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6歳の地図 〜2Eの娘が好きな子をお友達と呼ぶまで〜

娘は、自分の遊びたい子を「好きな子」と呼んでいた。


「お友達なの?」


と聞くと、


「ちがう」


と言う。


娘にとって、好きな子とお友達は明確に違うらしい。


小学校で遊びたい子は好きな子。


幼稚園から仲の良い子はお友達。


私には、その違いがよく分からなかった。


好きなら友達ではないのか。


一緒に遊ぶなら友達ではないのか。


けれどある日、娘が突然言った。


「小学校にお友達が三人いるよ」


そのうち二人は、少し前まで娘が「好きな子」と呼んでいた子たちだった。


何が変わったのだろう。


そういえば、娘はお友達への手紙に「なつやすみあそぼうね」と書けなかった。


夏休みに一緒に何をするかが、具体的に見えなかった。夏休みでは抽象的すぎる。けれど、「らいねんもいっしょにおはなみしようね」は書けた。


先日一緒に楽しんだお花見は、来年も一緒にしているイメージができた。だから書けた。


あの時の違和感と、今回のお友達と呼んだ過程が、なんだか似ている気がする。


その手紙の相手は、娘が3歳のときに出会った子だ。初対面で、娘とその子はいきなり仲良くなった。その子のお母さんと顔を見合わせ、私たちはすぐに連絡先を交換した。


その後、約束していなくても何度もばったり出会った。その子の家は隣の市だ。それでも会ってしまう。引き寄せ合ってるよねと、母同士、その度に笑い合った。


頻繁には会えないけれど、一緒に遊ぶと必ずステージが始まる。児童館で、公園で、河原で、橋の上で、滑り台の上で。娘が踊りだすと、その子も一緒に踊ってくれる。桜の下でも、一緒に踊った。


ブロックをすると、一緒にやってくれる。娘がブロックに集中しすぎると、その子は途中で他のことをしている。でもまた、娘が違うことをはじめたら、一緒にはじめてくれる。


娘の世界に、ずっと、ついてきてくれる。


その子と遊ぶのに、言葉はいらない。


けれど、そんな子には、なかなか出会えない。だから娘は、遊びたい内容によって相手を変える。


幼稚園では、おままごとをする子、ブランコをする子、お話をする子、それぞれ違う子だった。


娘は目的によって遊び相手を決めていた。場所も決まっていた。


あの遊具ではおままごと。ブランコではお話。決まっていた方が早いから。考えると迷ってしまうから。


けれど、お話をする子と、もっと違うお話もしたかった。でも、幼稚園にブラックホールやアノマロカリスのお話ができる子はいなかった。


以前、娘がぽつりと言ったことがある。「ブラックホールの話をしても、誰も聞いてくれない」。


話したいことがあった。一緒に面白がってほしいことがあった。けれど、その話を共有できる相手は、幼稚園にはいなかった。


ある日、公園で偶然会った幼稚園の子と、娘は遊べないことがあった。その子は、娘にとって幼稚園で遊ぶ子だった。その公園と、その子が結びついていなかった。だから、遊びたいのに、遊べなかった。


手紙のあの子は、娘のステージになるところなら、どこにでもいる。だから、どこで会っても続きを始められる。


小学校に入ってしばらく、娘は「お友達はいない」と言っていた。一緒に遊ぶ子はいた。話をする子もいた。それでも娘の中では、お友達ではなかった。


娘にとってお友達は、少し遊ぶだけの子ではない。


誰と、どこで、何をするのか。


それと娘の世界の地図がつながって、初めて、お友達と呼ぶのかもしれない。


広い小学校では、まだ地図が作れていなかった。娘の行動範囲は、教室と、隣の図書室と、一番近い中庭。その中で、三人の男の子と地図を作った。


一人は2年生。入学前から知っている、会えば遊ぶ子。娘はその子を好きだと言った。でも、お友達ではないと言った。


同じ小学校に通うようになってから、その子とはよく中庭で会って、砂場で遊んだり、鬼ごっこをしているらしい。娘の地図に、2年生の男の子と、小学校の中庭、砂場、鬼ごっこが加わった。


次に、4年生。この子のことは、私はよくわからない。クラスも違う。娘はこれまでも、仲良くなる子を自分で選んできた。私にはわからない子とのエピソードが、これからどんどん増えていくのだろう。


そして、もう一人は6年生。入学早々娘が好きになった、支援学級のクラスメイトだ。


4月から娘はその子のことを、ずっと好きだと言っていた。最初から地図に、6年生、教室まではできていたのだと思う。けれど、何をするかの情報が足りなかった。


きっと、その子と教室で、一緒にする何かが書き加えられたのだろう。だから娘は「小学校に三人お友達がいる」と言った。


年上の男の子たちは、お世話しようとしてこない。娘を小さい子扱いせず、突拍子のない話を聞いてくれる。


娘は、自分の世界を壊さずにいてくれる相手であれば、誰でも受け入れる。そして、お友達になりたい子を、自分で選べる。


ブラックホールの話ができる人。一緒に踊ってくれる人。隣でブロックをしてくれる人。偶然出会っても、すぐに続きを始められる人。


娘は、自分の世界の地図を広げている。その地図を一緒に作ったとき、初めて、その相手を友達と呼ぶのかもしれない。


大人になったときにも、そんな人が周りにたくさんいてくれたらと思う。3歳であの女の子に出会えたように。小学校で、男の子たちに出会えたように。きっとこれからも、たくさんの出会いがある。そして娘の世界は広がり続ける。


小学校。


放デイ。


私が見ていない場所。


連絡帳だけでしか知らない時間。


そんな場所が少しずつ増えてきた。


少し淋しい。


けれど、それが娘の成長なのだと思う。


娘はこれからも、自分で選んで、自分で地図を広げていく。


私はもう、その地図の全部を見ることはできない。


けれど、ときどき見せてくれる新しい景色と、イキイキとその話をする娘の顔を、楽しみにしていたい。



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