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 湖に一匹の白い獣が悠然と立っている。

 赤い瞳に白く輝く身体。こちらをじっと見つめている。

「もうすぐ、会えるね」

「嗚呼、もうすぐだ」

 獣は嬉しそうに頷く。そこで、世界は白く染まった。


「ついに、今日ね」

 ロゼッタは嬉しそうに空を見上げる。

 尖塔の巨大な時計は、七時を差していた。

「あの短針が九を差すと、ウイッチズ×カマードが始まる……」

「計画通りに行きましょう」ロゼッタは微笑む。


 短針が、Ⅸを指し示す。黄金の鐘が鳴り響き、ウイッチズ×カマードの開始を告げる。魔法使いたちはその合図を皮切りに、戦いを開始する。

 校内では戦いは禁止されているため、校庭や戦闘場、競技場などで、戦いの狼煙が上がる。

 その戦闘音を尻目に、ロン・ハインケルとアリス・クインザッカーはある人物を探していた。

 確実に一勝できる相手。

 極東から来た留学生。攻撃魔法を使えない、Eランク。

「いた」

 ロン・ハインケルは目ざとく雨竜を見つけると、その後をつけた。彼は雨竜が自分より弱い者であるということを知っていた。雨竜は鬱蒼と茂る森のなかへ入って行った。ペアの姿は見えないが、おそらく森の中にいるんだろう……

「いくぞ」彼はパートナーのアリス・クインザッカーに声をかける。

「うん、行こう」陽気な声で彼女は答え、ロンについて来る。

「これで一勝、だな」

 彼らは森に入って行く。日差しが遮られ、急に暗くなる。ケヤキやクヌギの生い茂る森。獣道を通り、雨竜の後ろ姿を追う。

 

「これで一勝、ね」

 ロンとアリスの入って行った、森の入り口でロゼッタは満足そうに頷いた。


「ねぇ」

「どこまでいくの?」

「わからねぇよ」

 あれから数時間が過ぎていた。雨竜の姿は視界から完全に消えていた。

「もう、帰ろうよ」

「馬鹿、一日最低でも一勝しないと負けなんだぞ」

 ロンはアリスを諭す。彼女の瞳は潤んでいた。今にも泣きそうなその顔に、ロンは思わず視線を逸らす。

「別に、雨竜君じゃなくてもいいじゃん」アリスはそう言って、小石を蹴った。小石は切株に当たって乾いた音を立てた。

「でもよ、ここ、どこだ?」

 ロンは辺りを見渡す。完全に迷っていた。急に寒気がロンを襲い、冷や汗が流れた。


 やがて日は暮れ、カラスが鳴き始めた。

「もう、歩けないよぉ」アリスは地面に腰かけた。

「たく」

 ロンは舌打ちをして、アリスを見下ろす。

「なによぉ」

 不満そうにアリスはロンを見る。

「なんでもねぇよ、それより今、何時だ?」

 アリスはポケットから大きな銀時計を取り出す。

「四時だけど」

「五時までに戻らねえとまずい、失格になっちまう」


「おうい」

 木々の隙間から、声が聞こえた。

「雨竜か! どこにいる」

 ロンは辺りを見渡すが、姿は認められない。魔術で声を飛ばしているらしい。一年生の時に習う、基礎魔法のひとつだ。

「帰りたいんなら、負けを認めなさい」

 雨竜のパートナーの声が聞こえてきた。声は女なのか、男なのか、分からないように、加工してあるようだった。

「もう、帰りたいよぉ」

 アリスは疲れた表情でそう言うと、ロンはため息を漏らした。

「わかった、負けを認める」

 突如、ロンの周りに青い炎が三つ灯り、その一つが消えた。

「これでいいだろ」

「結構」

 草むらが揺れる。何かがこっちにやって来る。雨竜だろうか?

「わー、可愛い」

 現れたのは、見たこともない柄の猫だった。

 猫は、ついてこいとばかりにロンたちの前に立ち、歩き始めた。

「その使い魔に帰り道を案内させるわ」

 ロンとアリスは顔を見合わせ、その猫について行った。


「なんだ、すぐ近くだったのか」

 数分後、彼らは森の入口についていた。どうやら同じ所をぐるぐる回っていたようだ。

「今から、相手を探そうよ」

 アリスはロンの袖を引っ張る。

「もう、負けだよ。まんまとやられた」

 ロンは自嘲気味に笑って見せる。

「ごめん、私のせいで」

「いいんだ、あれが罠だったことを見抜けなかった俺の責任だ」

「帰ろう」

「……うん」アリスは泣いていた。けれど、ロンはそのことを言わなかった。ただ黙って、ふたりで夕焼けに向かって歩き出した。


「計画通り、一勝」嬉しそうにロゼッタは微笑む。

「やっぱり、気が進まないな」

「なによ、勝ちは勝ち」

「一日一勝しなきゃならないの! それより、今日はお疲れ様、あんた、召喚魔法も使えるのね、大したもんだわ」

「まあね」

「あいつらが森を彷徨っている間、こっちは呪術解除する時間も確保できたし」

「じゃあ、そろそろ五時になるから、帰ろうか」

「そうね、また明日」

 ロゼッタは機嫌よく手を振って帰って行った。その後ろ姿をみて、雨竜はため息をついた。

「やっぱり、組むんじゃなかったのかな」




              ―――ウイッチズ×カマード一日目、終了―――



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