25 勇者凱旋! ものども宴じゃあ〜‼︎
◇ ◇ ◇
「お帰りケイゴ。よくやったね!」
「おうおう勇者! 見てたぞあの決戦! やっぱすげぇなお前!」
「お兄ちゃんっおかえりなさい〜」
悲喜こもごもな魔王討伐の帰路は、それはもうパレード然としたお祭り騒ぎだった。
聞き覚えのある仲間たちからの歓声や、聞き覚えのない皆さんからの賛辞のお声などなど、すっかり王都は人間らしい賑わいを見せていた。
っていうか最後のやつジュアンだろ。
人混みに紛れても目立つ赤色のツインテールをぶんぶんと振り回しながら近づいて来る存在が視認できた。
俺の歩く道だけ人が避けて空間を作っており、それ以外には人の山が列をなしてすし詰めの飽和状態となっていた。
花道を進軍し続けた先には、我らが王都の国王と思わしき荘厳な衣装に身をおいた人物と、複数の警備兵たちが立っていた。
ある程度まで近づくと片足を地に着け、傅くような敬礼の姿勢を取る。
多分王様とか偉い人の前ではこうするのが礼儀なはずだ。
アニメやゲームなどで中途半端に覚えたぎこちない知識を披露して、俺は王様の言葉を待った。
「良くぞ戻ってきた。キミの事は噂もかねがね知っておるよ。私はクリスティア・サルル・マーン四世。この広き王都に聳え立つサルマーン城を治める国王だよ」
「はっ。自分はケイゴと申します。この度は私めのためにご足労いただき誠にありがとうございます。そして、王立魔導騎士団の皆さんを派遣してくださった件、共に戦ってくれた仲間たちへの迅速かつ最適なご配慮を指揮してくださった件、重ねてお礼を申し上げたい所存でございます」
咄嗟に口から出た言葉は自分でもちょっとあやふやな語彙に文法だったと感じるし、多分声も姿勢も震えていたんじゃないかと思う。
が、これでとりあえず問題はなかろう。
王はその尊顔をきょとんとさせた後、しばしお笑いになられていた。というか何で心の声まで敬語使わなきゃいかんのだ。
「はっはっはっ。いや実はな。そういった指示を仰いだのは他でもないカンティレスなのだよ」
「ルーリレア博士殿が?」
ついに俺の中で博士にまでランクアップしたイケメンは、王に言われるとその背後からぬるっと姿を現した。
さっきまでパレードで俺を見送っていたような気がしたのだが、イケメンは手だけじゃなくて行動も早いというのが古来からの言い伝えだ。
「王都の危機が迫っているものですから。なんとか国王の許可をいただいて騎士団に掛け合った次第だよ」
「というか、何者なんですか貴方……」
これまでさらっとスルーしてきたけど、絶対ただの情報館の職員じゃないだろ。戦闘はできるわ、しれっと王に謁見するわ、どう考えても並の人間ではない。
「まぁ色々あるってことさ」
知りたければ後でボクの個室においで的な女殺しスマイルを浮かべて人差し指を口の前においた。
このイケメンどこまでイケメンなんだ。
「それにしても街……大分やっちまいましたけど……あの……」
俺は王の前でしどろもどろになりながらごにょごにょ呟いた。
たしかにこんなにしたのは俺だけではないが、王都の街はもうかつての栄華が見る影もないほどめちゃくちゃに倒壊しており、窓ガラスのある建築物を探す方が難しそうな印象を受ける廃墟と化していた。
王は笑って俺の心配を吹き飛ばしてくださった。
「ははは。何も心配はいらんよ。こうなる事を見越して用意していたからな」
「見越して……?」
阿保面で口を開けたまま王を見つめていると、ルーリレアが徐に杖を袖から取り出した。
それを地面にコツンと突いた瞬間、先ほどまで廃墟だったゴーストタウンが一気に華やかな都にクラスチェンジした。
「ええええええっ⁉︎」
俺はその光景が信じられなかった。いくら魔法でもそんなになんでもアリなのか?
五秒もかからず全壊した街が全快したぞ。
狐か狸につままれているような顔をしていた俺に、ルーリレア大先生は教えてくださった。
「ご考察してるところ悪いけれど、私はこの街を治した訳じゃないんだ。いくらなんでも一瞬で壊れた街を治すなんて、そんな事神様でなければできないよ」
そして手に持っている球体をこちらに見せてきた。
「これは……?」
「『魔法箱庭』さ。ここには王都の街が保存されていてね。人形の街みたいなものなんだけど、空間魔法の一部を応用して造られたから、中にあるのは本物の王都の街並みなのさ。予めこの街全体に魔法陣を張っていれば、これに保存しておいた風景がいつでも呼び出せるって訳さ」
「すげええええええ!」
というか。今さらっと仰いましたけど、それ街治すよりすごい事してません?
