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乱れの異常者

「はハ、来た来た。挑戦者たちヨ」


■マリオは斧を担ぎながら■

■遠くから走って来る者たちを、見据えた■


「壊してやろうカ。人間を壊すのは専門外だがナ」


 浅く冠水している地にて。

 夕焼けに染まった空の下、就職者たちの戦いが佳境を迎えていた。

 一方はこの島の平穏を守る太陽。

 一方はこの島を乱す太陽。

 

「攻め込め!! この場所を奪取すれば我々の勝ちだ!!」


 剣や槍や斧などなど。

 マリオのいる方向に向かってくる就職者たちは、様々な魔導具を構えながら、鬼気迫る迫力で突撃行為を行っていた。

 それはむしろ。マリオの先へ行こうとする行動である。

 彼らは、ある一点を目指して侵攻を続けていた。


「――終点は通さないゼ。オレがいるからナ」


■ドンと立ち塞がるマリオは■

■背後にある、儀式場のゴールを守る■


「ははハ、儀攻戦とは久しぶりダ」


 マリオの口から発せられた単語。

 それは、現在の戦闘が異世界競技の一つ・儀攻戦であることを示している。

 彼はゴールを守る役目として、攻め込んできた侵攻者たちを阻むために斧を振るう。

 巨大な斧から発生した斬撃は、向かってくる者たちに襲い掛かり、その肉体を粉砕していく。

 儀式場の力のおかげか、そのダメージは本来の競技用のものでしかなく、変異死することはない。


「くそ! まさか奴の持っている斧は!?」


 なんとか斬撃の嵐をかい潜った長身の男性は、己の身長よりも二倍は長い長剣を持ち、マリオの背後にある終点へと疾走する。

 その速度は、剣が持つアイテムスキルの効果によって補正を受け、侵攻者チームの中でもトップクラス。まともに相対するのではなく、終点到達を誓って走っている。

 いくらマリオが強いと言ってもたった一人。

 全方向から突撃を行う戦士達に対処するのは、困難と言えた。

 疾走する侵攻者は、マリオの持っている武器を見て考える。


(【雷獣】が生み出した最高傑作。高度な肉体補正が得られる斧か!! アレのアイテムスキルはかなりの攻撃力を有していなければ発動不可、それに加えて魔導具の能力値補正とは!!)


 長身の男性は、終点に最も近い位置にいる侵攻者。

 マリオは彼に背を向けて、他の侵攻者の対処に手間取っているようだ。

 チャンスは今しかない。

 終点に到達さえすれば【防衛】は成功するのだ、


(走り抜ける!!)


■侵攻者の足が終点に接近する■

■あと10秒もしない内に、到達する距離■


「――なめんなヨ。オレは元守護者ダ」

「!??」


■それだけの距離があれば■

■かつて、儀攻戦でディフェンスのスペシャリストとして活躍していたマリオには、十分に過ぎる■


「ほらヨ。退場しナ」


 接近したマリオの斧が振るわれ、長身男性の頭が吹き飛ばされる。

 あまりにあっけない攻防は終わり、万が一にも侵攻者たちの勝ち目は失せた。

 マリオはつまらなそうに息を吐く。


「ルールは【ダブル】で、すべての式の柱は解除され、王手寸前までは追い詰められた……カ。だがそこまでダ」


 砕け散って消滅していく選手たち。

 マリオという最後の壁を越えられずに、安寧の太陽のメンバーたちは、乱れの一派に敗北した。

 異世界競技を行ってきた経験がまるで違うマリオ相手では、能力値以前の問題で分が悪い。

 かつて現役の選手だった頃と比べて、ブランクがあるとはいえ、まだまだ勘は健在であると確認できたマリオ。


「かつては速力【5位】・攻撃力【3位】だったが……さて今ハ?」


 マリオは、守護者だった時代の格付けを思い出して苦笑。

 【斧】の補助がなければこの程度と自嘲するが、彼自身の評価はまるで的外れと言わざるを得ない。

 特殊な魔導具を軽々と扱う攻撃力に、平均以上の速力を兼ね備えた優秀なフィジカル。

 異世界競技という闘争に慣れ親しんだ肉体の駆動は、あらゆる有象無象を排除する一矢となる。

 

(昔は、よく観客がいる中で試合を行っていたもんだガ……)


