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金の森の娘  作者: 長谷なた
第三章
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作戦

 しばらく無言で歩を進めてゆくと、やがて左右に分かれた廊下に降り立った。


「どちらに向かう?」


 最低限にまで声を落としてグラーヴェが問うと、デイは中空に停止したままになった。

 グラーヴェのことを無視しているわけではなさそうだが、どうも内々に相談しているような雰囲気がある。デイの中で二重構造になっている情報の精査は、人であれば、内的問答とでも呼ぶべきものなのかもしれない。


「右デス」


 地下の廊下も、照明によって方向性を間違えることのない程度には判別できる。デイの指示通りに右へ向かうと、やがて突き当りに扉が見えてきた。地下へ下りる際の入り口とは違う趣の扉だ。どうやらかなり厚い扉のようで、耳を当てても反対側の物音が聞こえてこない。

 デイはふたたび考えを巡らすように停止した。


「この扉の奥には、もう一枚の扉がありマス。完全な防音になってオリ、ここでの音は聞こえないと判断しマス」

「神宮騎士によって警護されている可能性は?」

「神宮内の人員は、機会さえあればこの部屋に集まるようになっているようデス。わずかな時間も惜しんで、というところでしょうカ」


 なぜデイにそういった事情がわかるのか。グラーヴェは不信の目を浮かぶ球体に向けた。


「簡単デス。盗聴器を神宮内の各所に仕込みました」


 やれやれとばかりに首をふったグラーヴェは、「このまま中へ入る」と言い出した。


「私の顔を知っているかもしれない。だが、神官のローブをまとっているから、遅れてやってきた神官と思われるかもしれない」

「先の見解の可能性は七割、後の可能性は二割デス」

「残りの一割は?」

「不明」

「では、七割の方の場合は、私の武力に賭けるしかないか」

「グラーヴェ・タロス・ウルガリアの受けた傷は重篤で、従来の三割程度しか力が発揮できまセン」

「分析が細かいな。しかし、まったく無いよりは増しだ」


 口の端に笑みを浮かべたグラーヴェは、「では、行こう」とためらいなく前へと進んだ。


「待ってくだサイ、グラーヴェ・タロス・ウルガリア。このまま『召喚の間』に突入しても、『銀の目』に関してハ、無駄骨を折ることとなりマス。ただし、金糸樹の枝とユイカ双方を取り戻す機会は、この一度きりと考えた方がよいのですガ」

「もちろん。ユイカ・カンバーをないがしろにするつもりはない。むしろ、それが目的ではある」

「意外デス。アナタの目的は『銀の目』だけにあったはずですガ」

「確かに。しかしユイカ・カンバーを犠牲にしてまで『銀の目』を斃そうとするのは違うだろう?」

「アナタが非情に冷静なのは、持って生まれた気質のおかげでしょうカ」

「さてな。しかし、人には越えてはならない一線があるのは確かだ」


 きっぱりと言い切ったグラーヴェに、デイは沈黙をもって同意する。ふたたび内省をしていたが、やがて言い切った。


「ユイカ・キヅキも同意見デス。では、作戦を伝えマス。ただしグラーヴェ・タロス・ウルガリアには、ある程度の無理をしてもらう必要がありマス」

「かまわん。ユイカ・カンバーの提供してくれた痛み止めには、かなりの効果があるようだ。で、何か有効な戦略があるのか?」

「ハイ。グラーヴェ・タロス・ウルガリアには、ユイカのことを任せマス。おそらく彼女は行動不能状態になっていますノデ」


 淡々と語るデイに、グラーヴェは心が穏やかではいられなくなっていた。


「行動不能だと? まさか、し……」

「イイエ、呼びかけに反応はありませんガ、バイタルサインは正常デス。ただ動けなくなっているだけデス」

「ばいたるさいん?」

「自分はユイカの生存証明を常に把握していマス。今、それに関する説明をしている時間はありまセン。中には神宮内の人間の90%がいるようデス。ですが彼らの戦闘力は、重傷を負っているにしても、グラーヴェ・タロス・ウルガリアの比ではありまセン。注意すべきは一名だけデス。ですから、すべてを無視してユイカを連れ出してほしいのデス」

「金糸樹の枝はどうするのだ」

「同時に持ち出すことができれば良いのですガ、グラーヴェ・タロス・ウルガリアはひとりですしネ」


 むっ、と唇をゆがめたグラーヴェだが、確かにユイカと金糸樹の枝両方を強奪するのは難しい。


「好機がやってくるのを待つしかありまセン。ただ中にいる人物は、グラーヴェ・タロス・ウルガリアに直接危害を加えることはできない可能性がありマス」

「どういう意味だ」

「そのままの意味デス」


 とぼけているが、『金糸樹の間』にいる者達の中心にいるのが何者なのか、デイには確信があるようだ。


『自分がその者の注意を引きマス。それに、その人物がユイカ・キヅキの知るエリファスならば──」


 心なしか、デイの音声に自信が感じられた。



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