心の声を読んだように「そうでもないよ」とルーリレアは言ってくださった。
「保存できるのは飽くまでも無機物に限られるしね。それに保存できる範囲が決められているから、この外をやられていたらアウトだったんだよ」
そうして俺は街を見回してみた。確かにこの広い王都の全土を包んでいたというわけではなく、中には綺麗な街並みに混じって不自然に倒壊している建築物が散見していた。
つまり王都の主要かつそう簡単に治しが効かない地区を優先して保存するだけでも精一杯という事なのか。
いやまあそんだけっていっても、そもそも空間ごと保存するとかそんな離れ業が出来る時点で凄すぎるなんてもんじゃないんだけども。
「でも便利なんすね……あーっよかった。街壊した代金金貨二千万枚とか言われたら、あと二百年余生を地下帝国で労働する羽目になってたぜ」
「あっははは! そんな事心配していたのかい? キミは面白い人だなあ」
ルーリレア先生が俺の渾身のブラックギャグに腹筋を崩壊なさっていた。
いや真面目にあり得るんだわそれ。
いつも子供の頃(この年になってもたまに)見てた特撮もののヒーローとかだと、ビル何軒にも匹敵する巨大怪人と戦うために自身も巨大化したは良いが、怪人の攻撃に巨大ヒーローの攻撃にと戦火にあった街は洒落にならないほど壊されており、折角助けた街なのにどっちにしろ怪人が好き放題暴れて壊したのとそう変わらないよねみたいなオチになっていたのだ。
あの後ヒーロー君は絶対請求書書かされる憂き目に遭ったぞ。
それがトラウマになってもうロクに戦えなくなったはずだ。
最近ではそういう描写も減って、街はなんか別空間みたいな説も立てられていたが、俺は断固としてそうした「ファンタジー理論、死ね!」厨のスタンスを取り続けている害悪ファンだったことが記憶に新しい。
しかしながらこうして異世界でそのファンタジー理論を目の当たりにすると、なんかこうそういう世界もあったんですねというような感じだ。
王との謁見を済ませて、俺たちが向かった先は王都で一番大きな城、国王が住まわれる「サルマーン城」だった。
遠くから見ても空が半分になりそうな程壮大なお城だったが、こうして近くまで来るとでかさの次元が天元突破してやがる。
前にお話ししたであろう東京ドームうんちゃら個分の容量で例えても、わけわからんほどでかい。
我ながら恥ずべき程度の稚拙な語彙力であったが、諸君らも自分が見たことのないほど巨大な物を目撃した時、後から思い返せば色々語れるものの、その時は何もうまい言葉が浮かび上がらずただただ「デッケー! スッゲー‼︎ ヤバくね⁈」といった小学校低学年レベルの感想しか出てこなくなる現象を体験することになるだろう。まあそれと似たようなもんだ。
暁の野郎どもも同じようなリアクションを取っており、妙な仲間意識を覚えたものだ。
何度か見たことあるのか、或いは住んでいた経験もあるのか、レヤンロだけは別段驚きもせず落ち着いた反応で入って行った。
彼女は今どんな思いでここを通っているのだろうか。
トラウマ級の会いたくもない奴にも会わされ、二度と思い出したくないはずの王宮に案内されて、魔王を撃破し平和を取り戻した喜びなんて消え失せたんじゃないだろうか。
ここにいる俺を含めたバカ騒ぎしてる野郎どもは、そういう経験がないからこうやって楽しんでいられるが、レヤンロにとっては辛いだけなのかもしれない。
ならば迂闊に手放しで楽しむべきではないんじゃないのか。
そんな風に考えていたのが顔に出てしまっていたのか、レヤンロは俺を見るなりこう言ってきた。
「どうしたケイゴ。王様の城に招待されるなんて並のことではないのだぞ。もっと楽しそうにするがよい!」
そうしてバシン!と音がするように俺の丸くなった背中を叩いてくれた。
感触や表情からも、レヤンロが悲しそうにしている様子は見受けられなかった。
むしろどこかそう言った悲痛な過去は、あの戦いの後に切り離しているようにも思える。
決別は無事付いたのか。俺にはまだとてもそうは思えなかったが、彼女が元気付けようとしてくれているのだ。
俺がしんみりした顔してどうする。こいつらとバカ騒ぎに便乗しようじゃないか。いつもの俺のように。
「お、おう。そんな風に見えちまったかよ。俺はこの通りほれ。元気はつらつ、二十四時間戦えますとも!」
精一杯手を左右上下に、腰を曲げたり伸ばしたり大袈裟に振る舞ってみせると、レヤンロは可笑しくて堪らないというようにクスクスと笑った。