 昔と今の状況を比べて、マリオは再び苦笑した。

 歓声を浴びて、フィールドで戦い続ける栄光に溢れた昔。

 島の安寧を壊す者として恨まれながら戦う今。

 充実してるのは間違いなく現在で、やはり自分は乱れ側の人種だと再認識した。

 なんともかんとも、自分に正直に生きているだけなのだが・あの敬愛する王と同じように。


「破壊は止められんナ」


■自身の芯にあるものを、見つめ直し■

■マリオは高らかに笑う■


「わー、マリオ君すごい! わたしが逃したの全部やっつけたの!?」


「リーチェ……なにやってんダ」


「ごめんごめんー。なんかいっぱい攻めて来たから、ブロックが上手くいかなくて……」


「ちゃんと全体を見ろと言っておいたろうが。ただ強いだけじゃ儀攻戦は勝てン」


「ううん、何か相手もおかしな魔導を使ってくるから……。防げないよ~」


「甘えんなよ」


 終点近くでリーチェと合流して、マリオは説教を始めた。

 同じ混迷の太陽とはいえ、儀攻戦を行うとなると如実に経験の差が表れる。

 ただ相手を倒すということだけに集中していると、思わぬ伏兵にしてやられるということもあるのだ。

 その点で言えば、経験者であるマリオは悪辣王の勢力の中でも侵攻者・守護者としてのレベルが高かった。


「マリオ君はすごいねー。スペシャリストって感じ」


「別に大したことはねェよ。オレなんてな」


「ええー。ブタくんとは違ってかっこいい体だし、スポーツマンっぽいよー」


「ブタくん?」


 リーチェの言うブタくんが誰か分からずに、マリオは首傾げる。

 その反応に対して彼女は疑問を浮かべ、当たり前のことを説明するように言う。


「気持ちの悪いおっさんのことだよー。マリオ君」


「……まさかハーディンか?」


「うんうん!!」


「……」

 

 無邪気な顔で肯定するリーチェに、微妙な顔を返すマリオ。

 もしハーディンがその呼び方を使われたら、一体どんな風に対応するのか未知数なので、一応注意はしておこうかと思う。

 まあ、もしかしたら喜ぶ可能性もあるのが恐ろしいが。


「……呼称はともかく、奴はかなり手強いゾ。儀攻戦向きかもしれん」


「へえー。あのぶよぶよのお腹で?」


「奴の使う【力】はそれを覆す。攻撃力と防御力だけならオレよりも上だしな」


「ブタくんなのにすごい!!」


「……」


 純粋なる悪意の言葉とは、こういうことを言うのか。

 この場にハーディン本人がいなくて良かったと、マリオは思った。

 ハーディン本人にも問題があるのは確かだが、リーチェの言葉は直球に相手を傷つける刃物のようだ。

 実際、マリオも結構ぐさぐさと刺されている。


「……まあ、あいつは絶対にスポーツとか嫌いな人種だろうナ。自分でインドア宣言してたしヨ」


「そうなのー。見たまんまだね!! 面白味なし!! あはははは!!」


「意外性はあるだろうヨ。自他の評価とは離れた性質・才能を持っているんだ。そういう、幸運なんだか不運なんだか分からない人種はいる」


「ふーん。でもそれなら、今回の作戦にも参加するのかなー?」


「出来ることだからやるってタイプではないだろう。あいつは、やりたいことを絶対にやるってタイプダ」


 マリオは、現在地・魔導場の外で活動中であろう仲間達を想う。

 彼らもまた、【儀攻戦】という形で【計画】を進めているのだろうと。

 そして……。


「時間だ、オレたちの勝利のな」


■マリオとリーチェ■

■二人の周囲が歪み、空間が崩壊していく■


「わわわ。なにこれ」


「魔導場が壊れている。つまり支えとして機能していた儀式場が、【破壊】されたってことダ」


「???」


「もっと簡潔に言うト」


■儀式場で戦う乱れたちは■

■しかして、守護ではなく破滅のために動いていた■


「オレたちの勝ちで・島の奴らの負け。やったなリーチェ、今夜は仲間達とパーティーだ」


「わーい!!」


■この時、安寧を支える柱の一つが崩壊した■

■壊せないはずの各地の儀式場は、乱れたちによって侵攻されていく■

■孤島にあるヤマトの【妖怪】——その力は絶大だった■

■このまま儀式場が壊されていけば、待つ未来は【島の破滅】■

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