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その日もロゼッタと雨竜は禁じ手を行う相手を探していた。

「えーっと、雑魚雑魚……」

 獲物を物色する瞳を周りに向け、相手を探す。

「ロゼッタ・ミルドレッド!」

 彼らの前に立ちふさがったのは、背の高い男と黒いとんがり帽子をかぶった少女。彼女の名前はライム・スニッカスニー。失われた古代魔術のひとつ、ケルト魔法の術者である。

 ケルト神話に登場するのは神々だけではない。魔道師も数多く登場する。その代表的な魔法使いは、大魔道師マーリンであろう。

 しかし、ケルト人には文字の文化が存在しないとされており、その稀代の魔法の数々は、口述によって現代に伝えられている。

「いざ、尋常に勝負!」

 背の高い男。目が細く、優男といった風貌。野太い声。彼の名は、ガルムット・ラムザ。

「スニッカスニ!」

 雨竜は見覚えのある、りんごのほっぺたが特徴的な、ブロンドの可愛らしい少女。

「りゅー、勝負だよ」

 スニッカスニーと呼ばれた少女。彼女は独特のトーンで話すので、雨竜の名前が上手く聞こえない。

「いいの? 勝ち目はないけれど」

 凛とした態度でロゼッタは雨竜の前に進み出る。

「これって、やばいんじゃない」

 ぼそり、とロゼッタに囁く。

「そうかもね、私たちに勝負を挑んでくるなんて、よほどの自信家か、タッグの相性がいいか……」


 風の吹き抜ける草原で、ロゼッタたちは、スニッカスニーたちと向かい合う。

「ロゼッタ、僕が行くよ」

「ちょっと、待ちなさい。攻撃魔法も使えないのに」

「それはロゼッタも同じだろ、僕が行くよ」

「じゃあ、始めようか」

 ラムザは、ポキポキと指を鳴らす。

「ロゼッタ嬢はいいのかい?」

「ええ」毅然とした態度で、ロゼッタはそう言うが、内心焦りまくっていた。

「頼むわよ、雨竜……」


 剛腕が雨竜に振り抜かれる。

「攻撃魔法は使えないけれど、」

 白い札を取り出す。ラムザの拳に結界が反応した。ラムザの拳は、衝撃音を立てて跳ね返る。

「ほう」

 感心したように、ラムザは細い瞳をさらに細め、感心したように雨竜を見る。

「防壁魔法か」

「そうさ」

 ラムザの拳が赤く光る。強化系の魔術のひとつである。自らの身体の一部に魔力を集中されることによって、攻撃力が数倍にも跳ね上がる。体内に保有する魔力の総量が高ければ高いほど攻撃力が上がる。

「これ喰らったら、死ぬかもな」ぽつり、とラムザは呟く。

「まっ、大丈夫だろ」

 ぶんぶんと腕を回す。

 轟音を立てて拳が雨竜に向かう。札が発動するが、ガラスに石を投げつけた音が響く。

 はずだった……。

「なん、だと」

 防壁はびくともしていなかった。見ると、札が幾重にも重なっている。雨竜は札を何枚も重ねることで、防壁力を高めていた。

 パリ。

 防壁に亀裂が入る。雨竜はすこし、口の端を上げる。余裕のある表情を作ろうとしたが、妙にひきつった表情になってしまった。事実、彼は焦っていた。

「やるなぁ、雨竜君」

「でも、防壁魔法は、俺たちには意味ないよ」

 言い終えるが早いか、もう一度、赤い拳が雨竜に襲いかかる。札を重ねて防御するが、防壁は、まるで紙屑のように崩れた。

「えっ」

 そのまま雨竜の腹に拳がねじ込まれる。

 雨竜の身体は数メートル吹き飛び、地面に崩れ落ちた。

「大丈夫かぁ?」呑気な声で、ラムザは雨竜に呼び掛ける。

「くっ、なんで」

 身体が思うように動かない。手が震える。頭の中がガンガンする。

「雨竜!」

 ロゼッタが駆けよる。

 雨竜はロゼッタにちいさく耳打ちをする。

「おそらく、スニッカスニーの魔法だよ。何もしていないように見えて、口元だけは動いていたから、口述魔法だよ」

「一度、見せてもらったことがあるんだ。彼女の特殊魔法」

「物体の弱点を一点に集中させる魔法なんだ」

「なるほど」その一言で、ロゼッタは理解する。一点に魔力を集め、攻撃力を増す魔術。まるで球体にヒビが入ったような状態を作り出せる魔法。

「どうしたら……」

「いい考えがあるんだ」


「何話してるのか」

「さあ」スニッカスニーは小首をかしげる。

「話はすんだ? りゅー」

「ああ」

「降参する?」

「いいや、それはないよ」

 ボロボロの身体で、雨竜は向かってくる。

「どうする?」ラムザは困ったような顔をスニッカスニーに向ける。

「いいんじゃない? 死なない程度で相手してあげましょ」

 雨竜の札は、ラムザの拳に反応する。しかし、スニッカスニーの特殊魔法によって、脆く崩れ去る。雨竜はラムザの拳を寸前で避ける。前髪が焦げ付く。次喰らったら、アウトだ。

 先ほどの一撃で、脚が震えている。立っているのもやっとの状態だ。

「くっ」雨竜は札を出し続ける。

「無駄なんだよ、そんなことしてもなぁ」

 防壁が、崩れ去り、そして、ついに、雨竜に特殊魔法が発動されてしまった。雨竜の身体の中心が、薄暗い雨雲の中心のように、一点の穴のようなものが、見えた。ここにあの拳を喰らったら、死ぬだろうと、雨竜は直感的に悟った。防壁魔法も間に合わない。もう、終わりだ。ごめん、ロゼッタ。

 拳は振り抜かれた。感触も十分だった。しかし、拳は雨竜には向かわなかった。

「ロゼッタ!」雨竜は振り返る。

「う、おおおおっ」

 雨竜は再び札を発動させる。

「無駄だって言ってるだろう!」

 スニッカスニーの口元から、魔法が唱えられ、防壁の札に降り注ぐ、はずだった。

 突如その防壁魔法は解除されたのだ。

「なっ」

 行き場を失った魔法は、札ではなく、ラムザへと降り注いだ。ラムザの身体の真ん中に、弱点となる黒い渦が巻き起こる。

「もらった!」

 雨竜は 中心を拳で突く。

 一発。それで充分だった。ラムザはその場に倒れ落ちた。

 彼は白目を剥き、泡を吹いていた。

「手加減したはずなんだけど……」自らの拳を見る雨竜。

「自業自得よ」

「まったく……」

 困った顔をしたアンデルセンが、ロゼッタと雨竜のすぐそばにいた。

「先生!」

「彼を医務室に連れて行きます」アンデルセンは、ラムザを抱えあげると、風のように去って行った。

 その様子を、尖塔のてっぺんから、三本脚のからすが見つめていた。


  ウイッチズ×カマード 四日目終了―――

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