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金の森の娘  作者: 長谷なた
第三章
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神宮の男

 金糸樹の枝は人の腰ほどの高さの台座の上で、いつ果てるともなく魔力を放出し続けている。細い枝が絡まり合い球体を成している小型の金糸樹を、この場所に持ち込んだのは、壁際で恍惚の表情を浮かべて佇むドロテだ。

 大神宮の巫女であったドロテが、テミスの金糸の森から金糸樹の枝を盗み、スレッドの神宮に持ち込んでから、はやも十五年の歳月が過ぎている。

 もともとドロテはジィドの流れを汲み、森の聖乙女の血をわずかながら受け継いでいたために、大神宮の巫女として起用された経緯があった。テミスにおいては、大変に名誉なこととされている。決められた三年を勤め上げれば、その後は神宮に残るもよし、市井で働くもよしだ。巫女であった経歴を生かして良縁にも恵まれる。

 ただドロテは、どこかしら不満を抱えていた。それがどのようなものなのか、彼女にもはっきりとわからなかったに違いない。だからこそ会合のために大神宮へ来たスレッドの神宮長に、簡単になびいてしまったのだ。いや、正確には神宮長の精神を支配していた男に、だ。間違いなくドロテは、神宮長の背後に見目麗しい長身の男を見ていた。

 その頃の男は、人に見せるための姿を維持できるだけのエネルギーを確保できないでいた。人の形をとることによって、自身の能力を駆使することができるのは自明だ。神宮長を精神支配するために、男はどうにか数十分間だけ、元の姿をとり、神宮長の精神に干渉することができたのだ。

 思えば男がこの世界に来てから、二百年ほどが過ぎていた。男は力のない精神体でしか“道”を通ることができなかったため、脆弱な状態のままスレッドの召喚の間にたどりつくこととなった。それから男は、この世界のエネルギーを取り込み、どうにか力を蓄えてきた。現在に至りようやく、他者の精神に干渉できるほどになったわけだ。

 男は神宮長の持つテミスに関する情報を得てから、金糸樹に異様な執着を持ち始めていた。つまり金糸樹は、汲めども尽きない半永久的なエネルギーの源ではないか、と看做したからだった。

 男がドロテの心の弱さにつけこむのは容易かった。ドロテは即座に神宮長を通した男の支配下に置かれ、金糸樹の枝を盗み出し、コスモロード国へ逃亡するという罪を犯すこととなった。そしてドロテは、いまだに男の強力な影響下に置かれている。



 小ぶりの球状の金糸樹をじっと見つめてる男の銀の目には、喜悦が浮かんでいる。自らの思考のおもむくままに、永久機関とも言えるような存在を掌握できて久しい。これならば、ふたたび人の形を得る時も近い。

 男は召喚の間──今では金糸樹の間と呼ばれる──を出入口とした“道”から、彼方の世界から精神体の欠片を呼び集めていた。それほどに男の能力は高い。精神体の欠片は残留思念とも呼ばれる。

ただの人の残留思念ではない。それは、彼方の世界で不当に扱われた後に骸となった“能力者”の思念の欠片だ。だからこそ、金糸樹の枝が吐き出した黒いエネルギーの核ともなる。

 男は、ゆっくりと両手を広げる。


『我があるべき姿を取り戻し、この地に礎を築こう』


 銀の目と銀の髪の、かりそめの姿の男が緩慢な動作で振り返る。そこには、倒れ伏したユイカの姿があった。


「これは111ではない。しかし、111の似姿がこれで、しかも血のつながりがあるのなら、彼女の復活にも貢献できるだろう。この私が肉体を取り戻すために、獣の形をとっているほどなのだから」


 男の銀の目は氷よりも冷ややかで、深い淵のように底が知れない。




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