三日前
ウイッチズ×カマードの三日前、それぞれの思いが交錯します。
これからの展開にご期待ください。
「じゃあ、手を出して」雨竜がそう言い、ロゼッタは細く華奢な腕を差しだす。
ロゼッタの白い腕は太い闇色の蛇が絡みついている。雨竜はその蛇をじっと観察する。
「どう?」
雨竜は少しの沈黙の後、
「10日くらいあれば解除できそうだ」
「10日……」ロゼッタは苦虫を噛み殺したような表情をする。
「呪術をかけた相手を探し出せば、その日に解除できるんだけど」
「簡単に尻尾は出さないわよ、それよりさっさと始めなさい」
黙って手を差し出すロゼッタに、困ったように雨竜は笑って見せる。
「わかったよ」
雨竜はロゼッタの両腕を触る。
「な、なに触ってるの!」
真っ赤になって腕を払う。
「なにって、呪術解除の魔法だよ」
「そ、そう、なら、いいのだけど……、早くやりなさい」
顔を赤く染めながらロゼッタは再び手を差し出す。雨竜はその手を掴むと解除魔法の呪文を唱え始める。それは、歌のようにロゼッタの耳にしみ込んできた。
ぼうっと手が柔らかい光に包まれる。手が温かくなっているのを感じる。
黒い蛇は苦しそうにうねる。
「どうやら、効いているようね」
「そうだね」
うなずいた雨竜。彼の額からは大粒の汗が流れ出ていた。
「ちょ、ちょっとタイム!」
ロゼッタは手を再び引き剥がす。
「今度は何だよ」
不満そうに見上げる雨竜。
「あんた、汗まみれじゃない。解除魔法って、そんなに魔力を使うの?」
「呪いをかけるために魔力はほとんど必要ないよ、けれど呪いを解除するには膨大な魔力が必要なんだ」
「そう……、申し訳ないわね。今度何か奢ってあげるわ」
雨竜は少し笑う。
「初めて会った時は高飛車なお嬢様だと思っていたけれど、違うみたいだね」
「かつて世界を救った栄光の魔導師の末裔よ。民の気持ちが分からなくて、世界は救えないわ」
ふん、と鼻を鳴らし、ロゼッタは、雨竜に手を差し出した。
その部屋は絢爛豪華な家具が並び、朱色の絨毯が敷かれていた。宮殿の一室かと見間違えるほどであるが、ここはカイエル魔道学校の女子寮最上階にある一室である。カイエル魔道学校は全寮制であるが、成績上位者にはこのような部屋が与えられる。
机の上には、レモンの浮いたティーカップが二つ。湯気を立てている。
ふたりの男女が対面して座っている。
一人は長く伸ばした金髪が印象的な少年。黒いタキシードを着込み、胸には一輪の薔薇が揺れている。
彼は浮かない表情で、胸の薔薇を見下ろす。
彼の前には、深窓の令嬢といった雰囲気の清楚なレモン色の髪の少女。純白のドレスを身にまとい、黒い革の眼帯を右目にはめた彼女の名は、ユリウス・ペンドラゴン、かつて竜が空を舞っていた頃、竜とともに世界を駆けた伝説に名高い魔法使いの末裔。
「ロゼッタは、名もないEランクとタッグを組むそうね」
「そう、らしいね」
ペンドラゴンのまえに立つ、憂愁の少年は、元気なくそう告げると、ゆっくりとカップに口をつける。
「残念ね」
「……」
少年は何も言わず、カップを置いた。
乾いた音が、部屋に響く。
「ん、浮かない顔だな」
グウィンがオズワルトの顔を下から覗きこむ。オズは顔を赤らめ、伏せる。
「顔、見えないだろ」
恥ずかしがるように、オズはそう言う。
「王子様を救う花嫁役はつらいな」
うんうん、とグウィンは頷く。
「そんなんじゃないよ」
「がはははっ、お前の王子様、面白い奴じゃないか!」
「うるさい……」オズワルトは口を膨らます。
「楽しみだ」グウィンは嬉しそうに遠くを見る。犬歯が覗く。
暗く、広い空間に続く螺旋階段を下る、人影。手に持つオレンジ色のランプが揺れる。
ランプはやがて階段を揺れながら、広い空間へと下りていく。乾いた靴の音が、響く。
下り終わり、足音は止まる。ランプを持つ影は、何もない空間を見上げる。
「ああ、うつくしい」
そこにはただ、どこまでも続く闇が存在している。
影は恍惚の声色を上げる。
――― ウイッチズ×カマードまで、残り、3日 ―――