「そ〜だよ〜お兄たんも元気だちて〜」
「………………あのねぇジュアンくん。今のお前とこの絵面だけ見たら人が誤解するだろうが。いつもの重々しい仮面はどうした」
側から見たら完全にツインテロリでお兄ちゃん大好きな妹がぶら下がっているようにしか見えないんだよ。
ちょっと期待させるのやめろ。俺はとっくにお前の可愛い顔に似合わない邪悪過ぎる本心を知っちまってるんだよ。
「え〜お兄ちゃんが何を言ってるのか〜わ、か、ら、な、いっ痛!」
「そのうざってぇ喋り方やめろ! なんか俺がさせてるみたいじゃねぇか! やめろ気色悪い!」
ぶりっ子全開のジュアン・ショタモードの可愛いでこっぱちにデコピンを食らわせてみる。
くそっ。落ち着け。こんな可愛い顔で可愛い声出してお兄ちゃんとか言ってきてるが相手は男だ。それもジュアンだ。
そんなうるうる目でこちらを見つめてきても無駄だ。消えろ悪霊め。
失せろ俺の煩悩。こんな妹(弟)いてたまるか。
そうしたおふざけもほどほどに、ようやく俺たちはだだっ広いエントランスを抜けて、王の間に着いた。
暁の翼竜団の六人が竜の翼のように広がってしゃがみ込む。
その中でもシークレット・メンバーとでも言うかのように、俺が真ん中に座る。
あれ、てかここ普通ならリーダーのレヤンロのポジションじゃないのか?
しまった。なんか流れ的にここに腰を落ち着けてしまった。
こんなことならみんなの最後尾ケツにくっついとけばよかった。
後悔時すでに遅し。王様が玉座にお付きになられ、位置変えも困難となってしまった。
「では改めて礼を言わせてもらおうか、『暁の翼竜』の諸君。此度の諸君らの目覚ましい活躍、しかとこの王の目で見届けさせてもらった。まことに感謝の言葉で言い尽くせぬ限りだ。特にケイゴ。そなたはあの魔王と一騎打ちの末に、見事それを撃破した一番の功労者じゃ。褒めて遣わそう」
「は、はいっ‼︎」
王の間全体に響き渡るんじゃないかってくらいでかい声が腹の底からでた。しかも裏返って。
あの時は外の広い空間だったから、緊張もなんか四散していたけど、こうして王の居住地たる荘厳な城に招かれて、豪華な敷物やシャンデリア、そして王様を前にしてみると、忘れていたはずの緊張で全身がぶるっちまいそうになる。
流れ出続ける下民の俺の汚い汗が、高級そうなカーペットに滴り落ちる。やばいやっぱセンターって無謀だった。
ああいう世界は華やかに見えるけど、実際やるなら俺はやっぱ部屋の隅っこで影を帯びて弾幕を上げ下げする黒子が良い。
陰のものにはこの世界は眩し過ぎて辛いよ母さん。
「それで今回の活躍を讃え、また人類の勝ち取った平和を祝し、今宵乾杯の宴を我が城で行いたい。もちろん諸君らにも立席願いたい! なにせ諸君らは平和の立役者たる英雄たちなのだからな」
王様は胸を張ってそう言うと快くお笑いになられていた。
王直々に主催するパーティーに参加できるなんて、なんだかスゴイ話になってきたな。
そりゃあ大変な事を成し遂げたとは思うのだが、元々この争いの種を蒔いたのも自分なので、ちょっと内心そこまでしてもらわなくともと思う自分がいる。
いいのだろうか。いやでもこんな機会こそもう二度とないだろうし、俺の魔王討伐の記念すべき日だ。
ここは盛大にぱーっとお祝いしてもらい存分にご好意に甘えようじゃなか。
一同が深々と礼をして、感謝と参加の意思を示すと王が手を叩いて使用人と思わしき人々を呼び集めた。
「ではまた後ほど宴で会おう。それまでは各自この王宮を好きに出回っていかれるも良し。用意しておいた部屋でくつろぐも良し。皆さんに城内を案内してやりなさい」
「かしこまりました」
俺はそう言った使用人たちの格好に注目したい。
まず全員が女性であるということ。次にその全員ともメイド服に代表されるようなふりふりのドレスに身を包んでいた事。
頭にはリボンの備え付けられたヘッドドレス。色は服と合わせて黒と白であったり、基調となる色は黒以外にも赤や青など色とりどりだった。
スカートは足元が隠れるほど長いロングというこれまた通なオタク心を揺さぶる至高の一品。近年のメイド服はいやらしくも破廉恥なけしからん短さの丈を取っており、世に言う「絶対領域」なる厨二病患者を虜にする学園異能バトルに中盤出てくる敵キャラのスキル名みたいなものをチラつかせているが、そうした言っちゃ悪いが紛い物のコスプレとは一線を画する本家の格の違いというものをひしひしと見せつけることになっていた。
