が斬り裂かれた。

 対応は迅速だったがはるかに遅い。

 流星の如き速力を持つ彼女相手では、そこは既に致命の領域。

 もし彼女を相手にするのなら、もっと別の方法で対応するべきだった。

 後悔したところで何もかも遅く、地に倒れるはソルジャー二人の肉体。

 

(能力、超過ッ)


 薄れる意識の中、彼の頭で渦巻く情報は視界に映る女性のステータス。

 能力値の一つが、トップクラスの脅威を示していた。

 要するに能力超過。

 速力が限界点を超えて・まだ【上昇】を続けている。

 一体いかなるカラクリか、何かしらの、魔導や魔導具などの影響を受けないと変化しない能力値が、今この瞬間にも上がり続けていた。

 

(あり得ない……まさか、【神速の一矢】すら超えている――)


■神速の一矢■

■ホンワカ島最速と謳われる、ある守護者の異名■


「?:::‘@」


 少女は痛みに転がる就職者に目を向けた後、ジャングルの上空に浮かぶ雨雲を仰ぎ見た。

 魔導場によって生み出されたものではあるが、彼女の好きな空模様であることに違いはない。

 雨は降りそうで降ってこない。

 そもそも降るようには設定されていないのかもしれないが、彼女は雨が降ってくるのを待っている。

 

「?:!!:‘」


 ぽつぽつと落ちてくる空の雫。

 少女の顔に当たる冷たさが、全身にまで広がっていく。

 それに対して薄い笑みを浮かべ、両腕を大きく広げた。

 空からの恵みをあますことなく受け入れるように、無防備な姿を晒した。

 

「!!?:@」


■少女を濡らす雨が■

■歪んで・弾ける■

■濡れた肢体が、ぴくりと動いた■


「【トライフォ】。楽しい水浴びの時間は終わりダ、魔導場は崩壊すル」


「!!:@・‘@」


 怪物的な速力を持った少女トライフォに声をかけたのは、細長い体格の黒髪男性。

 眼帯をかけた彼は、血の足跡を地面に刻みながら歩いてくる。

 その邪悪な笑みは、乱れに相応しい寒気を放っていた。


「ははハ、オレはとても楽しめたが……キミはどうだ?」


「?:@」


「……失われた言語カ。翻訳が面倒だな、ハハ」


 一応は仲間であるはずの二人だが、その雰囲気はピリピリと張り詰めていく。

 乱れであるがゆえに当然のことかもしれないが、今にも殺し合いを始めそうな気配漂う。

 しかし眼帯の男・【ザント】は両手を上げて、降参の意志を示した。

 彼の瞳は、不気味に輝いたまま彼女を見据えている。


「戦う気はないゾ。オレはキミと違って肉体派じゃないんでナ。まともにぶつかり合って勝てる気はしなイ」


「**@」


「これが儀攻戦なら条件次第で勝てるかもだが、同じ陣営なんダ。争う機会もない……」


「;:@・」


 トライフォの言語を理解しているのかいないのか、ザントは物怖じしない態度で会話を進めている。

 異世界競技の一つ・儀攻戦なら勝てる可能性もある。

 人外を超えた能力値を持つ彼女相手にそう言えるのは、同じく特別な力を秘めた存在だ。

 

「これからの侵攻作戦、同じチームで肩を並べて戦える機会があると良いナ。……ハハ」


「@@:。・」


「あア、キミより上はいないだろウ。誰より速く・誰より鋭く切り込む走り」


■ザントはトライフォの動きを知っている■

■しなやかな肉体による、美しい走りを■


「――だが、もしかしたらで追いつける奴がいるかもナ」


「::@・」


■一瞬、トライフォが強烈な殺気を放つ■


「ハーなんとかって奴がずいぶんと速い【厄介な選手】を見たってヨ。キミに匹敵するかもしれない速力の持ち主だ。競ってみたいカ?」


「::@・。」


 トライフォは顔を横に振って反応を返す。

 その真っ黒な瞳には、好意的な興味の色がまるでなく、異世界競技者としてのこだわりなど微塵もないことが分かる。

 まだ見ぬ強敵など眼中になく、ただ平穏を壊すために行動する。

 

「:・@」


■トライフォは再び空を仰いだ■

■偽りの空は晴れて・彼女の嫌いな青空が顔を出した■

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