召喚の間
デイとグラーヴェが辿りついたのは、一枚の扉の前だった。ここまでひとりも神宮関係者に遭遇することがなかったのは、偶然というよりは不自然だ。まるで誰もがどこかへ呼び出されて、どこかに集合しているかのようだった。
扉の具合を確認するように、デイはしばしその前の中空を左右へ往復していた。
「グラーヴェ・タロス・ウルガリア。この扉を開けてくだサイ」
「この扉は、部屋に入るためのものではないな。どこに通じている?」
「おそらく、神宮地下」
「なぜ、ここに入る?」
「ユイカの痕跡が、この先で途絶えているからデス」
息を呑んだグラーヴェは、きっ、とデイを見据える。
「先に言っていたように、ユイカを囮としたのか」
「生存は確実だ。ただ、このままではユイカの存在自体が危うい」
今の言葉はデイ本体というよりも、まるでユイカ・キヅキのもののようだった。
「どういう意味だ?」
「ユイカ・カンバーという自我が乗っ取られる」
グラーヴェは目を見開いた。つまり、ユイカ・カンバーであってユイカ・カンバーではなくなるということか。
ここで言葉遣いがデイ本体に戻った。
「ユイカ・カンバーであるのは変わりはないのですガ、精神操作によって自我を封印されるかもしれまセン。ユイカ・カンバーの能力値は高いが、ユイカ・キヅキほどではありませんカラ」
「しかし、どうして、そのエリファスという者は、ユイカ・カンバーを虜にすると考えるのだ? もっとも、神宮内の人間を操っているのだろうが」
「ユイカ・カンバーは、エリファスにとって特別な人間となり得るのデス。その能力も含め、ユイカ・キヅキに瓜二つなのデス」
「つまり、上官であったエリファスという人物は、ユイカ・キヅキに固執していたというのか」
「それも、かなり偏執狂的にデス」
ぐっ、と息をつめたグラーヴェは、そのまま扉のノブに手をかけた。扉板に耳を押しあて、しばらく向こう側の様子を探る。
「大丈夫デス。すでに神宮内の状況は把握していマス。現在、一般礼拝所で参拝者の対応をしている者以外の神宮関係者の姿はありまセン」
「どういうことだ」
「地下に──。一箇所に集まっているようデス」
「なぜ?」
返事のないまま、デイはずい、とグラーヴェを促す。どうやらそこまで具体的な理由はつかんでいないらしい。
「……開かない」
「引いてもダメでスカ?」
「ああ……。いや、待て」
扉は引き戸になっていた。ただ、ずい分と思い扉で、怪我をしたグラーヴェでは隙間を作るのが精いっぱいだった。
「情けない。こんな扉、普段なら労せずして開けられるものを」
「これだけ開けば十分デス」
デイはグラーヴェの開けた隙間から、すい、と中へ入る。グラーヴェもまた、体を横にして、扉にできた隙間を通り抜けた。どうやら痛み止めがかなり効いているようで、痛みはそれほど感じない。
グラーヴェとデイが立ったのは、地下へ降りるとおぼしき階段の下り口だった。
会談は人がふたりほど並んで下りられるほどの幅があり、壁には魔法具の照明が灯っている。
「神宮に、このような地下があるとは知らなかったな」
「コレは、かつて召喚術を行使していた場所へつながる階段デス」
グラーヴェは驚き、目の前に浮かぶデイを凝視した。
「今では召喚術は封印されたと聞いているが」
「ハイ、その通りデス。この階段を下りれば『召喚の間』に行ける、というのは、ユイカ・キヅキからの情報デス」
「なるほど。ユイカ・キヅキは異世界より召喚されたのだったな」
グラーヴェがうなずくと、デイはすい、と軽く飛んで、階段をおりはじめた。グラーヴェも、それ以上は何も言わずにデイの後に従った。