メイド服といえばまさにコレというゴシックロリータに埋没するノスタルジックでファンタスティックな世界にインスティテュートがハイソサエティーでインクルーシヴィティに富んでいるホライゾンなダイバーシティでもう何言ってるのか分からない。
正真正銘本物のメイドを地でいくような可愛らしい中に気品がある、華やかな城に相応しい者たちばかりであった。
この世界にもメイドはいる。しかも喫茶に出回るようなコスプレではなく、モノホンの方々。
俺の世界ではゲームやファンタジー作品でのみ残存し、現実では模造品レプリカを残して絶滅したとばかり思われていたメイドが今こうして俺の前にいる。
それがオタクにとって、どれだけ明日を生きる勇気を貰い、心躍る出来事であったか。貴君らもオタクに身を置けば分かるであろう。
あゝ。この素晴らしさをかつていた世界の住人たちに共有できない事のなんと残念なことか。
ソーシャルメディアなどでこの案件を呟いてみせれば、たちまち世界は拡散とメイドの渦に熱狂し、世界各地に拠点を有するメイド使節団なる組織のリーダーたちが一堂に会し「メイド・イズ・ビューティフォー」の一言を残して次々と絶命し、文字通り冥土へ向かいながら「魂お還りなさいませご主人様」となるだろう。
全身でメイドに敬意を見せるような姿勢を取っていた俺に付いてくれたのは、やはりベーシックオブベーシック、黒メイド服の女性だった。
年はまだ若い。つっても俺より年上かもしれない。
ちょっと大人の魅力を醸し出す二十代といったところだろうか。美しく切り揃えられたぱっつん黒髪ロングがまた素晴らしく良い。
瞳は黒いダイヤモンド。爪はまさにガーネット。天使のようなメイド百点満点のスマイルは純金をいかに並べてもその価値は及ばない。金取れるスマイルだ。
後ろで「ふつくしい……」と汚らわしい下品な鼻息を荒げている俺を見ても、メイドさん・タイプBは暖かい笑顔と言葉を掛けてくれる。
これがレヤンロに着せればどうなるだろうか……。
あのぱっつんぱっつんのけしからん乳がよりけしからん事になって世界けしからん選手権で一位に輝いてしまうんじゃないだろうか。おお! なんと卑猥な。神よこの哀れな下卑たいやらしい発想に至る破廉恥な豚めをお許しください。
なんて馬鹿げた事を頭で言ってる間に、王様が用意してくださった俺の個室に辿り着いてしまった。
「こちらがケイゴ様のお部屋になられます。宴のご用意ができましたらこちらに伺いますので、もしお出かけなさる場合はお部屋の扉に外出中の旨を示す看板を立て掛けてくださると助かります。それと寝室もこちらにございますので、今晩はどうぞこのお城でゆっくり御休息なさってくださいね。何かご不明な点がございましたら、どうぞ遠慮なくその辺にいる私たち使用人どもにお声をおかけいただければ説明をさせていただきます」
「ふぁい」
楽しい気持ちで緩みっぱなしの締まりない頬を戻すのも忘れて部屋に入り、メイドさんが去って行くのを見つめていた。
嗚呼、楽しい時間はあっという間に過ぎ去っていく。
正直メイドさんの説明にあった外出中の「旨」を示すで「胸」の方をまた思い出した自分を海に沈めたい。
しかしあんな色とりどりの美人三昧のメイドさんに囲まれて、王様はいいなあ。
権力者になって老後に明るい余生を過ごすなら俺もあの王様みたいになりたいな。ええのうええのう。
メイドの魅惑に負けて見過ごしていた部屋だが、名高い王都の一際でかい王の城の一角なだけあり、客専用とは思えないほど高級感溢れる空間でそこかしこが純金で出来ている美しいインテリアが備えられてあった。
ベッドは安らぎの具現化であり、ふかふかとした羽毛が肌に染み渡ると、冷たい体に暖かい熱を与えてくれてそれを逃がさない完璧の二文字を与える以外他にない奇跡の品だった。
疲れてなくてもこの布団とベッドでなら四半世紀以上寝ていられる気がした。ちょっとお姫様とかが寝るような感じだし。ベッドに備え付けられたカーテンを閉めれば、本当にいつまでも眠ってしまいそうだ。
素晴らしい。いや異世界で無双し終えたらマジで王としてどっかに国とか城作ってそこで骨を埋めるのもアリかもしれない。
昔からこういうホテルとか特別な寝室とか風呂屋とか大好きだったのだが、ここにきてそれが感極まった感じだ。
王室サイコー‼︎
この世のしがらみを全て忘れて、勇者はひと時の心地よい眠りにつく事にした。
おやすみ世界。次はまた宵の宴でお会いしましょう――




