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構内の湖畔、ルイズ・オズワルトはキャンパスに湖を描いていた。さざ波が聞こえてきそうなほど精巧で、音楽が聞こえてきそうなほど抽象的な湖の絵である。オズワルトは漆黒のフードを着こみ、その素顔はうかがい知れない。
オズワルトの隣には、簡素な黒の麻着物を着た黒髪の少年が立つ。細身の体ながら、筋肉が盛り上がり見事な体躯を作り出している。丹念に鍛え上げられたその肉体は彫刻のように美しい。
「来たぞ」
黒髪の少年は小さい声でオズに耳打ちをする。
「そう……」
しばらくして走って来たのは、雨竜宗佑であった。彼は息を切らせながら、湖面を眺めるオズワルトに向かう。
「オズ、僕は……」
「帰ってくれないかい」オズワルトの口から冷たい言葉がこぼれた。
「今回はグウィンと参加するよ。君はロゼッタ・ミルドレッド嬢とコンビを組むそうだね。よかったじゃないか、ぼくと組むより断然いい」
「どうして、約束したじゃないか!」
雨竜は声を荒げる。
すると、今まで水面を見ていたグウィン・エルドラドが雨竜の方に向かい合う。
「だとよ、雑魚は消えな」
途端、グウィンを取り巻く風が雨竜に襲いかかり、雨竜は後ろに吹き飛ばされた。
「く、そっ」
「くっくくく、こんな術もまともに防げないのか」嫌みたらしくグウィンは笑みを見せる。尖った犬歯を覗かせる。
「そういことだから、もう帰ってよ」
オズワルトは今だ湖を見ていて、雨竜の方に振り向こうともしない。
「帰れるかよ」
雨竜は立ち上がる。彼の周りに彼の所持する魔力が拡散し、渦を巻く。
「おもしれえ、俺と殺る気か!」
「そこまで!」
間に割って入ったのは、白いコートを着た長身の男であった。歳は30代くらい、艶のある栗色の髪の毛に、整った目鼻。胸にはこの学校の教員の証である金色の獅子が掘られた銅製のペンダントをつけている。
「授業以外での魔法の戦闘は禁止されているのをご存じでしょう、勝敗は『ウイッチズ×カマード』でつけなさい」優しげな声で男は言うが、その瞳は笑ってはいない。男の名は、ロード・アンデルセンという。28歳という若さで魔道師に昇格した、いわゆるエリートであり、この学園の卒業生である。彼は雨竜宗佑やルイズ・オズワルトといったEランク生徒が集められるクラスの担任であった。いつもは温和な表情を浮かべ、生徒たちにも優しく魔術を教えてくれる評判の先生である。しかし、今雨竜の前にいるのは、れっきとした魔導師であり、その気迫や雰囲気は、いつものアンデルセン講師とはまるっきり異なっていた。それもそうだろう、雨竜はともかくグウィン・エルドラドは、学園きっての問題児だからだ。過去に起こした不良行為は数知れない。グウィンは『竜殺し(ドラゴンスレイヤー)』の一族の血を引く魔術師だ。かつてこの世を支配した竜。その竜を殺すために生まれた魔法使い。だが今や、世界を支配した竜は、彼の一族によって絶滅の危機に瀕し、保護されている。竜を殺すために生まれてきたはずの自分。だが、殺すことのできない竜。力の解放場所が分からず、彼はフラストレーションが溜まり、そのフラストレーションは学内の実力者に向かい、彼はそのすべてに圧倒的な勝利を収めていた。
「……おもしろくねぇ、なぁ」
それが、グウィンの口癖だった。
「相手してくれるのか、先生」
グウィンの三白眼がアンデルセンを睨みつける。
「やめなさい、グウィン君」
「……冗談だよ」
グウィンはそう言い、それからアンデルセンの向こうに立つ、雨竜を見て笑いながら、
「命拾いしたな、Eランク」と言った。
雨竜は頭に血が上って行くのを感じた。コケにされるのは慣れていたが、オズワルトの前だと話は別だ。
「いいや、助かったのはそっちだ」
「あぁ、どういうことだ」
「君はオズワルトとは釣り合わないくらいに、弱いってことさ」
「ん……だとぉ」怒りに震えるグウィンは拳を握りしめる。漆黒の魔力の渦が、とぐろを巻いて、拳を包み込む。
「そう、グウィン。君は弱い」
割り込んできたのはロゼッタ・ミルドレッドであった。彼女は湖から吹くやわらい風に髪をたなびかせながら、颯爽と雨竜の前へ進み出て、グウィンに向かい合う。
「ウイッチズ×カマードで分かるさ」怪しく微笑むロゼッタ。
「落ちつけ、雨竜」ぼそり、とロゼッタは雨竜に耳打ちする。
雨竜はその一言で自分の心が自然と落ちついていくのを感じた。
「大丈夫だよ」
雨竜は心の中で、ロゼッタに感謝する。
「勝負はウイッチズ×カマードで決めよう」
雨竜はグウィンに向かって、声を上げる。
「殺してやる……、覚えておけよEランク!」
荒々しい声でグウィンは叫んだ。
「勝つ」雨竜は小さく呟いた。
「私とおまえなら、勝てる」ロゼッタは雨竜の瞳を覗く。ロゼッタの赤い瞳が雨竜と出会う。
彼女も怒りに燃えているのが雨竜にも分かった。
二人の間に奇妙な絆が芽生え、二人はオズワルトとグウィンに向かい合う。
アンデルセンはその様子を見て、口端を少し上げた。




